工場・製造業のSDGsは何からはじめる?
取り組みやすい順に解説
身近に聞かれるようになったSDGs。人や地球環境にとってよいことをするとは分かっていても、自社でも取り組むべきかどうか?現場単位では何ができるのか?と具体的なイメージがしづらいキーワードになっているかもしれません。
そこでこの記事では、SDGsのおさらいをしながら、製造業が取り組むことで得られるメリットや現場レベルで取り入れられるアクション例について解説します。
- この記事でわかること
そもそもSDGsとは?
地球環境の改善に向けて全世界が取り組むべき17のゴール
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略語のこと。「社会」「経済」「地球環境」の3つの側面から17のゴールと169のターゲットが定められており、できることから取り組むことで、2030年までに経済発展と持続可能性を兼ね備えた地球の未来を実現しようとするキャンペーンのことを指します。
法的拘束力はありませんが、企業はもちろん行政や個人までのすべてのステークホルダーが取り組む目標として先進国を含めたすべての国で具体的なアクションが求められています。
製造業でSDGsの取り組みが求められるのは、
サプライチェーン全体の影響が大きいから
CO2の排出量割合が大きく、女性活躍推進の遅れが目立つ製造業は、SDGsへの取り組みがより求められている業界です。
2050年までのカーボンニュートラル(CO2の排出量をゼロにする取り組み)に向けて取り組む国・地域は144カ国ありますが、その中で日本のCO2排出量は世界第6位。製造業の工場などが排出する量はその約4分の1を占めており、エネルギー価格の高騰リスクへの対応を含めても、エネルギーの安定供給先の確保や、再生可能エネルギーへの転換などによるCO2削減が急務とされています。
また、製造企業における女性従業者比率は、中小企業が42.5%、大企業が22.9%であり、衣服・繊維製造業や食料品製造業といった軽作業の多い業種がその数字を底上げしてきました。一方、石油製品製造業や鉄鋼業など力仕事が必要とされる業種では、数字が低くなる傾向にあります。
社会的・文化的・経済的それぞれの観点から持続可能なモノづくりを可能とするため、製造業における多様な人材の活躍が必要とされています。
環境・人権・企業ガバナンスに配慮している企業を重視・選別して行なうESG投資に世界中の資本が移行する流れも加速しており、環境や人権に配慮した事業活動に取り組まない企業は、投融資を受けづらくなっていくという現状があります。
さらに、2022年のものづくり白書で国が重点項目に据えた「カーボンニュートラル」も、サプライチェーン全体でCO2排出量を把握し、削減に取り組まなければ達成できません。
これらの背景から見てもわかるように、大企業やメーカー側だけでなく、サプライチェーンの参加企業である中小企業もSDGsへの取り組みが求められています。
製造業がSDGsに取り組むメリット
SDGsを上手に活用すれば、企業イメージや稼ぐ力の向上に寄与します。たとえば、以下のようなメリットが得られます。
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- 企業のイメージアップになり、採用力が強化される
- SDGs対応の製品・商品をリリースすることで新たな市場が開拓できる
- SDGs対応企業として企業価値が明確になり、金融機関をはじめとするステークホルダーの社会的信頼が向上する
- 性能・効率のよい機械の導入や、女性も活躍しやすい環境整備が進み、生産性向上が期待できる
- SDGsと既存事業のかけ合わせがイノベーションのチャンスになる
- 持続可能な生産体制や組織を目指すことでBCP対策になる
SDGsへの取り組みはステークホルダーへの大きなアピールポイントとなります。さらには、SDGsを起点にビジネスモデルを転換することで付加価値が生まれ、選ばれる企業へとステージアップすることが期待できます。
製造業が現場レベルで取り組むべきSDGsの課題3選
製造業が取り組むべきSDGs項目は、2022年のものづくり白書で国が重点項目に据えた3つのポイントに絞ると明確です。中でも自社が取り組みやすく、メリットの大きな項目から対応していきましょう。
- 1.カーボンニュートラル(CO2削減)
- カーボンニュートラルの実践として省人化やFA化の推進、グリーンエネルギーの調達、工場の省エネ、サーキュラーエコノミーの実践 など
- 2.多様な人材の活躍(女性活躍、障がい者・高齢者雇用)、人権尊重
- 女性の活躍推進、障がい者・高齢者の雇用、フェアトレード(公正な貿易による)な調達 など
- 3.デジタル活用、DX
- ペーパーレス化、基幹システムの更新、EDI連携によるスムーズかつタイムリーな需給管理と調整、RPAやAIの導入による業務効率化 など
中でも簡単に取り組むことができるテーマ
これまでに現場単位で行ってきた取り組みを拡張・加速したり、現状を見える化したりすることで、大きな負担なくSDGsに取り組むことが可能です。
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- CSR活動をHPで報告する
- 「3R」に積極的に取り組む
- 廃棄物量や電力使用量などを見える化する
- 設備や工具寿命の延伸に取り組む
- 売上の一部を慈善団体に寄付する
CSR活動に取り組んでいる場合は、その活動報告を自社HPに掲載するなどして対外的なアピールに活用しましょう。
リデュース(発生抑制)・リユース(再利用)・リサイクル(再生利用)の頭文字をとった「3R」にも注力してみてください。使用済み原料から使える部品をぬき取って再使用したり、データ管理を紙ではなくシステム上で行うようにしてペーパーレス化を進めたり、現場単位から取り組みを進めていくことが重要です。
廃棄物量や電力使用量などを見える化することでも、社員の気づきを促しムダの削減につながります。また、設備や工具の寿命の延伸に取り組むことは、生産性の向上やコスト削減にも寄与します。
さらに、売上の一部をSDGsに取り組む慈善団体へ寄付することでも、社会的責任を果たそうとする姿勢がPRできます。
次に取り組みやすいテーマ
次に取り組みやすいテーマとして、工場や本社の現場課題を捉え、解決に向けて取り組むことがあげられます。
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- 歩留まり率の向上に取り組む
- 廃棄物の削減、燃料効率の向上、梱包材と輸送費の削減
- 自家発電に取り組む
- 金融機関からSDGs評価を受ける
- NPO法人との協業・後援、民間プログラムへの協賛 など
原材料の変更や生産工程のカイゼンに取り組んでみてください。歩留まり率の向上に取り組むことで、CO2やプラスチックの削減ができます。
太陽光発電を取り入れた自家発電への取り組みや、梱包材のリユース・木質化、生産管理のシステム化による配送スケジュールの改善および輸送費の削減など、削減できるムダを捉えて改善に取り組むことが、経営に生きるSDGs活動となります。
自社内での取り組みが難しい場合は、取引金融機関からサポートを受けてSDGs評価を受けたりSDGs宣言を作成したりすることも有効です。NPO法人との協業や民間プログラムに協賛することでも、SDGsの取り組みが円滑に進みます。たとえば、環境上の取り組みでは、廃棄物を焼却した熱エネルギーを発電やプール、温泉の熱源に再利用するサーマルリサイクルを行う会社と提携し、自社の廃棄物をリサイクルしてもらうこともおすすめです。
一段上のチャレンジとなる取り組みテーマ
SDGsを起点にした新価値創造への取り組み、新たな市場や販路の開拓、新産業創出などが一段上のチャレンジとなる取り組みテーマです。
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- クリーンでグリーンな調達への切り替え
- 女性活躍や障がい者・高齢者雇用の促進
- 従業員のスキルアップに向けた教育の実施
- 国や地方自治体が主導するプログラムの認定を受ける
- SDGsをテーマに新規事業へ挑戦する など
環境保護につながる資材や原材料、不適切労働のない地域での仕入れなど、環境や人権をより配慮した調達へ切り替えを検討してみてはいかがでしょうか。
労働環境の改善や福利厚生の充実、従業員のスキルアップ教育などを通じ、女性や障がい者・高齢者の雇用を促進し、誰もが活躍できる職場づくりに取り組むことも、対外的なアピールにつながるだけでなく、企業の生産性を高めメリットの多い施策となります。
たとえば、環境省が主導する「エコアクション21」や、厚生労働省が女性活躍推進に取り組む企業を認定する「くるみん認定」や「えるぼし認定」といった国の認定を受けることは、全社的な活動につながりやすく、対外的なアピールとしても非常に有効です。
本腰を入れてSDGsに取り組みたい場合は、アイデアを社内から募るなどしてSDGsをテーマにした新規事業にチャレンジしてみてください。
まとめ:製造業におけるSDGsはCO2削減と多様な社員の活躍がカギ
「SDGs」というビッグワードのままでは概念的で捉えづらい一面がありますが、製造業にとって必要な取り組みを抽出すると、
1.カーボンニュートラル(CO2削減)
2.多様な人材の活躍
(女性活躍、障がい者・高齢者雇用)
3.デジタル活用、DX
の3点になります。自社の経営課題や得られるメリットに応じて、取り組みやすい内容からぜひ実施していきましょう。