各種プラント設備や自動車など、さまざまな分野の金属接合に用いられている「溶接」。溶接部の溶け込み・母材・ビードは、長期使用に伴う応力や腐食などにより不良が生じることがあります。そのため、溶接部表面・断面の観察・解析が重要です。従来の顕微鏡による観察・解析の概念を大きく変えた、最新の4Kデジタルマイクロスコープの観察・解析事例とともに紹介します。

溶接部の溶け込みの組織観察と不良解析の手法

溶接の溶け込み解析の重要性

金属の接合方法の中でも「溶接」は、合理的かつ気密性が高いことから、さまざまなシーンで活用されています。インフラ設備から建造物、自動車、電機製品、電子デバイスまで、用途や母材に応じて各種アーク溶接やレーザー溶接、抵抗スポット溶接などさまざまな溶接法が用いられています。

なかでも各種プラントにおけるプロセス設備は、数十年といった長期間の使用を前提としているため、きわめて高度な溶接品質が要求されます。火力発電プラントや石油を原料に新しい素材をつくる石油化学プラントのほか、一般化学製品・医薬品・食品などをつくるプラント、汚水を浄化する水処理プラント、再資源化のプロセスを担う産業廃棄物処理プラントなど多種多様なプラントがあります。いずれのプラント設備もさまざまな性質・状態の液体や気体を扱う大型設備です。それゆえ、溶接溶け込みに老朽化や不具合が生じた際、金属組織の表面・断面の観察・解析は、不良とその原因を特定するうえで重要であると同時に、難易度が高いといわれています。

溶接溶け込み(金属組織)の観察方法・解析手法

プラント設備のような大型設備の場合、そのままの状態ではミクロ解析が困難です。溶接箇所の融合不良・スラグ巻き込み・割れ(応力腐食割れ・疲労割れ)などの表面または内部欠陥の顕微鏡を用いた観察・解析には、多くの場合下記2種類の試料制作方法が用いられます。

樹脂埋め(包埋)した試料の顕微鏡観察
不具合があった箇所の溶接部分を切り出して試料とし樹脂埋め(包埋)し、溶接欠陥・不良を顕微鏡観察します。試料を切り出すため、溶け込みの断面を観察することも可能です。
SUMP法(スンプ法)による顕微鏡観察
SUMPとは、Suzuki’s Universal Micro Printingの略で、日本語では「鈴木式万能顕微印画法」を意味します。顕微鏡観察用試料として切り出すことが難しい場合、現地で検体の表面をセルロイド薄膜に転写して顕微鏡で観察します。電子顕微鏡観察などに用いられる「レプリカ」の試料はこのSUMP法が基になったといわれています。

これらの試料制作による観察方法は、プラント設備のみならず、溶接不良・欠陥が大事故に繋がる、自動車・航空関連・鉄道車両・船舶などでも用いられています。それぞれ、表面観察・断面観察などさまざまな手法で溶接部の金属組織を観察・解析します。

溶接溶け込み観察・解析の最新事例

近年は、テクノロジーの進歩により、デジタルマイクロスコープが従来の顕微鏡の諸課題を解決し、溶け込みの観察・解析における試料拡大の鮮明さや作業性を大きく変えました。

キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、最先端の高解像度HRレンズ・4K CMOS・照明・画像処理技術により、従来の顕微鏡に比べ、飛躍的に鮮明な画像による観察、そして合理的な解析が可能になりました。

溶接溶け込み組織の断面観察・不良解析

従来の顕微鏡では、溶接溶け込みの金属組織を観察する際、一部にしかピントが合わず、観察作業に時間がかかりました。また、精度の高い観察・解析を実現するには習熟度が問われました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、「ナビライブ合成」による深度合成で、クイックかつ簡単に試料全体にフルフォーカスした画像での観察が可能です。それにより、習熟度に関わらず溶け込みの金属組織の状態や微細な母材の割れなども見落とすことなく、鮮明に観察することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での溶け込み断面の割れ観察
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での溶け込み断面の割れ観察

溶接溶け込みのSUMP法試料による組織観察

従来の顕微鏡では、SUMP法で作成したサンプルは、高倍率で観察することが必要であるため、ピントが一部にしか合わないことが多くあります。また、レプリカは色調が薄く、観察が困難なケースがありました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、SUMP法の試料やレプリカの凹凸や色調に対しても、鮮明な高解像度4K画像と「ナビライブ合成」による深度合成により、試料全体にフルフォーカスした画像での観察・解析が可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのSUMP法試料の観察
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのSUMP法試料の観察

手持ち観察による現場でのミクロ解析を実現

従来は、大型の被検体を現地で顕微鏡観察できないため、切り出した試料の樹脂埋め(包埋)や、切り出しが不可能な場合は、SUMP法などによる転写やレプリカを用いて観察・解析するほかありませんでした。また、作成した試料の品質が観察・解析の正確性や作業性を左右しました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、手持ち観察においても専用レンズの深い被写界深度による鮮明な拡大画像により観察・解析が可能です。試料制作の作業や手間と時間を省略し、現地で現物を非破壊にて観察・解析することができます。

手持ち観察の例
手持ち観察の例

1台で2D・3Dのさまざまな計測・測定が可能

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、鮮明な拡大・観察だけでなく、従来の顕微鏡では不可能だったさまざまな計測・測定、そして数値の取得が可能です。
マウスによる簡単な操作で、金属組織や金属製品の検査に役立つ平面計測・3D計測・粗さ測定・コンタミ計測・結晶粒度測定などが、これ1台で手軽に実現します。

3D計測の例
3D計測の例

溶接溶け込み観察・解析の新常識

さまざまな金属製品・設備の安全性に大きく関わる溶接とその金属組織の観察・解析はきわめて重要です。ゆえに、観察・解析には常に正確性や精度、そしてトラブルの場合はスピードも問われます。

「VHXシリーズ」は、他にも従来は不可能だった機能を多数搭載しています。レンズ交換なく20~6000倍まで簡単な操作により自動で倍率を変更する「シームレスズーム」や、微小な凹凸も鮮明に表現する「Opt-SEM」や「マルチライティング」、簡単な操作で実現する2次元・3次元寸法測定、保存したデータを選択するだけで各種設定の自動再現、保存データを用いたレポート自動作成など、最先端の機能を数多く搭載しています。
画像の鮮明さはもちろん、各種作業やデータ取得・保存・活用においても、従来の溶接の溶け込み観察・解析の常識を大きく変える強力なツールです。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。