デジタルアーカイブでの3D測定を効率化する方法
近年、手書きの文書や土器や化石その他の文化財などをデジタルデータとして保存するデジタルアーカイブが急速に進んでいます。
背景には、社会のIT化という大きな波があり、デジタル化する中で最も大きな工数が必要であるといわれる3D測定技術の進歩があります。
ここでは、デジタルアーカイブの基礎知識とデジタルアーカイブにおける従来の測定方法の課題について解説し、その解決方法について説明します。
- デジタルアーカイブとは
- デジタルアーカイブの作り方
- デジタルアーカイブのメリット
- ハンドツールによるデジタルアーカイブの測定課題
- 非接触式3Dスキャナ「VLシリーズ」による測定作業の効率化
- まとめ:デジタルアーカイブにおける解析業務を飛躍的に効率化
デジタルアーカイブとは
デジタルアーカイブとは、有形無形のさまざまな知的資源をデジタル技術で記録するしくみのことです。完成したものだけでなく完成までのプロセスも対象としており、博物館・図書館の収蔵資料や、企業や自治体の文書の保管などで活用されています。
また、単にデジタル方式で記録するだけではなく、データの管理や共有・検索を容易にし、webサイトなどでの発信を可能にします。これにより、研究・学習の支援、経済の発展や新たな創造物などへの活用が実現します。
このことから、デジタルアーカイブは知識循環型社会における価値創造や社会の基盤として重要視されています。
デジタルアーカイブの作り方
デジタルアーカイブの構築には、実物・原版の調査や業務の設計といったプランニング、デジタル化と加工、デジタル化したデータの管理・運用、さらに活用といった作業が必要です。ここでは、これらの作業について紹介します。
調査と業務の設計
実物・原版をデジタル化する準備段階です。デジタル化が必要なものと必要でないものに分類し、必要な資料には種類や付帯情報を付けていきます。これらは、パソコンなどで入力してデジタル目録として簡単に一覧できるようにします。
これにより、デジタル化の対象となる実物・原版の種類や数量の把握と資料保管場所の省スペース化が実現できます。また、検索や共有を可能にするシステムの機能を決定し、運用マニュアルなども作成します。
資料のデジタル化と加工
デジタルアーカイブで利用する実物・原版をデジタル化します。立体物は3Dスキャナ、文書やフィルムなどはフラットヘッドスキャナなどの読み取り装置でデジタル化します。立体物のデジタル化は、形状だけでなく表面の色や細かな凹凸といった情報(テクスチャ情報)も取得します。特に土器や化石などは、素材の状態は保存状態を示すため、テクスチャ情報の取得は重要です。また、文書のデジタル化では光学文字認識(OCR)技術を用いると、高精度かつ効率的なテキストデータ化が可能です。
そして、デジタル化したデータは種類や付帯情報と関連付けて、デジタルアーカイブとして登録します。多くの場合、デジタル化する資料の数は膨大であるため、読み取り装置には、処理速度はもちろん高い作業効率や良好な操作性が求められます。
デジタルデータの活用
デジタルアーカイブに登録したデータは、模造品(レプリカ)の作成資料や展示場での表示、Webサイトでの公開など、デジタルコンテンツとして活用できます。
デジタルアーカイブのメリット
デジタルアーカイブのメリットは、整理されていないバックアップデータとは異なり、時間や場所に関係なく誰でも自由にコンテンツが利用できるということです。必要に応じてデジタルデータを共有、活用することでさまざまな価値を生み出すことができます。
資料の劣化を防ぐ
実物・原版の現状を忠実にデジタル化しているため、複製するにあたり貴重な資料となります。貴重な実物・原版は保管しておき、デジタルアーカイブを利用して複製した模造品を展示することで、原版・実物へのアクセスや閲覧回数を制限し、物理的な損傷や劣化を予防することができます。
特に木や紙など天然素材で作られた文化財は、展示・公開による褪色や劣化が激しいため、模造品の展示は文化財保護の面でも有効です。
管理コストを削減できる
デジタルアーカイブでは、デジタル化されたデータをコンピュータで管理します。膨大な量の情報もハードディスクなどの記憶装置に格納できるため、写真フィルムや紙などでの保管に比べて省スペース化が可能で、保管に関わる作業や時間も大幅に削減することができます。また、情報をバックアップすることで、ハードディスクの破損など万一の事態にも対応することができます。
共有・検索が可能
アーカイブ管理システムを構築していると、LANなどを通じてデータにアクセスできるため、検索も簡単で必要な情報をすぐに閲覧することができます。
グループ内でのデータの共有が可能であるため、文化財の調査や比較・検討なども容易に行うことができます。
Webサイトなどでの公開が可能
インターネットを通じて情報を公開することができるので、世界中の多くの人が閲覧することができます。場所や時間にとらわれず、誰もが好きなときに閲覧できるため、研究や学習、新たな創造物の作成などに役立ててもらうことができます。
ハンドツールによるデジタルアーカイブの測定課題
デジタルアーカイブでは、可能な限り実物・原版に忠実な情報を取得する必要があります。特に表面の色や質感の情報が必要である場合、三角定規やデバイダー、真弧(まこ)、キャリパー、ノギスなどのハンドツールと写真による測定では、以下のような課題がありました。
測定誤差や測定不能箇所がある
これまでのハンドツールによる測定では、割れや欠けなどをどこまで正確に記録するかは実測図を制作する人間の判断に委ねられるため、精度が左右されてしまいます。また、写真の場合、肉眼に近い立体的な形状や色などが記録できますが、レンズのゆがみがあるので立体情報の正確性に欠きます。そして、これらの方法では測定や記録に膨大な時間を要するため、データの収集がはかどりません。
色や質感などの情報が取得できない
土器や化石などは、テクスチャ情報は当時の技術や文化を知る上で、大変重要です。ハンドツールでは、形状を測定することはできても、表面の色や質感などの情報を記録することはできません。また、写真の場合は、レンズのゆがみや照明の傾きによる陰影の影響で、正確な情報を得ることは困難です。
破損のリスクがある
測定の際、ノギスやデバイダーの接触や、型取りなどの作業で実物・原版を傷付ける恐れがあります。また、信仰上、手で触れることを嫌う文化財もあり、この場合は測定すること自体が困難となります。
非接触式3Dスキャナ「VLシリーズ」による測定作業の効率化
デジタルアーカイブでは、実物の形状を可能な限り細かく測定しなければなりません。このため、形状測定には高い精度が求められます。また、色情報の取得も重要です。さらに、測定数が膨大である場合は、効率の良い操作性が求められます。
こうした測定のニーズに応えるべく、キーエンスでは3Dスキャナ型三次元測定機「VLシリーズ」を開発しました。対象物の3D形状を非接触で、かつ面で高精度で捉えることができます。また、ステージ上の対象物を最速1秒で3Dスキャンして3D形状を高精度に測定することができ、同時に色情報も取得できます。そのため、バラつきのない高精度な測定結果を瞬時に得ることが可能です。具体的なメリットを下記に挙げます。
メリット1:非接触で全方向から高精度3D測定が可能
複雑な形状の実物でも、「VLシリーズ」であれば、ステージ上に置いて、スキャンするだけで3D形状を360°から捉えます。位置決めも不要で測定機の知識や経験がなくても、すぐに高精度な測定が可能です。
従来の測定機では捉えきれなかった箇所の形状も、大型高精細CMOSカメラが実現する高精細モードにより、従来比4倍、最大1600万点でスキャンが可能。これまでできなかった微細形状も高精細に測定・解析できます。
メリット2:非破壊で肉厚や断面を解析可能
従来、非破壊による測定が困難だった断面形状も、実物を切断することなく測定できます。また、取得した3D形状データから自由に基準面が設定でき、あらゆる方向から断面を解析できます。これにより、全体から詳細まで、より克明な解析が可能になります。また、断面測定で取得したデータは、2D-CADで閲覧できるDXFデータやSTLファイルへの変換が可能。3Dプリンタなどでの模造品作成に大きく貢献します。
メリット3:色情報も取得できる
大型高精細CMOSカメラは、従来の3Dスキャナでは難しかった色情報の取得も実現します。リアリティのある3Dデータに色情報を付加することで、より実物に忠実な情報を基に正確な解析が可能になります。
まとめ:デジタルアーカイブにおける解析業務を飛躍的に効率化
「VLシリーズ」なら、最大1600万点の高精度で高速3Dスキャン。非接触で実物の正確な3D形状や色情報を瞬時に測定可能です。
- 測定時、面倒な位置決めは不要です。実物をステージに置いてワンクリックするだけの簡単操作で測定が完了します。また、同時に複数の実物をスキャンできるので、効率の良い測定作業を実現します。
- 面で捉えるため全体の形状を把握できます。また、非破壊で断面や任意の箇所のプロファイル測定ができるため、より詳細な解析を可能にします。
- 信仰上、触れることを嫌う実物や脆く壊れやすい材質であっても、非接触なので安全に高精度な形状測定が可能です。
- 色情報も同時に取得できるので、実物に忠実な模造品の作成が可能です。
「VLシリーズ」は、高精度かつ簡単操作を実現した3Dスキャナです。実物の形状や色情報を忠実かつ高速に取得できるため、デジタルアーカイブにおけるデジタル化作業や測定・解析業務の飛躍的な効率化を実現します。