第3章 機械安全規格について
- 機械安全に関する国際規格の階層構造
- ISO12100 - 機械安全の基本規格
- ISO13849-1 - 制御システムの安全関連部
- 日本における機械安全の考え方
- ライトカーテン使用時の安全距離
- レーザスキャナ使用時の安全距離
ライトカーテン使用時の安全距離
ライトカーテンを設置する際には、各国により定められる最小安全距離を遵守する必要があります。ここでは、ISO規格及びANSI規格により定められる安全距離の例を紹介します。
【例1】 ISO13855(EN ISO13855)
ISO13855: 2010(EN ISO13855:2010)に基づく安全距離算出方法(検出領域への垂直侵入の場合)
- 計算式 S=K×T+C....(A)
- S:安全距離(mm)
- K:検出領域への身体又は身体の一部の侵入速度(mm/秒)
- T:全応答速度(秒) (T=t1+t2)
- t1:ライトカーテンの最大応答速度(例:GL-R08H(有線同期)の場合は6.6ms)
- t2:防護装置からの信号を受けて機械が停止するまでにかかる最大停止時間(秒)
- C:ライトカーテンの最小検出体の直径から算出される追加距離(mm)
最小検出体が40mm以下の場合の具体例
ISO13855(EN ISO13855)に規定されるパラメータから、
K=2,000mm/s,C=8(d-14mm)となり、(A)式を使用して算出します。
Cは、d:ライトカーテンの最小検出体の直径(mm)により決定される数値となり、
0以上の数値とします。
S=2,000mm/s×(t1+t2)+8(d-14mm).....(B)
t1=6.6ms, t2=50ms, d=25mmとすると、
S=2,000mm/s×(0.0066s+0.05s)+8(25mm-14mm)
=201.2mm
※ 上記の(B)式で算出された安全距離は、100mm以上500mm以下でなければなりません。算出された安全距離が100mm未満の場合には、安全距離S=100mmとします。従って、上記の(B)式による安全距離は、S=201.2mmとなります。(ISO13855 6.2.3項およびEN ISO13855 6.2.3項より)一方、上記の(B)式で算出された安全距離が500mmを越えた場合、K=1,600mm/sとして、再度(A)式を使用して安全距離を計算します。
S=1,600mm/s×(t1+t2)+8(d-14mm).....(C)
t1=6.6ms, t2=300ms, d=25mmとすると、
S=1,600mm/s×(0.0066s+0.3s)+8(25mm-14mm)
=578.6mm
※ 上記の(C)式で算出された安全距離は、500mm以上でなければなりません。算出された結果が500mm未満の場合には、安全距離S=500mmとします。従って、上記の(C)式による安全距離は、S=578.6mmとなります。(ISO13855 6.2.3項およびEN ISO13855 6.2.3項より)
※ ライトカーテンを非工業用途で使用する場合には、(B)式にて算出された結果に75mmを加算した距離を最小安全距離とします。この場合、(C)式は使用できません。従って、GL-R08H(有線同期)を非工業用途で使用した場合、S=201.2mm+75mm=276.2mmの安全距離が必要になります。
最小検出体が40mmを越え、70mm以下の場合の具体例
GL-R**Lを使用する場合、最小検出体が40mmを越えることになります。ここでは、GL-R30L(光軸数30)を光同期システムのチャンネルAで使用した場合の例を紹介します。
ISO13855(EN ISO13855)に規定されるパラメータから、K=1,600mm/s、C=850mmとなり、(A)式を使用して算出します。
S=1,600mm/s×(t1+t2)+850mm
t1=10.5ms, t2=50msとすると、
S=1,600mm/s×(0.0015s+0.05s)+850mm
=946.8mm
したがって、この場合の安全距離は、S=946.8mmとなります。
【例2】 ANSI B11.19-2010
ANSI B11.19-2010 に基づく安全距離算出方法(検出領域への垂直侵入の場合)
- 計算式:Ds=K×T+Dpf
- Ds:安全距離(inch) 1inch=25.4mmで計算してください。
- K:身体又は身体の一部が危険区域又は危険源に接近する最大速度
- T: 機械の危険な動作が停止する、あるいは機械の1サイクル中の危険なサイクルが完了するまでに要する全体の時間。この数値は機械の種類や使用している安全装置の種類により変動します。
- Dpf: ライトカーテンの最小検出体により変動する追加距離。
Dpf=3.4(S-0.275)inch. 下図参照。
最小検出体が64mm(2.5inch)未満のライトカーテンに対するDpfの値
(垂直侵入)
ANSI B11-19-2010 Figure D.1を引用
※ Kとして使用することができる数値は、手の一定動作速度になります。(通常、人間が座っているときの手や腕の水平な動作として考えられています。)他の数値も使用されますが、一般的に1.6m/s(63inch/s)という数値が使用されます。手の一定動作速度というのは、身体の動作、つまり実際の侵入速度に影響がある動作を考慮しておりません。従って、安全装置の実際の使用方法により、上述の数値をも含めた最適な数値を考慮する必要があります。OSHA1910.217(c)では、K=63inch/s(=1,600mm/s)が推奨値として規定されています。
詳細な規定、特に数値「T」に関する計算については、ANSI B11.19-2010,付属書Dを参照してください。
【例3】 ANSI/RIA R15.06-1999
ANSI/RIA R15.06-1999に基づく安全距離算出方法(検出領域への垂直侵入の場合)
- 計算式 S=[K×(Ts+Tc+Tr)]+Dpf
- S:安全距離(mm)
- K:検出領域への身体又は身体の一部の侵入速度(=63inch/s)
- Ts:最終的に機械を停止する制御の際にかかる停止時間(秒)
- Tc:機械の制御システムの最大応答速度(秒)
- Tr:ライトカーテン及びそのインターフェースにおける最大応答速度(秒)
- Dpf: 下図に示す侵入係数による追加距離(mm)。ライトカーテンの最小検出体により変動する。
ANSI/RIA R15.06-1999 Fig. B.2を引用
※ ANSI/RIA R15.06-1999では、K=63inch/s(=1,600mm/s)が最小速度として規定されています。
- 警告
- 安全距離を正確に計算し、機械の危険区域又は危険源とライトカーテンとの距離を必ず最小安全距離以上にしてください。危険区域または危険源から最小安全距離に満たない位置にライトカーテンを取り付けた場合、機械使用者の重傷または死亡を含む重大な危害が発生することがあります。