大型部品の検査治具(検具)の寸法測定
検査治具の寸法精度は、部品の寸法検査の効率に大きく影響します。これまで、検査治具の形状や寸法はテーパーゲージやダイヤルゲージなどのハンドツールで、三次元形状はレイアウトマシンやアーム式の三次元測定機で測定していました。しかし、これらの測定器具では寸法精度を維持しつつ、検査治具の大型化や施工期間の短縮などの要望に応えるには、不十分でした。
ここでは測定に必要な検査治具のアプリケーション、さらに検査効率を大きく左右する検査治具の寸法測定の効率化に着目。 検査治具の寸法測定の必要性と測定ポイントについて説明し、その効率化の事例を紹介します。
- 検査治具(検具)とは
- 検査治具(検具)による大型部品の寸法検査例
- 大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の必要性
- 大型部品の検査治具(検具)の寸法測定
- 大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の課題と解決法
- 大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の効率化
検査治具(検具)とは
検査治具は部品の検査を行うための治具で、寸法や形状など部品の精度確認や検証を行うために使用され、「検具」や「ゲージ」、「CF(Checking Fixture)治具」ともいわれます。検査治具には、寸法用や角度用、形状用や嵌合用などがありますが、いずれも寸法公差や幾何公差が設計値に適合しているかを判定するために用いられます。また、寸法と角度や形状と嵌合のように、1つの治具で複数の検査が同時に実施できる検査治具もあります。
多くの場合、検査治具はノギスやマイクロメータなどのハンドツールでは測定できない複雑な形状に対して用いられ、測定者による測定値のバラつきの低減や作業時間の差を短縮することを可能にし、効率的に部品の合否判定を行うことができます。これにより、ラインの安定した稼動とコスト削減をサポートすることができます。
検査治具(検具)による大型部品の寸法検査例
検査治具(検具)による寸法検査では、部品を位置決めピン(基準ピン)やガイドなどで位置決めし、部品と検査治具との寸法の差を測定します。大型部品では、位置決めピンやガイド以外に複数箇所をクランプで固定して位置決めし、寸法を測定します。検査治具は、個々の部品に対して存在し、さまざまな部品の測定に用いられます。ここでは、自動車部品を例に検査治具による寸法検査の例を紹介します。
ドアフレーム
ドアフレームはドアの窓枠部分のことで、車体剛性の確保やガラスの保持、水の浸入を防ぐといった役割りを持ちます。フルドアの場合は、ドアフレームはドアボディーと一緒に成形されるため、三次元形状の大きなパネルになります。フルドアのドアフレームの製造には、テーラードブランク工法やレーザーブレージング溶接といった加工法が用いられ、検査治具はこれらの加工精度の検査に用いられます。
サイドメンバー
サイドメンバーはシャーシの骨格をなす部品で、車体下部の左右に配置されています。モノコックボディーの車両の場合は、フロアパネルに溶接されています。フロントサイドメンバー・フロアサイドメンバー・リアサイドメンバーで構成されており、左右のサイドメンバーはクロスメンバーによって接合され、車体の強度やねじれ剛性を実現しています。各メンバーは溶接で接合されるため、検査では、各メンバーの合い沿いや部品(ASSY)状態での形状を検査します。
インストルメントパネル(インパネ)
インストルメントパネルとはメーター類やエアバッグシステムが設置されるパネルのことで「インパネ」ともいわれます。一般には助手席側も含めたパネル全体を指し、大型車両では幅が2mを超えます。多くは射出成形装置で作られた大型の樹脂成形品で、成形時の形状不良や成形後の冷却による変形などが発生する可能性があります。このため、大型車両のインストルメントパネルの製造では、後工程での組み付けで問題が発生しないよう、反りやゆがみなどの形状を検査します。
大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の必要性
大型部品の検査治具(検具)には、単品部品の精度確認・検証をするためのものや、単品部品を組み合わせて作成された部品(ASSY)の精度確認・検証を行うものがあります。
近年、プレス加工技術や樹脂成形技術の向上により単品部品は大型化しており、この単品部品を組み合わせて作成された部品では、わずかな誤差の積み重ねが大きな問題となります。このため、検査治具に求められる寸法・形状精度も高くなっており、検査治具製造時はもちろん、使用を続けることで発生する寸法・形状の変化の定期的な測定も必要不可欠な作業です。
大型部品の検査治具(検具)の寸法測定
検査治具(検具)では治具の位置精度が重要であるため、寸法と同時に幾何公差を測定しなければなりません。ここでは、ドアフレームなど自由曲線を持った部品の検査治具の測定を例に、重要となるポイントを紹介します。
測定のポイント
検査治具では、治具が部品に接する部分の輪郭度・平面度などの形状公差の測定が重要です。また、溶接で接合する部品を検査する治具では、クランプなどの位置度や座標などの測定が欠かせません。さらに、大型部品の形状を検査する検査治具には、部品以上の形状精度が求められます。そして、測定した値が設計通りであるかの判断をCADデータとの比較によって行い、検査結果を発行するといった管理も欠かせません。
フレーム測定ゲージの輪郭度測定とCAD比較
フレームを固定するフレーム測定ゲージの輪郭度を測定します。
たとえば、ドアフレームを検査するフレーム測定ゲージの場合、一辺の長さが数メートルになるため、わずかな誤差でも検査に支障をきたし検査ミスの原因になります。また、ドアフレームの誤差は、後工程で取り付けるドアの動作精度にも影響します。このため、特にフレーム測定ゲージの輪郭度は厳しく測定する必要があります。
これは、多くの曲面でできている大型の樹脂成形品でも同じで、これらを検査する治具では、測定値と設計値との差をデジタル化したデータとCADデータとの比較によって算出するなど、輪郭度以外の各部の寸法精度の確認が必要です。
検査治具の座標・位置度測定
サイドメンバーなどフレームの検査治具は、位置決めピン・クランプの座標・位置度を測定します。位置決めピンやクランプの座標や位置度の精度が低いと部品の正しい形状を測定することができません。特に溶接やボルトなどで組み立てたフレームの検査治具では、わずかな誤差が検査治具の精度を大きく損なう原因になります。このため、位置決めピンやクランプの座標や位置度が公差内であることの確認は、重要なポイントです。
検査成績書の発行
完成品の品質を証明する検査成績書は、納入した製品が依頼通りの寸法に仕上がっていることや、さまざまな規格に適合しているかを証明する書類です。検査治具の測定に使用した測定機や測定値などのデータも記載されます。
納品時に行われる検査では、検査報告書を確認するだけで合格とすることができるため、検査工数を大幅に削減できます。品質検査の方法は、検査の工数やコストに直結するため、検査成績書の発行は大きなメリットがあります。
大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の課題と解決法
大型部品の検査治具(検具)の寸法測定では、位置決めピンやクランプの座標・位置度・輪郭度が重要です。これらの測定には三次元的な管理項目やミクロン単位の精度が要求されることが多いためハンドツールでは限界があり、レイアウトマシンやアーム型の三次元測定機などが広く用いられてきました。
しかし、大型部品を製造現場からレイアウトマシンに運搬して測定を行う作業には多くの工数を要します。また、測りたいときにすぐにその場で測れないといった問題もありました。アーム式の三次元測定機は測定範囲が狭いため、測定機を移動させての測定が必要であり、さらに測定機の操作には熟練が必要です。
これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきています。キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、検査治具の広範囲に取り付けられたクランプや位置決めピンの位置関係なども、ワイヤレスプローブで高精度に測定することが可能です。測定範囲内なら奥まった部分にも自由にアプローチでき、測定したい部分にプローブを当てるだけの操作なので、1人で簡単に測定することができます。また、コンベックス・長尺ノギス・ダイヤルゲージなどのハンドツールに比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。また、仮想線を基準とした三次元的な寸法を直接測ることができるので、寸法はもちろん幾何公差も高い信頼性で保証することができます。
フレーム測定ゲージの輪郭度測定とCAD比較
大型部品の検査治具の大きさは数メートルに達し、自由曲線が多用されているため、ハンドツールでの測定は困難です。また、検査治具と部品の寸法の差は、テーパーゲージや隙間ゲージで測定するなど、熟練者の技術に依存した検査に頼っています。
「WMシリーズ」なら、測定箇所にプローブを当てるだけで、1人でバラつきのない定量的な測定が可能です。検査治具の各部の三次元的な位置座標や取り付け角度もプローブを当てるだけで測定は完了。さらに輪郭度なども正確に測定することができるので、従来は代替手段で測定していたような管理寸法でも、モニタ上で測定箇所を直感的に確認しながら測定することができます。測定結果は即時にデータとして保存され、3D CADファイルから読み込んだ形状と測定対象物の形状を比較測定したり測定結果をCADデータとして出力することもできます。さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な、現場で設置精度を三次元測定したいといったニーズにも対応することができます。
自動車鋳造パーツ検査治具の三次元座標測定
自動車の鋳造パーツのような大型で異形状の部品は、ハンドツールでは測定が困難なため、専用の検査治具を設計・製作し、寸法精度を保証することになります。検査治具自体も複雑な形状となるため、各嵌合部の三次元的な位置関係を把握しながら製作していくことが重要になってきます。
「WMシリーズ」なら大型で複雑な形状の検査治具でも、測定箇所にプローブを当てるだけで、三次元の座標位置を簡単に測定することが可能です。また、測定部本体もポータブルなので、治具を製作している現場の近くに測定機を設置し、その場ですぐに測定を開始することができます。測定結果も、手元のプローブの小型モニタにリアルタイムに表示されるため、設計値とのズレ量を瞬時に確認しながら、1人で手軽に測定を進めていくことが可能です。
検査成績書の発行
「WMシリーズ」は、測定結果を検査成績書に活用することができます。
検査成績書に測定値と測定箇所の写真が添付されていれば、測定状況も一目瞭然。納品や受け入れ時の確認作業の簡略化にも、大きく貢献します。
「WMシリーズ」なら、保存したデータから品質管理に必要なデータを自動で抽出し、測定した製作物の画像とともに、測定値を簡単に確認することができます。また、測定結果を自動的に検査成績書に変換できます。検査成績書は写真付きでわかりやすく、フォーマットはリッチテキスト形式のため編集も自由自在です。
大型部品の検査治具(検具)の寸法測定の効率化
「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作で大型部品の検査治具(検具)を1人で測定することができます。さらに、これまでに紹介した以外に、以下のようなメリットがあります。
- 広範囲を高精度に測定可能
- 最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
- 測定結果を3Dモデルで出力できる
- 測定した要素は、STEP/IGESファイルとしてエクスポートできます。図面のない製品でも、現物の測定結果を基に、3D CADデータを作成可能です。
- わかりやすいインターフェース
- 三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
- ポータブルで現場置きが可能
- 本体を台車に入れて、自由に持ち運べるポータブル仕様。現場に持ち込み、その場ですぐに施工状態を測定することが可能です。
「WMシリーズ」は、大型部品の検査治具(検具)の寸法測定はもちろん、3D CADデータとの照合作業などを強力にサポート。検査治具の製造から設置・メンテナンスに欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。