産業機械のレベル(水平)出しの効率化
多くの機械加工機や食品加工機・半導体製造装置などの産業機械は水平に設置します。これは、産業機械は水平に設置することで、その性能を発揮できる設計になっているからです。また、傾斜して設置する際にも水平を基準とします。そして、水平に設置するに当たって欠かせない作業が「レベル出し」または「水平出し」です。特に大型の産業機械では、わずかなレベル(水平)の誤差が不具合品の発生や、機械・工具の寿命を縮める原因になります。
ここでは、産業機械のレベル(水平)をテーマに、レベル(水平)出しに用いられる測定器具や測定の必要性といった基礎知識、レベル(水平)出しに最も重要となる寸法測定のポイントと課題から解決法までを説明します。
レベル(水平)とは
レベル(水平)とは水平の度合いのことです。産業機械にとって、レベル(水平)を正確に出すことは基本であり、動作精度の維持には欠かせません。 多くの産業機械は、基本的に工場などの床にボルトで固定して使用しており、このボルトを締めたり緩めたりして高さや角度を確認しながら水平に設置します。この作業を「レベル(水平)出し」といいます。レベル(水平)は、産業機械を使用しているうちに自重や振動・熱などにより変化するため、設置後も定期的にレベル(水平)出しを行わなければなりません。
レベル(水平)出しに使う測定器具
ここでは、レベル(水平)出しに使われる代表的な測定器具を紹介します。 レベル(水平)出しでは、測定要素や測定の精度、対象物の大きさなどによってさまざまな測定器具を用います。また、数種類の測定器具を用いて測定することが一般的で、高度な測定技術と多くの工数が必要です。
水平器
水平器は「レベル」や「水準器」ともいわれ、水平・垂直・45°などを測定する器具です。気泡管水平器・デジタル水平器・丸型水平器などがあります。
- 気泡管水平器
- フレームの一部に、「気泡管」といわれる液体が封入されたガラス管が取り付けられており、対象物にフレームを当て、気泡管の中の気泡の位置によって水平を調べます。水平だけでなく垂直や45°などの角度を計測できるものもあります。
- デジタル水平器
- デジタル水平器は、気泡管に加えて測定した値をデジタルで表示するモニタを備えた水平器です。水平・垂直だけでなく、さまざまな角度の微妙な値を読み取ることができます。
- 丸型水平器
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広い面の水平を確認したい場合に使用する測定器具です。360°の傾きを測定することができますが、測定の精度は高くありません。
上記以外にも、傾斜角度や勾配を正確に測る角度測定水平器、レーザーポインターを内蔵した水平器、コンベックスを内蔵した水平器などがあります。
ダイヤルゲージ
ダイヤルゲージは、「スタンド」といわれる測定治具や各種精密機器に取り付けて使用する測定器具で、「スピンドル式」と「てこ式」があります。
スピンドル式は寸法変化の大きな対象物の測定に向いており、てこ式はスピンドル式ダイヤルゲージでは測れない狭い場所を測定することができます。
レベル(水平)出しでは、基準となる面にダイヤルゲージを取り付け、移動させながら対象物との平行を測定します。測定値の信頼性は高く、利用範囲の広さもあって多くの現場で利用されています。
レーザー墨出し器
レーザー墨出し器は、対象物にレーザー光を照射して水平・直角などの基準線(ライン)を出す測定機器です。建築用語では基準となる線を「墨線」、墨線を出す作業を「墨を出す」といい、レーザーで墨線を出すので「レーザー墨出し器」といわれます。
水平器やダイヤルゲージを使わずに基準線を出し、正確な位置を設定できるため、産業機械を設置する際に使われます。
レベル(水平)出しの必要性
レベル(水平)出しは、あらゆる産業機械の設置において基本であり、必ず行わなければならない作業です。
たとえば、鋳造金型が傾いていると、金型への材料の流し込みに悪影響が出て製品に変形や反りなどの不具合が発生します。切削加工機やプレス加工機では予期しない箇所に負荷がかかり、加工の不具合や加工機が破損する原因になります。
コンベアや搬送用ロボットなどのマテハン装置では、搬送品が引っ掛かるなどの搬送不良や搬送品に傷が付くなどの不具合が発生します。
また、ベースフレームのレベル(水平)出しができていない状態で部品を取り付けると、部品の正確な取り付け位置の測定ができません。さらに、産業機械を移設した後の原状復帰においても、水平は基準となります。
このように、レベル(水平)出し精度が低いとさまざまな悪影響を及ぼすため、産業機械・架台・ベースフレームの製造・設置の際は、レベル(水平)を厳しく測定する必要があります。
レベル(水平)出しでの測定
レベル(水平)出しの寸法精度は、産業機械の性能や耐久性に大きく影響します。機械加工機では加工不良、マテハン装置では搬送不良、架台・ベースフレームでは部品の取り付け精度不良の原因になります。このため、産業機械を設置する際は、測定して、許容の範囲であることを確認しなければなりません。
測定のポイント
水平出しにはさまざまな測定要素がありますが、ここではアライメント調整・水平調整・ひずみ測定の3つのポイントについて説明します。
アライメント調整
軸の芯出しや対象物の位置決めなど、アライメントの調整は工場の自動化(FA:ファクトリーオートメーション)を実現するためには必要不可欠です。
アライメントは、装置を組立定盤の上で組み付けながら調整をする必要があります。また、機械の運転中は運転による機械トルクや振動による応力、熱膨張などが発生するため、これらを考慮し冷間時と運転時のアライメントの差異を把握したうえで冷間時の調整を行います。
このようなアライメントの調整で、基本となるのがレベル(水平)です。レベル(水平)出しの精度が低いと、運転時の振動が大きくなったり軸受の寿命が短くなったり、最悪の場合はカップリングなどが破損する恐れがあります。
水平調整
水平調整は、装置架台やベースフレームの設置では欠かせない作業です。特に装置間のやり取りを行う搬送設備ではフロアレベルの測定とパスラインの調整が重要です。
フロアレベルは装置を設置する床の高低差で、パスラインは搬送物を搬送する高さです。通常、装置はフロアレベルを考慮した設計になっており、ライナーの追加やアジャストボルトの回転により、レベル(水平)を細かく測定しながら設置します。そして、搬送装置のレベル(水平)をパスラインに調整します。
このように、水平調整は設置する床の水平と設置する装置の水平を測定し、調整しながら進めていくため多くの場合は長い作業時間を要します。
ひずみ測定
設置後の産業機械は、加工時に発生する熱や振動、ワークの重量による負荷などが、レベル(水平)の変化や装置架台またはベースフレームのひずみの原因になる場合があります。装置架台やベースフレームにひずみが発生すると、産業装置は設計通りの性能が出せず不具合品が増えたり、装置の寿命が短くなったりします。 また、さまざまな装置・ユニットは、多くの場合ベースフレームに対して平行または直角を基準に取り付けるため、ベースフレームの装置やユニットを取り付ける面がひずんでいると、正確な高さや角度で取り付けることができません。このため、設置後やメンテナンスの際は、装置架台やベースフレームのひずみ、部品やユニットの取り付け面の平面度などの寸法測定は欠かせません。
レベル(水平)出しでの課題と解決法
レベル(水平)出しは、産業機械・装置架台・ベースフレームを設置する際はもちろん、製造中にも確認が必要です。従来、これらの測定は水平器・ダイヤルゲージ・レーザー墨出し器・コンベックスなどで行っていました。装置架台やベースフレームはサイズも大型であることが多く、どうしても2、3人がかりで測定するケースが一般的です。しかも、測定者による測定値のバラつきや、ひずみの傾向などがわかりにくく、測定に時間がかかるといった課題がありました。
これらの問題を解決すべく、最新式の三次元測定機が活用されるケースが増えてきました。キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、ワイヤレスプローブで設置状態も高精度で寸法測定が可能です。測定範囲内ならワークの奥まった部分にも自由にアプローチでき、プローブを当てるだけの操作なので、1人で簡単に測定することができます。また、水平器やダイヤルゲージ、レーザー墨出し器などの測定器具に比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。
製造・加工装置のアライメント調整
製造・加工装置のアライメント調整は、組立定盤の上でダイヤルゲージやレーザー墨出し器などでズレを測定しながら、上下左右の組み付け位置を合わせます。
ダイヤルゲージやレーザー墨出し器による測定には2名以上の作業者が必要で、実施のたびに値が異なるため正確な測定は困難です。また、ダイヤルゲージを当てる角度や強さによって測定値が変わるため、作業者による測定値のバラつきが発生します。さらに、十分な測定精度を得るためには、指定されている軸線上で測定を繰り返さなければならないため、測定作業に数日を要する場合もあります。
「WMシリーズ」なら、測定ポイントにプローブを当てるだけで測定できます。平行度や高さの測定、各部の距離も基準要素と対象要素にプローブを当てるだけで測定は完了。短時間かつ1人で測定でき、作業者による測定値のバラつきはありません。
さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、一般的な三次元測定機では不可能な「現場で施工精度を三次元で測定したい」といったニーズにも対応することができます。
製造・加工装置の装置架台・ベースフレームの水平調整
一般に、装置架台は肉厚の厚い角パイプで製作し、ベースフレームを載せるため、ベースフレームの設置部はマシニングセンタにより平面度0.1mm以内で加工して必要な精度を得ています。
平面度は対象の平面の3箇所以上の点を水平器やダイヤルゲージで測定し、その偏差の最大値を平面度として算出する方法と、対象となる平面を平行な平面で挟んだ場合にできる隙間をシックネスゲージなどで測定し、OK/NGを判定する方法があります。しかし、反りやうねりのような三次元形状の平面度を正確に測定し、定量化することは不可能です。
キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」なら対象となる平面にワイヤレスプローブを当てるだけで、正確な平面度を測定することができます。面全体の反りやうねりをカラーマップで可視化することも可能で、最終的に目的形状に合わせ込む加工作業の効率を大きく向上させることができます。さらに、直角度・位置度・平行度なども測定可能。装置架台・ベースフレームの製造・設置の品質向上に大きく貢献します。
製造・加工装置のひずみ測定と図面化
設置後の製造・加工装置のメンテナンスでは、運用によるレベル(水平)の変化や、装置架台・ベースフレームのひずみを測定します。
従来、レベル(水平)はフロアレベルから装置の基準となる位置までの距離をコンベックスや水平器で、ひずみはダイヤルゲージによる倣い測定で確認していました。しかし、個別の構成パーツのサイズは大型であることが多く、どうしても2、3人がかりで測定するケースが一般的です。しかも、測定者による測定値のバラつきや、ひずみの傾向などがわかりにくく、測定に時間がかかるといった課題がありました。また、図面の寸法が、装置の中心を基準として規定されている場合は、ハンドツールなどのようなアナログのツールでは直接測定することができない、といった問題も抱えていました。
キーエンスのワイドエリア三次元測定機「WMシリーズ」は、ワイヤレスプローブでレベル(水平)やひずみも高精度で測定が可能です。コンベックスや水平器・ダイヤルゲージなどの測定器具に比べて測定結果がバラつくことなく、定量的な測定が可能です。
また、フロアレベルを気にすることなく三次元的な寸法を直接測ることができ、測定した要素はSTEP/IGESファイルとしてエクスポートできるため、現物の測定結果を基に3D CADデータを作成可能。既設装置を図面化することができます。さらに、持ち運びが可能なポータブルタイプなので、メンテナンスの現場に持ち込んでの測定も可能です。
産業機械のレベル(水平)出しの効率化
「WMシリーズ」なら、ワイヤレスプローブを当てるだけの簡単な操作で産業機械のレベル(水平)を1人で測定することができます。さらに、これまでに紹介した以外に、以下のようなメリットがあります。
- 広範囲を高精度に測定可能
- 最大測定範囲25mの広範囲なエリアを、高精度に測定可能。測定の手順を記憶させ、同じ箇所を測定することができる「ナビ測定」モードも搭載しているため、誰が測定してもデータがバラつきません。
- 3D CADデータと照合ができる
- 3D CADファイルから読み込んだ形状と、測定対象物の形状を比較測定できます。また3D CADデータとの差分をカラーマップ表示することもでき、自由曲面、輪郭度測定に対応しています。
- 写真付きの検査成績書が残せる
- どこを測定したかが一目でわかる写真付きの検査成績書を、自動で作成することができます。取引先との信頼につながるだけでなく、測定結果をデジタルで残すことができるので、社内のデータ管理の効率化にもつながります。
- わかりやすいインターフェース
- 三次元測定機のインターフェースというと、難解で馴染みにくいコマンドが多いイメージがありますが、「WMシリーズ」では、画像やアイコンなどで誰にでも親しみやすい操作性を追求し、直感的な操作を可能にしました。
「WMシリーズ」は、産業機械のレベル(水平)の測定はもちろん、3D CADデータとの照合作業などを強力にサポート。産業機械の製造から設置・品質管理に欠かせない業務まで、飛躍的な効率化を実現します。