金属組織の観察方法と観察・計測の合理化
近年、自動車業界では、マテリアル(材料)による軽量化と剛性の両立において各社競争が激化しています。より高機能なマテリアルの採用に伴い、最適な金属材料の選定・使用に欠かせない、金属組織の観察・計測に正確さと手軽さ、そしてスピードが要求されるようになりました。
ここでは組織観察の基礎と課題、そして4Kデジタルマイクロスコープによる最新事例までを紹介します。
金属材料と組織観察の必要性
金属材料は、自動車・航空関連をはじめ、インフラ、電機製品、電子デバイスなどあらゆる分野で使用されています。それぞれ使用目的に合った金属・合金を選択・使用しますが、まったく同じ金属・合金成分であっても、「金属組織」によって耐久性や加工性などに関わる「機械的性質」が異なります。組織観察によって、金属材料の性質や加工・熱処理などに対する変化を評価・判断することができ、適した材料の選択・使用を可能とします。
金属材料の破損が製品の安全性や人命に関わるケースがある自動車などの分野においては、金属の組織観察による機械的性質の評価・判断、表面処理や熱処理後の評価、また、非金属介在物・割れ・気泡などの不良分析は、特に重要となります。
金属材料の機械的性質とは
金属材料における機械的性質とは、強度・硬さ・粘り強さ・疲労特性・耐摩耗性など力学的な性質を指します。金属材料は、同じ材料や成分などの割合が同じ状態(組織)であっても、熱処理によって金属組織が変化することで、機械的性質が変化します。材料の耐久性はもちろん、切削や塑性など機械加工の効率や熱処理における特性変化に大きく関係しています。
金属組織と温度による変化
一般に、金属組織は原子が規則的に並んだ「結晶構造」から成りますが、すべての原子が規則的な配列であるとは限りません。多くの結晶粒が規則的に並んだ結晶構造を「多結晶」、原子配列の乱れた領域において結晶粒と結晶粒の境界を「結晶粒界」と呼びます。
こうした金属組織の結晶構造は、熱処理など温度によって結晶粒界のパターンが変化します。同じ金属材料であっても熱処理により異なる変化が得られるため、金属組織の結晶粒の形状・大きさ・分布の変化を観察することで、熱処理後の機械的性質を知ることができます。
例として、ステンレス鋼(SUS材)の熱処理による組織変化を以下に示します。
- オーステナイト(SUS304)
- 常温では存在しない組織ですが、FeとCの合金では、723℃以上の温度において組織が安定します。また、焼入れ性を高める合金元素(NiやMn)を多く含むことで組織が安定します。焼入れ後に変化しないで鋼中に残ったオーステナイト組織を「残留オーステナイト」といいます。
- マルテンサイト(SUS410)
- オーステナイト組織を急冷した時に生じる組織で、硬く脆い組織です。マルテンサイトを100~200℃で焼戻しすると、Fe3Cが析出され、若干粘り強くなる一方腐食されやすくなります。この状態のマルテンサイトは、焼入れしたものと区別し「焼戻マルテンサイト」と呼びます。
- フェライト(SUS430)
- Feに最大0.02%のCが含まれ、純鉄に近い組織です。常温から780℃までは強磁性体で、鉄鋼組織の中でもっとも軟らかく延性に優れます。
また、オーステナイト状態の鋼を、ゆっくり冷却したときに得られる組織が「パーライト」です。冷却速度によって層の間隔が異なります。フェライトとFe3Cが極めて薄い層で交互に並ぶことで、真珠貝のような色合いとなることからパーライトと呼ばれます。
顕微鏡を用いた金属組織の観察方法
一般的な顕微鏡を用いた金属組織の観察の試料作製・観察までのプロセスを下記に示します。
1.包埋(樹脂埋め)
切り出した試料を樹脂で固めます。硬化させる樹脂にはさまざまな種類があります。透明度が高く短時間で硬化する一液性可視光硬化などが用いられます。円柱状ケースに試料を入れ、硬化させる樹脂をゆっくり流し込みます。このとき気泡ができないよう注意が必要です。
2.研磨
耐水研磨紙を用いた粗研磨と平面研磨機を用いた精密研磨で試料を研磨します。 SiC紙80~2400を粗い順に湿式法で使用します。精密研磨では9~0.25μm粒度のダイヤモンドスプレーを合成絹など研磨剤や潤滑剤、アルカリ性懸濁液を用いて鏡面に仕上げ、試料面を流水で洗浄します。
3.エッチング(腐食)
試料に合ったエッチング液(腐食液)に試料の研磨した面を漬け込みます。腐食液を水で洗い流し、エチルアルコールなどに漬けてから乾燥させます。
4.顕微鏡での組織観察
上記の制作工程を経て、正しく制作された試料の研磨した面を顕微鏡で観察します。組織を拡大しピントを上手く調整することで、入熱による組織の変化を観察します。ただし、非金属介在物や黒鉛球状化、フェライト、パーライトなどの面積率など高度な測定は、専用のソフトウェアに移行して行う必要があります。
金属組織の観察の最新事例
従来の顕微鏡による組織観察を大きく変えたのが、最新のデジタルマイクロスコープです。
キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を用いることで、高精細画像による金属組織の観察・評価の高度化はもちろん、さまざまな作業を大幅に効率化することができます。
4K超高精細画像による金属組織観察
従来の顕微鏡では、試料作製に多くの工数を要しました。また、包埋(樹脂埋め)した試料の観察面が平坦でない場合、高倍率ではわずかな高さの違いでピントが合わず、シビアな調整を要しました。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、「ナビライブ合成」により簡単操作で素早く深度合成が可能なためピント調整が不要です。それにより、包埋(樹脂埋め)の観察面が平坦でない場合でも、金属組織全体にピントが合い、超高精細4K画像を用いた鮮明な組織観察を簡単に実行することができます。
4K HDR機能で、肉眼に迫る鮮明な観察が実現
従来のマイクロスコープを用いた組織観察では、解像度不足や色調の薄い組織の観察が困難でした。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、シャッタースピードを変えて高階調の画像を複数取得する「HDR(High
Dynamic Range)機能」を搭載。従来は解像度・コントラストの不足により観ることができなかった、組織の詳細を高精細・高コントラストな画像で観察することができます。
高速な画像連結による広範囲撮影画像
従来は、高倍率・高解像度で撮影ができても、視野が狭いため、それが試料のどの部分なのかがわかりにくいという課題があり作業効率低下の原因となっていました。
「VHXシリーズ」の画像連結機能であれば、画像連結ボタンを押すだけで、高速かつ画像のズレなく視野をつなぎ合わせ、最大50000×50000ピクセルの画像連結が可能です。倍率・解像度はそのままに、これを鳥瞰図とした効率的な観察が実現します。
金属組織を1クリックで計測
従来の顕微鏡では、熱処理後のフェライトやパーライトの品質を面積率によって定量的に評価ができませんでした。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、「自動面積計測」機能を搭載。マウスによる簡単な操作で金属組織の拡大観察から面積率の自動計測による定量評価、レポート出力まで、一連の作業が1台で素早く完結します。
黒鉛球状化の観察・面積率計測
従来は、非鉄金属介在物の測定や黒鉛球状化率、フェライト、パーライトなどの面積率といった高度な計測は、別途専門的なソフトウェアを併用する必要がありました。
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、「自動面積計測・カウント」機能を搭載。簡単な操作で、指定した範囲における面積率の計測やカウントを実行できます。不要な対象物の除外や重なり合う対象物の分離も可能です。これにより、マイクロスコープでの観察と同時に、高度な計測数値の表・グラフ化を簡単に実現します。
業界をリードするための金属組織観察・計測
自動車を代表に、軽量化による低燃費化と剛性の両立を目指し、常に新しいマテリアルと処理技術で時代をリードするため各社しのぎを削っています。
高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を金属組織の観察に用いることで、従来の顕微鏡に比べ圧倒的な作業効率化や、これまでは不可能だった高精細な観察、高精度な計測を可能としました。
他にも最先端の機能を数多く搭載した
「VHXシリーズ」は、マテリアル選定のスピードと正確さが求められる業界において、パワフルなツールとなります。
「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。