あらゆる製品に用いられている金属材料は、使用や周囲環境によって、いつか必ず破損します。破損原因は金属材料を観察し、破断面を正確に捉えて解析(破面解析)することで、はじめて特定することができます。
特に自動車・航空宇宙関連など安全性が重要となる分野では、材料品質が製品の品質保証・改善の基礎といえます。
ここでは、金属材料の破面解析の手法や破壊様式と破断面の特徴について解説。そして、4Kデジタイルマイクロスコープを使った、従来の顕微鏡での破面解析における課題解決事例を紹介します。

金属破断面の破壊様式と破面解析の課題解決

金属破断面が語る破損原因

鉄鋼・銅・アルミニウム合金などの金属材料は、家電製品や玩具から工業やインフラの設備・装置までさまざまな製品に使用されています。
なかでも近年は、自動車業界や航空宇宙関連の分野を中心に、新しい高機能材料の研究が盛んに行われています。その背景として、省エネルギー化や製造・加工の低コスト化を目的とした小型化・軽量化・高剛性の両立要求などがあります。自動車や航空機、船舶、鉄道車両、有人宇宙船などの場合、金属材料の破損は人命に関わるリスクが伴うため、強度計算に基づいたシビアな材料選定と安全設計が求められます。

金属材料の選定にあたり、応力に対するさまざまな材料試験が実施されています。
代表的な試験方法として、下記が挙げられます。

機械的試験:
引張試験・曲げ試験・圧縮試験・せん断試験・クリープ試験・摩耗試験など
硬さ試験:
押し込み硬さ試験・動的硬さ試験
化学的試験:
腐食試験

こうした材料試験、あるいは製品出荷後の使用により破損した金属材料の破断面を組織観察(破面解析)することで破壊原因調査・素材基礎特性調査を実施し、材料を評価・選定・または改善する必要があります。

破面解析の種類

破面解析により金属材料がどのように壊れたか(破面様式、または破壊形態)を組織観察によって調査することで、材質・製造方法・形状・使用状況などさまざまな角度から考察し、主因を推定します。破断面の組織観察の方法はいくつかありますが、金属材料の主な破面解析方法として、以下が挙げられます。

マクロ観察

肉眼や低倍率のルーペや実体顕微鏡などによる解析です。破損が生じた現場で簡単に行える方法で、破壊の種類やビーチマークの有無などでおおまかな原因を区別する際に用いられます。ただし、マクロ観察だけでは、どのように破損したのかを詳しく調べることはできません。

ミクロ観察

ミクロ観察は、光学式顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)などを用い、破断面の組織観察によってミクロ的特徴を調べます。ディンプルや縞模様など、さまざまな破断面の特徴を捉えることで、破壊様式を詳しく調べることができます。

ミクロ観察
4Kデジタルマイクロスコープによるビーチマークのミクロ観察

金属材料の破壊様式

破壊様式(破壊形態)は、「延性(塑性)破壊」「脆性破壊」「疲労破壊」「環境破壊」に分類されます。それぞれマクロ観察・ミクロ観察することで破断面の特徴を観察することができ、破損原因を調査することができます。各破壊様式の概要と、破断面の要旨を解説します。

延性破壊(塑性破壊)

延性(塑性)破壊は、多くの金属材料に見ることができる破壊様式で、破壊に至るまで、伸びやネッキングなどの大きな変形が見られます。組織観察では下記のような特徴と詳しい破壊様式を見ることができます。

破断面の特徴
マクロ観察:
シェアーリップ(せん断破壊・最終破断部)・鈍い灰白色
ミクロ観察:
等軸ディンプル(引張破壊)・伸長ディンプル(せん断破壊)・うねった縞模様(すべり面破壊)

脆性破壊:

脆性破壊とは、塑性変形がほとんど見られず、高速に亀裂が伝搬した破壊のことです。亀裂が進行するとき、破断面の周辺に塑性変形を伴いません。一般に鉄鋼材料の多くは、通常使用において脆性破壊します。その破断面は多くの場合、「擬へき開破面」で構成されており、大型の調質鋼や摂氏マイナス数十度の環境におかれた一般構造用鋼などに見られます。

破断面の特徴
マクロ観察:
銀白色のキラキラした反射、シェフロンパターン(山形模様:粒内型急速破壊)、亀裂の進展方向が放射状模様
ミクロ観察:
擬へき開破面・リバーパターン・粒状破面・複雑破面

疲労破壊

疲労破壊とは、繰り返し荷重を受けて徐々に亀裂が進展する破壊で、機械構造物の破壊様式の7割以上がこの疲労破壊であるといわれています。
破損した材料の外観は、伸びやネッキングが見られないため脆性破壊に似ていますが、ミクロ観察では、塑性変形が顕著であることがわかります。
破断面は他の破壊様式に比べて平滑なことが多く、マクロ的な特徴として「ビーチマーク(貝殻状模様)」が見られます。このビーチマークの様子から破壊が開始した部位や亀裂の進展方向を知ることができます。
また、ミクロ的な特徴としては、「ストライエーション」という縞模様が代表的です。亀裂の進展方向に対して垂直な縞模様で、アルミ合金や銅合金などに生じやすく、鉄系合金では生じにくいといわれています。

破断面の特徴
マクロ観察:
ビーチマーク(貝殻状模様)・ラチェットマーク(複数の応力集中箇所)・フィッシュアイ(破壊の起点)・亀裂の進展方向が放射線状模様
ミクロ観察:
ストライエーション(応力サイクルと対応している)・ストライエーション状模様(応力サイクルと対応しない)・2次クラック・ラブマークまたは無特徴破面

環境破壊

環境破壊とは、腐食性環境により亀裂が進展して生じる破壊のことです。そのため、外部応力がきわめて小さい場合にも破壊が生じることがあります。
代表的な環境破壊として「水素脆性」と「応力腐食割れ」が挙げられます。

水素脆性
「遅れ破壊」とも呼ばれ、鉄鋼材料で多く見られます。材料に侵入した水素により脆化する現象で、溶接や電気めっきなど部材の製造工程で水素が侵入してしまうケースや、使用環境での腐食反応により侵入するケースが代表的です。
応力腐食割れ
オーステナイト系ステンレス鋼を材料とした事故で多く発生しています。特にC1-イオンがある使用環境で粒内型の破壊が起こる場合が多く、ステンレス鋼以外のたとえば、純銅・黄銅・アルミ合金などでは粒界型の破壊が起こります。
破断面の特徴
水素脆性
マクロ解析
銀白色のキラキラとした反射
ミクロ解析
粒状断面・ヘアマーク
応力腐食割れ
マクロ解析
部分的な反射・発錆変色
ミクロ解析
粒状破面・羽毛状模様
高温破壊
マクロ解析
ミクロ解析
粒状破面・ディンプル・引け巣

破面解析における課題と解決

先述の通り、破断面の観察にはマクロ観察だけではく、ミクロ観察をすることでより詳しい破壊様式を調べることができ、破壊の原因や様子を知ることができます。多くの場合、ミクロ観察には顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)などが用いられますが、金属材料の破面解析において、いくつかの課題がありました。

それらの課題を解決し、さまざまな破壊様式を高精細に捉えて、より確かな破面解析を可能とするのが、最先端の光学技術と画像センサ(CMOS)、画像処理技術を駆使した「4Kデジタルマイクロスコープ」です。
ここでは、キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」による破面解析の課題解決を紹介します。

従来の顕微鏡での観察
4Kデジタルマイクロスコープでの観察

金属破断面のハレーションを除去

従来の課題:顕微鏡の場合

金属破断面が乱反射することでハレーションが生じ、亀裂の観察が困難な場合がありました。鮮明に見えないことで亀裂を見逃がし、解析ミスの原因となる場合がありました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

「ハレーション除去機能」により、不要な反射を抑制することができるため、金属破断面の微細な亀裂も鮮明に捉えることができます。

通常
ハレーション除去後

凹凸のある金属破断面でも、全体にフルフォーカス

従来の課題:顕微鏡の場合

金属材料の破断面は、多くの場合立体的です。破断面に多数ある凹凸から特徴をそれぞれ観察するため、何度もピントを調整する必要があり、解析に多くの時間を要しました。また、全体像による総合的な観察ができないことも課題でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

「ライブ深度合成」機能により金属破断面の全面にピントが合わせることができます。何度もピント合わせをする時間を短縮できるほか、破断面に多数存在する複合的な特徴を観察し、評価することが可能です。

通常
深度合成後

角度・影に影響されず細部を解析

従来の課題:顕微鏡の場合

金属破断面の凹凸形状は、ピント合わせが難しいだけでなく、角度によって影のつきかたが変わり、照明設定の条件出しが困難かつ多くの時間がかかりました。また、1つの照明条件の画像データだけでは破壊様式を説明することが困難なケースもあります。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

マルチライティングによる観察画像比較

ボタンを押すだけで、全方位の照明データを自動取得する「マルチライティング機能」を用いることで、組織観察に最適な画像を選択することができます。
また、撮影した画像の選択・書き出し後であっても、各照明条件の画像データがパソコンに保存されています。簡単なマウス操作だけで、照明条件の異なる画像を呼び出すことができます。

通常
マルチライティング画像

薄い模様の微細形状まで鮮明に

従来の課題:顕微鏡の場合

金属破断面の破壊様式によっては、模様が薄いことがあります。その場合、破面解析に多くの時間がかかり、コントラストが低すぎるためにうまく観察できないことがありました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

専用設計の高解像度HRレンズと4K CMOS、照明を組み合わせた新しい観察方法「Opt-SEM(Optical Shadow Effect Mode)」では、多方向からの照明で撮影した変位(コントラスト)を解析します。
それにより、金属破断面の淡く微小な凹凸も逃さず鮮明に観察することが可能になりました。また、Opt-SEM画像にカラー情報を合成することで凹凸情報の色分け表示も可能です。

従来(×50)
Opt-SEM画像(×50)

破面解析の高度化と効率化

このように、高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を用いることで、従来の顕微鏡やSEMではうまく観察できなかった金属破断面も、簡単に見ることができます。

これまで金属材料の破面解析にかかっていた時間を大幅に短縮できるため、品質改善サイクルやR&Dをスピードアップし、作業効率において従来の顕微鏡やSEMに大きな差をつけることができます。また、金属破断面の特徴を正確に捉えた画像データを残すことができるため、過去の傾向や比較によるスムーズな材料の選定・改善が実現します。

他にも最先端の機能を数多く搭載した 「VHXシリーズ」は、R&Dで時代をリードするための高度な破面解析や組織観察の効率化を実現する強力なパートナーとなります。詳細に関しては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。