さまざまな原因により発生・成長する「ウィスカ」は、電機機器や電子デバイスの短絡など、市場でのトラブルを招くため対策が必要です。ここではウィスカの発生原因や成長メカニズムと環境、各種の評価試験を解説します。そして、従来の光学顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)におけるウィスカ観察の課題を解決する、最新の4Kデジタルマイクロスコープによる改善事例を紹介します。

ウィスカの発生原因と試験、観察・評価の課題解決

ウィスカの問題と発生原因

「ウィスカ(whisker)」とは、金属表面に金属単結晶が自然成長する現象のことで、特に錫(Sn)メッキや亜鉛(Zn)メッキなどから発生します。ウィスカという語が、猫やネズミなどのヒゲを意味する通り、金属結晶が針状やノジュール状に成長します。

ウィスカの問題と変遷

たとえば、電子回路や接続部でウィスカが成長した場合、ショート(短絡)が起こり、電機製品や電子回路、電子デバイスなどの故障原因となります。
1946年、ラジオのバリアブルコンデンサのめっきにカドミウムが使用されていたことから市場で短絡故障が相次ぎ、カドミウムのウィスカが注目されました。
1950年代には、鉛を微量合金化させることでウィスカを制御する対策が広まりました。しかし、2000年以降になって、実装の鉛フリー化の波により錫めっきが採用されるようになりました。すると、腕時計から原子炉、NASAの人工衛星やスペースシャトルなどの航空宇宙分野にまで、ウィスカによる故障が相次ぎ、重要な問題として再びクローズアップされるようになりました。

ウィスカの発生原因

ウィスカの発生原因として主に下記の影響が考えられています。

  • 金属間化合物の拡散の影響
  • ガルバニック腐食*による影響
  • 外部応力による影響
  • 熱膨張係数の差による応力の影響

他にもさまざまな要因が考えられていますが、ウィスカの根本的なメカニズムは解明されていません。

ガルバニック腐食… 異種金属の電気的な接続において、両者間の電位差によって生じる腐食で「異種金属接触腐食」とも呼ばれる。

ウィスカが発生する環境

錫や亜鉛のウィスカは、室温付近でも早い拡散が見られますが、いくつかの環境影響によって元素拡散が促進されます。ウィスカが発生する環境条件の代表的な例を下記に挙げます。

  • 室温における発生
  • 温度サイクルで発生
  • 酸化・腐食性発生
  • 外圧下で発生する
  • エレクトロマイグレーション現象*で発生

エレクトロマイグレーション現象で発生するウィスカは、電流密度が高い半導体やフリップチップなど特殊な実装で現れます。

エレクトロマイグレーション現象…集積回路内部の金属配線に電流を流すことで、金属原子が移動してしまう現象です。たとえば、アルミ配線では電子が流れる方向にアルミ原子が移動することで、陽極側にウィスカやヒロックが発生・成長します。

ウィスカの試験と観察・評価

ウィスカの発生・成長は電機・電子製品の故障原因となるため、対策を取るためにさまざまな試験と観察・評価が実施されています。ここでは、ウィスカ評価試験の種類と環境などの例と、観察・評価の現状と傾向について説明します。

ウィスカ評価試験の例

現在取り組まれているウィスカ評価試験の種類と環境などの例を以下に示します。

室温放置試験
金属間化合物/拡散の影響により発生するウィスカの成長観察
環境:30±2℃/60±3%RH・時間:4000Hr
恒温恒湿試験
ガルバニック腐食により発生するウィスカの成長観察
環境:55±3℃/85±3%RH・時間:2000Hr
温度サイクル試験
熱膨張係数の差により発生するウィスカの成長観察
環境:低温 -55±5℃または-40±5℃/高温 85±2℃または125±2℃・周期:2000サイクル
外部応力試験
外部応力の影響により発生するウィスカの成長観察
種類:コネクタ嵌め合い試験(実際の製品を用いる)・荷重試験(球形0.1Φのジルコニア球を300gfの荷重で500h保持)

ウィスカ対策の要、拡大観察・評価

各種試験において発生・成長するウィスカの拡大観察による状態解析と評価は、製品の故障リスクを事前に把握し、対策を講じることを可能とします。電機製品や電子デバイスなどの研究開発・回路設計・材料選定・生産など、製品が市場に出る前に重要な情報が得られます。
ウィスカの拡大観察には、一般的な光学式顕微鏡や、光の代わりに短い波長の電子線を利用してナノオーダーの観察が可能な走査電子顕微鏡(SEM)が使用されてきました。しかし、近年は、光学系と画像処理の技術躍進により、簡単な操作で鮮明な画像による観察が可能なデジタルマイクロスコープの登場で、ウィスカの観察・評価を鮮明な画像で効率良く行えるようになりました。

ウィスカ観察・評価の最新課題解決事例

これまでウィスカの観察に用いられていた走査電子顕微鏡(SEM)や顕微鏡にはさまざまな課題がありました。

キーエンスの超高精細デジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、最先端の技術を駆使した高分解能HRレンズ・4K CMOS・映像エンジン・照明などにより、鮮明な4K画像による拡大観察を簡単な操作でスピーディに実現します。従来のウィスカ観察・評価における課題解決の事例を紹介します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのコネクタのウィスカ観察
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのコネクタのウィスカ観察

走査電子顕微鏡(SEM)によるウィスカ観察の課題解決

従来の課題:走査電子顕微鏡(SEM)の場合

ウィスカ観察では、試料室内で試料の位置合わせや、試料室を真空または低真空状態にする「真空引き」など、観察前の段取りに手間と時間がかかりました。
また、試料に対し真上からのみの観察となるため、立体的な形状を持つウィスカを観察するには、アングルを変えるごとに一連の準備作業が必要でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

新開発の光学系と4K CMOSにより、真空室を必要とせず、大気中で視野を逃さず6000倍までの拡大観察を可能としました。SEMの課題だった準備工数を全面カットしながらも、鮮明な4K高解像度画像による観察が可能です。

また、「フリーアングル観察システム」と「高精度X・Y・Z電動ステージ」を利用することで、視野・回転軸・傾斜軸の合った傾斜観察など、自由なアングルからの観察が簡単に実現します。

さらに、「ライブナビ合成」により高倍率・高解像度はそのままに、試料全体へのフルフォーカスが可能です。全体から観察したい箇所をクリックするだけで、ステージ移動とピント合わせ、深度合成まで自動で行うため、試料の位置合わせの手間を省くだけでなく、効率的な観察が可能です。

傾斜観察を可能とする「フリーアングル観察システム」
傾斜観察を可能とする「フリーアングル観察システム」

顕微鏡によるウィスカ観察の課題解決

従来の課題:これまでの光学顕微鏡の場合

立体的な形状を持つウィスカや、ウィスカが発生している試料が立体的な場合、一部にしかピントが合いませんでした。
また、傾斜観察ができないため観察位置の調整に時間がかかり、観察の難易度の高さから習熟度が問われました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」なら

高分解能HRレンズと電動レボルバによる「シームレスズーム」で、20~6000倍までレンズ交換なく鮮明な4K画像での拡大観察が可能です。

A.高分解能HRレンズ B.電動レボルバ
  1. A.高分解能HRレンズ
  2. B.電動レボルバ

また、表面にウィスカによる凹凸があっても、深度合成を含む「ナビライブ合成」で、倍率・解像度はそのままに、対象物全体にピントを合わせることができます。全体にフルフォーカスした画像から観察したい箇所をクリックするだけで、ステージ移動とピント合成までを自動で行うため、作業効率が飛躍的に向上します。

「フリーアングル観察システム」と「高精度X・Y・Z電動ステージ」を用いることで、従来の顕微鏡では不可能だった傾斜観察を実現。自由なアングル、観察位置でノジュール状に成長したウィスカを効率的に観察できます。

立体的に成長するウィスカ観察の新基準

高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、他にも「3次元寸法測定」によるウィスカの3D形状測定やプロファイル測定、過去の撮影条件の自動再現、レポート作成機能など数多くの機能を搭載しています。
立体的に成長するウィスカの観察・解析、そして計測を定量化・効率化することができるため、顕微鏡やSEMにかわる新しいツールとして、電機製品や電子デバイスなどに関わるさまざまな現場において、大きなメリットをもたらします。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。