石油業界でのプラント建設や建築業界などでの素材研究、大学の研究機関など、幅広い分野で鉱石や岩石などに含まれる鉱物の拡大観察が必要とされます。鉱物は、多くの場合、目視やルーペでのマクロ的な実態観察では含有物の同定などが困難であるため、偏光顕微鏡を用いた観察が行われます。
ここでは、偏光顕微鏡の基礎や鉱物の代表的な観察項目の解説、そして、偏光観察にも対応する4Kデジタルマイクロスコープを用いた鉱物の偏光観察事例を紹介します。

鉱物の高解像度画像での偏光観察

鉱物の目的別の観察方法

鉱石や岩石の隙間にある微小な鉱物の集合体や結晶形態、鉱石や岩石の組織を数十倍程度の低倍率で観察して同定する場合は、10倍程度拡大できるルーペよりも倍率が高く立体視が可能な「実体顕微鏡」を用います。
一方、鉱石や岩石の中の鉱物の種類や組織などを調べる場合には、プレパラート(薄片)の試料を作成し、「偏光顕微鏡」を使って観察します。一般に、50倍以上に拡大して鉱物やその組織を観察して同定します。

偏光顕微鏡とは

偏光顕微鏡とは、光学顕微鏡の一種で、一定方向に振動する光のみを透過させる「偏光」を用い、物質によって異なる光の振動方向を利用した観察が可能な顕微鏡のことです。後に説明するニコル(偏光板・偏光フィルタ)を搭載したレンズや照明などを活用します。

一般的な偏光顕微鏡では、「偏光ニコル(ポラライザー・偏光子)」と呼ばれる偏光板で照射した光を偏光に変化させ、対物レンズ・接眼レンズの間にあるもう1つの偏光板である「分析ニコル(アナライザー・検光子)」によって試料を通過した光の偏光状態を検出します。これにより、試料の明暗や色のコントラストに変換して、対象物の光学的特性を可視化することができます。

こうした原理を利用して、偏光の条件下における鉱物の光学的性質によって、岩石などに含まれる微小な鉱物の同定や岩石の組織を選択的に捉えて観察することができます。なお、鉱石や岩石の観察を行う際は、照明光が透過するよう対象物を0.03mm前後の厚さに削ってスライドグラスに貼り付けたプレパラートを試料としてステージに設置します。

偏光顕微鏡は、拡大して微小な観察対象の光学的特性を調べることができることから、鉱物のほかにも、ガラスや樹脂(フィルムなど)、ポリマー、繊維、高分子素材とそれを原材料とする医薬品などの研究に幅広く用いられています。

ニコル(平行ニコル・クロスニコル)とは

通常の光はさまざまな方向に振動しています。その光を「ニコル」という偏光フィルタ(偏光板)に通すことにより、特定の方向に振動する光(偏光)に変えることができます。ニコルに対して試料側を回転させて偏光する方向を変化させると、捉える光の振動方向が変化するため、特定の対象物とその特性を選択的に検出することができます。
ニコルを用いた代表的な偏光観察方法として、以下の2種類が挙げられます。

平行ニコル
平行ニコル
クロスニコル
クロスニコル
A
B
ニコル
C
振動方向

平行ニコル

1方向のニコルでプレパラートを観察することを指し、単ニコルや開放ニコルとも呼ばれます。左の図のように、ニコルと同じ方向に振動する光だけを透過します。

クロスニコル

直交ニコルとも呼ばれます。互いの偏光する方向が直交する2つのニコルの間にプレパラートの試料を入れて観察することを指します。右の図のように、2つのニコルに対して垂直および平行方向に振動する光は透過しません。なお、この2つのニコルを重ね合わせると暗黒になりますが、これらの間に置いた試料の光の振動方向によっては、クロスニコルを通過して観察することができます。

鉱物の偏光観察における項目

鉱物の観察において偏光顕微鏡がどのように活用されるのか、その代表的な観察項目について解説します。

鉱物の形態

肉眼で鉱石や岩石を観察した場合、柱状や板状など大まかな形態しか見ることができません。一方、鉱石を薄くスライスしてプレパラートの試料を作成し、偏光顕微鏡を使って平行ニコルで観察することにより、その断面における鉱物の形態を拡大して選択的に観察することができます。

へき開

へき開線と呼ばれる複数の互いに平行、またはある一定の角度で互いに交わる、直線的な割れ目(筋)を平行ニコルで偏光観察します。

屈折率

光が鉱物を通過するとき、どの程度光が屈折するかという度合いである「屈折率」を調べます。偏光顕微鏡での観察では、平行ニコルで鉱物の割れ目(筋)や輪郭が黒く鮮明に見えるかどうかで屈折率を調べることができます。

多色性

多色性とは、色を確認することができる鉱物で、平行ニコルの偏光下において試料を回転させたとき、色が変化することを指します。多色性における色変化では、試料側を360°回転させるたびに2回ずつ同じ色を見ることができます。たとえば、普通角閃石の偏光観察では、90°回転させるごとに、淡褐色・濃緑褐色が交互に現れて多色性を示します。

累帯構造

累帯(るいたい)構造とは、単一の結晶の成長において、最後に成長した周辺部と最初に成長した中心部とで成分が異なる構造のことです。こうした構造は、火成岩に含まれる斜長石や輝石などの鉱物に多く見られます。累帯構造の偏光観察にはクロスニコルを用います。

干渉色

クロスニコルでの偏光観察で試料側を360°回転させるごとに4回ずつ明暗を繰り返します。その中で最も明るく見える位置を「対角位」といいます。対角位において観察できる鉱物の色が「干渉色」です。

消光角

クロスニコルでの偏光観察で試料側を回転させると、複数の鉱物の結晶が明るく、または暗く見えます。中でも360°の回転で4回暗くなる鉱物において、最も暗く(暗黒)なった位置が「消光位」です。この消光位と視野の垂直方向との角度が「消光角」です。

伸長の正・負

λフィルター(鋭敏色検板・1波長板)をクロスニコル間に挿入した状態で、試料側を回転させると結晶の割れ目(筋)や薄い縁辺部が黄色や青に見えます。 対象物が青色に見える位置で回転を止め、λフィルターのZ´方向と鉱物の伸び方向がおおむね一致した場合、伸長は「正」。一方、X´の方向に一致した場合、伸長は「負」であることがわかります。

双晶

双晶とは、鉱物の結晶内のある格子面を境界として、原子配列の向きが規則的に変わることをいいます。双晶した鉱物は、クロスニコルで結晶内において、消光した部分としていない部分が明暗の直線の条線として見ることができます。この明暗は試料側を回転させることによって逆転します。

離溶組織

離溶組織とは、ゆるやかな温度低下によって固体の鉱物が固体のまま2種以上の鉱物に分離(離溶)してできた組織のことです。離溶組織はクロスニコルで偏光観察することができます。

鉱物の偏光観察における4Kデジタルマイクロスコープの活用事例

鉱物の偏光観察では、角度による見え方の変化を鮮明に捉える必要があります。しかし、鉱物の観察では、透過照明の条件出しなどの難易度が高く、習熟や経験、そして多くの時間を要するうえ、観察者によって評価がバラつくといった課題がありました。
キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、高性能な光学系と4K CMOS、簡単な操作で多彩な機能を活用できる独自の観察システムを採用しています。
また、平行ニコルやクロスニコルでの観察に対応しているため、鉱物の偏光観察においても高解像度な4K画像を簡単な操作で取得でき、鉱物の同定や組織観察を効率的かつスピーディに行うことができます。
ここでは、「VHXシリーズ」を使った鉱物の偏光観察の事例を紹介します。

鉱物の偏光観察

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ピント合わせや回転を含むステージ駆動などをフル電動で行う独自の観察システムにより、偏光観察を正確かつ効率的に行うことができます。
簡単な操作と高機能を実現した観察システムに加え、観察者のあらゆるニーズに応えるレンズをラインナップし、平行ニコルやクロスニコルでの観察に対応します。
スイングヘッドズームレンズ(VH-ZST)を使用することにより、倍率によってレンズを交換することなく、20~2000倍の幅広い倍率に対応。本体での制御によるミックス光や各種光学アダプタによる多彩な照明で、鉱物の同定や組織観察において最良な環境が実現します。これらの高性能な光学系や照明を使い、4K CMOSで結像することにより、これまでにない高精細な4K画像で鉱物を観察することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での鉱物の偏光観察(平行ニコル・クロスニコル)
透過偏光照明 + 平行ニコル(使用レンズ:VH-ZST ×50)
透過偏光照明 + 平行ニコル(使用レンズ:VH-ZST ×50)
透過偏光照明 + クロスニコル(使用レンズ:VH-ZST ×50)
透過偏光照明 + クロスニコル(使用レンズ:VH-ZST ×50)

鉱物をはじめ、あらゆる観察・解析を実現する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、高精細な4K画質を実現した偏光顕微鏡としてはもちろん、実体顕微鏡や金属顕微鏡、測定顕微鏡としても高い性能・機能を発揮し、明視野・暗視野・偏光・微分干渉など多彩な観察方法をカバー。あらゆる対象物の観察・解析に自動制御を活用でき、研究における業務を強力にサポートします。

「VHXシリーズ」は、照明の条件出しをボタン1つで効率化する「マルチライティング」機能のほか、高倍率においても立体的な対象物を含む視野全域のフルフォーカス画像が取得できる「深度合成」機能など、従来は不可能だった4K画像での高度な観察を実現する機能が充実しています。
また、サブミクロンオーダーでの高精度な2次元・3次元測定、3D画像の取得やプロファイル測定、そして自動面積計測・カウントといった高度な解析も直感的な操作で実行することができます。
さらに、「VHXシリーズ」にExcelを直接インストールし、任意のテンプレートを用いたレポートの自動作成も可能です。「VHXシリーズ」1台で観察・解析における一連業務をシームレスかつ効率的に完結することができます。

「VHXシリーズ」の詳細に関しましては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。