現場改善のヒント

みんなの危険感受性を高める「KYT」の実践方法とポイント

みんなの危険感受性を高める「KYT」の実践方法とポイント

「安全第一」といわれるように、製造現場ではあらゆる危険を回避することが大前提です。しかし、管理者が安全のモットーを決めて伝えるだけでは、作業者全員の意識にしっかりと定着するとは限りません。
そこで今回は、現場全員の危険への感受性と安全への意識を高めると同時に、職場の風土改善にも有効な「KYT」の基礎知識や実施方法などについて、各手順でのポイントを交えながら説明します。

この記事でわかること

KYT(危険予知訓練)とは

KYTとは、危険(Kiken)・予知(Yochi)・トレーニング(Training)の頭文字を取った語で、「危険予知訓練」とも呼ばれます。労働災害の防止を目的に、危険に対する感受性を高めて安全性を先取りする能力や、チームワーク、集中力、問題解決能力などを養う訓練のことです。
実際の現場でもチームワークや積極的な発言が大切であるため、危険予知訓練でもチーム制で意見交換しながら行います。

製造現場でのKYT(危険予知訓練)実施手順

KYTの代表的な方法として、目的が割り振られた第1ラウンドから第4ラウンドまでを段階的に実践していく「KYT4ラウンド法」が挙げられます。
各メンバーが発言しやすいよう5~6人を1つのチームとし、司会進行を行うリーダーや書記を割り振っておきます。各ラウンドの目的や実施内容などは以下の通りです。

第1ラウンド「現状把握」

・目的
どんな危険が潜在しているか、実際の状況を把握する。
・実施方法
ビジュアルを見ながら、潜在的な危険とその要因、どのような現象を招くのかなどを各自が考え、発言します。書記担当者はそれらの発言を項目として模造紙などにメモしていきます。
一般的にはKYT用のイラストシートをチーム全員で観察します。また、実際の現場でKYT用の写真を撮って使用すれば、より実践的な訓練になるでしょう。さらに、絵や写真に登場する主な人や物体、場所にアルファベットを割り振るなどしておくとチーム内での意思疎通が円滑になります。
Point

第1ラウンドで注意すべき点は、ベテラン社員などが過去の事故事例を挙げないことです。視覚で得た情報からたとえ些細であっても、安全ではないと思える項目を各自が掘り起こしていくことが大切です。

第2ラウンド「本質追究」

・目的
本質(原因)を探り、チーム全員が認識する。
・実施方法
第1ラウンドで挙げられた意見の中から特に注目すべき項目をピックアップし、さらにその中から最も危険だと考えられる要因を選定します。
たとえば、模造紙に意見を書いていった場合は、注目すべき項目に印を付けていき、その中で最も危険だとする要因に対してより目立つ印を付けるなどして、視覚的にわかりやすく分類します。
最終的に選ばれた項目とその危険要因、発生する現象をリーダーに続いてメンバー全員で指差し唱和します。
指差し唱和の例
「工程Aから抜き取り検査用のワークを通路Bに面した一時置き場Cに運ぶとき、大型機械の影に隠れてしまうため、材料を搬送する人またはハンドリフトと接触する。ヨシ!」
Point

最も危険とする要因は、チーム内において満場一致で決定することが重要です。もし4人中1人が異なる意見を持ち、ほかの3人が説明しても1人が納得できないような場合は、次の相反する2つの可能性が考えられます。1つは選定が不適切だった可能性、もう1つは、それだけ予知しにくい危険を掘り起こしたという可能性です。
いずれの場合においても選定段階での話し合いは、コミュニケーションの活性化と、危険の本質(原因)を追究する力を養ううえでとても有意義です。

第3ラウンド「対策樹立」

・目的
「あなたならどうするか」を考え、対策を立てる。
・実施方法
第2ラウンドで選定した最も危険な要因への対策を各自が自分事として考え、チーム内で対策案を発表し合います。
この段階で他のメンバーの合意を得る必要はありません。具体的な対策を考えて意見を出すことが重要です。
Point

対策案を挙げる際に重要になるのは「実践可能であること」です。ですが、「気をつける」「注意する」といった意識にはバラつきが生じるため対策にはなりません。
たとえば、動線が交わる場所にミラーを設置して目視確認し、さらに声かけを行って移動する。またはセーフティセンサを設置して動線が交わるエリアに人がいるときはランプの点灯や警告音で知らせるなど、具体的かつ実践可能な対策を立てる必要があります。

第4ラウンド「目標設定」

・目的
「私たちはこうする」を設定する。
・実施方法
第3ラウンドで出した対策案の中からチームのメンバー全員による合意のもと、実施する項目(行動計画)を決めて目標を設定します。
設定が完了したら設定した行動をメンバー全員で指差し唱和します。
指差し唱和の例
「工程Aと通路Bの動線が交わるエリアに入る前にいったん停止し、ランプの状態で人がいないかを確認して指差し呼称し、ゆっくり立ち入ろう。『人の侵入なし、ヨシ!』」
Point

全員が目標設定に賛同できない場合は、それ以前のラウンドで決めたことに不備がなかったか確認しましょう。第4ラウンドでの目標設定時に、第3ラウンドで検討した対策案の欠点を発見するような場面もよくあります。
チーム内で積極的に意見交換を行いながら微調整することも、コミュニケーションの活性化において有意義といえます。

「KYT4ラウンド法」のまとめ

これまで説明した「KYT4ラウンド法」における各ラウンドの主要な目的や手法、ポイントを以下の表にまとめます。いずれのラウンドもチーム全員で行うため、各自が共通認識を持って取り組む必要があります。

  目的 手法 ポイント
第1ラウンド
現状把握
どんな危険が潜在しているか、状況を把握する。 ビジュアルを見て、潜在的な危険をみつける。 過去の事例ではなく、起こり得る危険を掘り起こす。
第2ラウンド
本質追求
本質(原因)を探り、チーム全員が認識する。 注目すべき項目ともっとも注目すべき要因を選び、指差し唱和。 メンバー全員の意見が一致するまで議論する。
第3ラウンド
対策樹立
「あなたならどうするか」を考え、対策を立てる。 メンバー各自で対策案を考え、発表する。 具体的かつ実践可能な対策を考える。
第4ラウンド
目標設定
「私たちはこうする」を設定する。 目標とする行動計画を決定し、指差し唱和。 うまく設定できない場合は、過程で不備がなかったか検証する。

KYT(危険予知訓練)の実践例

現場での作業風景のビジュアルを使った「KYT4ラウンド法」での訓練の実践例を紹介します。

テーマ:トラックの荷台から荷物を搬出

作業者A 作業者B

第1ラウンド「現状把握」/第2ラウンド「本質追求」

第1ラウンドでは、6名のチームでこのイラストを観察して危険について考えました。2名の意見が同じだったため、以下の5つの危険項目が挙がりました。
第2ラウンドでは、話し合いによって決めた重要な危険項目に〇(丸)、その中で最重要危険要因がみられる項目に◎(二重丸)、いずれにも該当しない意見には-(ダッシュ)を付けました。
なお、イラストを使用する場合、特有の細かい作画エラーへの気づきも、視覚で危険を感じ取る訓練においては無意味ではありません。

  • -作業者Bはトラックの影に隠れているため他の車が来たときに接触する。
  • ◎作業者Aが手を滑らすと作業者Bの上に荷物が落ちる。
  • 〇作業者Bが台車に荷物を置くとき、不安定になり荷崩れする。
  • ◎作業者Aは荷物で足元が見えにくいため、荷台から落下する。
  • -作業者Bの足の位置だと、重い荷物を持つときに腰を痛める。

第3ラウンド「対策樹立」/第4ラウンド「目標設定(1)」

第3ラウンドでは、第2ラウンドで◎を付けた危険項目とその要因に対する具体的な対策を挙げます。第4ラウンドとして、この中から重点的な実施項目に☆印を付けます。同じ項目と要因への対策なので、同じ意見が出ることは不自然ではありません。ここでは以下の3つの対策が挙がりました。

  • -作業者Bが台車に荷物を置いたことを確認してから、作業者Aは荷台から次の荷物を出す。
  • -作業者Aは荷物で足元が隠れないよう、横向きで荷物を出す。
  • ☆作業者Bが荷物を台車に置くと同時に指差し呼称。作業者Aはそれを聞いてから荷物を取り出す。

第4ラウンド「目標設定(2)」

重点的対策として選ばれた内容を軸に行動目標をまとめて、安全確保のために行うべき指差し唱和を実行します。

・チームの行動目標
「高い荷台から荷物を降ろすときは、受け取る人が荷物を置いて指差し呼称してから、荷台の中の人は足元を確認して次の荷物を差し出そう」
・チーム全員で指差し唱和
「台車への積込みヨシ!足元確認ヨシ!荷物の差し出しヨシ!」

KYT(危険予知訓練)で、現場の風土も良くなる!?

KYTの第1~第4ラウンドで行うアクションは、主に「考える・意見を述べる・話し合って決定する・指差し唱和する」といったシンプルなものです。それは、潜在的な危険について頭で考えるだけでなく、意見を述べたり、他者と話し合って決めたり、加えて、決めたことを全員で指差し唱和するというフィジカルな表現により、危険に対する意識を刷り込むためといわれています。
同時に、KYTの実施によって職場の良好な風土に求められる、各自の自発性やコミュニケーション能力、チームワークも強化することができます。

ただし、これは訓練であるため、できるだけ繰り返し行うことが大切です。たとえば4半期に1回、または、人員配置や現場環境の変化の都度実施することにより、製造現場に必要な安全確保への意識と現場のチームワークの両方を維持できるでしょう。

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