世界的に加速するEV(電気自動車)シフトに
不可欠な技術革新とは?
中国地場メーカー製のEVが日本に上陸したというニュースが流れるなど、日に日にEVに対する注目が高まってきています。
EVの普及に向けては、電池の開発や充電ステーションの設置などさまざまな開発課題があると言われており、中でも車体の軽量化は最重要課題として検討されています。EVの軽量化は多方面でメリットをもたらしてくれるため、この記事ではEVの軽量化が必要な理由や軽量化技術について解説します。
- この記事でわかること
なぜEVの軽量化が必要なのか
車両のサイズにもよりますが、一般的に多くのEVは同等クラスのガソリンやディーゼルを燃料とした内燃機関を搭載したICE車(インターナル・コンバッション・エンジン)と比較して車両本体が200kg~300kg程度重いと言われています。
また、車体が重いことによる弊害として、特に航続可能距離や路面へのダメージといった影響があるとも考えられています。
ここで、EVの軽量化が必要な具体的な理由を紹介します。
航続可能距離の延長
多くのEVは、ICE車に比べると燃料満タン時の走行可能距離が短い傾向があるため、将来的に航続可能距離を延ばすことが求められています。今後、居住地の近くに充電ステーションがないユーザーや1回当たりの走行距離が長いユーザーにとって不安だった航続可能距離の課題が解消できれば、購入を検討する人も増える可能性があります。
この航続可能距離を延長するためにはさまざまな手段が考えられており、その中の一つがEVの車体を軽量化することと言われています。
路面へのダメージ軽減
走行する車両が路面へ与えるダメージは、車両が重いほど大きくなります。極端な例として、軽自動車と大型トラックでは、大型トラックの方が路面へのダメ―ジが大きいというのは、イメージしやすいでしょう。
EVは航続可能距離をなるべく延ばすために、重いバッテリーを搭載する必要があります。その結果、同等クラスのICE車両よりも重くなり、定性的には路面へのダメージが大きくなります。
道路の老朽化は大きな社会課題になっているため、少しでも路面に与えるダメージを抑えた車両を利用することで、環境への貢献が可能です。ICE車両よりも重いEVを軽量化できれば、路面へのダメージやその補修費用を低減できる可能性があります。
環境負荷の低減(ブレーキパッド摩耗)
重いEVをしっかり止めるためには、効きのいいブレーキパッドが必要ですが、これらの多くはブレーキダストとよばれる粉塵が発生しやすいため、環境への悪影響が懸念されています。
そのため、欧米を中心にブレーキパッドの原料に対する材質制限などの規制が進められており、多くの新たなブレーキパッドが開発されています。
しかし、規制された材料を使用していた場合に比べて、効きを出しにくいといった特徴があります。
また、効きの高さとブレーキダストの低減を両立できるブレーキパッドの開発も進められていますが、一般向けに販売できる価格帯の製品開発は難しく、普及には時間がかかることが予想されます。
もし、EVの車体軽量化を実現できれば、規制材料を用いた効きの出にくいブレーキパッドでも十分な制動力を発生させることができるため、環境負荷の低減に繋がると考えられています。
EVの軽量化を実現するために求められる代表的な技術
EVの普及に必要不可欠な車両本体の軽量化を実現するために、さまざまな分野で技術開発が行われています。
EVは、従来必要だった内燃機関が不要になること、部品点数が削減されることなどから、製造業ではネガティブに捉えられることもあります。
しかし、新たに必要になる技術を開発し、参入するチャンスとなり得る将来性のある分野とも捉えることができそうです。
ここでは、軽量化を実現するために求められる、代表的な技術について紹介します。
軽量・高強度で低コストの材料開発
EVの軽量化を考える際にイメージしやすいのが、部品に使用されている材料自体を軽量化することではないでしょうか?ただ、軽量化を目的に材料を変更する場合でも材料を変更する前と同等の強度を確保する必要があるため、軽量でありながら従来同等以上の強度を持った材料を採用することが重要です。
一例として、特殊な合金や炭素繊維強化プラスチックなど軽量で高強度の材料が開発され、採用され始めていることが挙げられます。
しかし、加工が難しく生産性が確保できなかったり、コストが高かったりすることから、多くの部品にはまだ採用が進んでいません。
そこで、従来と同等以上の強度を実現しながら、軽量で生産性(加工性)が高く低コストの材料を開発することができれば、大きなチャンスが訪れるのではないでしょうか。
強度を維持しつつ軽量化できる形状の最適化
EVに搭載される部品の軽量化を実現する方法として、軽量で高強度の材料を使用する以外にも形状の最適化が考えられます。
部品の肉抜きをすれば軽量化は実現できますが、強度が低下してしまうため、簡単には採用できません。そこで、必要な機能を満たす部品形状を実現するために、形状最適化シミュレーションを活用することが可能です。
シミュレーションの演算条件に、該当の部品に求められる特性を入力し、演算を行います。自動で計算をさせることで、従来の知見に基づいた設計では思いつかないような形状が実現できる可能性があります。
なお、自動計算によって提案される形状はそのまま使用できない可能性があるため、さまざまな知見を持ったエンジニアが検証することが重要です。
また、形状化により部品に必要な材料の量が減る可能性もあるため、材料費の削減など副次的な効果も期待できます。
新たな材料・複雑な部品形状を実現する加工技術
従来、使用したことがない材料や最適化された形状の加工を実現するためには、新たな加工技術が必要になる場合があります。
自動車業界では、試作品や受託生産品に3Dプリンタの採用が進められています。現在は、加工時間やコストの観点から使用範囲は制限されおり、量産部品への適用にはこれらの課題解決が必要です。
海外の自動車メーカーの中には、近い将来に量産品への3Dプリンタ採用を予測しているメーカーがあります。課題が解決されれば、加工形状の自由度が高い3Dプリンタは、さまざまな部品に適用される可能性があります。
従来から使用されている技術も工夫が必要です。例えば、切削加工では強度の高い難削材の採用により、新たな工具の開発や加工パスの工夫が必要になるかもしれません。また、プレス加工でも炭素繊維強化プラスチックの採用により、加工時間が長くなってしまいます。
このように、新たに採用される材料や形状を実現できる加工技術の開発は、EVの軽量化を実現するために必要不可欠です。
EVの普及のキーポイントは製造業の技術革新
EVは、自動車には当たり前に搭載されていた内燃機関が不要になり部品点数も少なくなるため、製造業界ではネガティブに捉えられることもあります。
しかし、軽量化を実現するために新たな部品や材料、特殊な加工技術が必要になることから、軽量化が技術開発の起爆剤になるかもしれません。さらにEVの軽量化が実現すれば、航続距離が延び、環境への負荷も低減できるでしょう。
まだ内燃機関を搭載した車両のシェアが高い状況が続きそうですが、EVの販売台数増加によるボリュームメリットで購入価格を抑えることができれば、普及速度はさらに加速することが予想されます。製造業の技術革新が新しい価値観の創造に大いに貢献する。そんな可能性がEVにあるのかもしれません。