有効成分を一定の形に形成した固形の製剤形態である「錠剤」は、携行性や長期保存性に優れ、用量を認識しやすいことから、広く利用されています。
粉末から錠剤を製造する際に用いられる「打錠機」やその金型に相当する「臼(うす)」や「杵(きね)」を使った打錠工程や錠剤製品の不良・不具合、その対策などについて解説します。
また、錠剤の品質管理や品質保証の業務を高度化・効率化する4Kデジタルマイクロスコープを使った最新の観察・測定事例を紹介します。

錠剤と打錠機(杵・臼)の観察・測定の高度化

打錠機による錠剤の成形(打錠)工程

錠剤とは、粉末状(粒状)の成分をタブレット状に圧縮成形した形態のことで、医薬品(内服薬)に幅広く用いられています。錠剤の品質特性が正常であれば、内服薬としての効き目において顆粒剤との違いはありません。こうした錠剤の製造において、品質と大きく関わるのが錠剤の成形(打錠)工程です。

打錠工程に用いられる装置が「打錠機」です。打錠機は、金型を持ったプレス機の一種で、回転式成形機とも呼ばれます。投入された粉末状の成分を自動的に計量し、固定金型である「臼」の穴に入れます。そして、プレス加工でのパンチに相当する「杵」と呼ばれる金型が上下から材料に加圧して錠剤の形状に成形します。錠剤の大量生産において、粉末状の材料の充填・金型での圧縮・放出を連続的に行います。

打錠機と打錠工程
A
杵(きね)
B
臼(うす)
C
充填
D
圧縮
E
放出

錠剤の不良(打錠障害・品質特性異常)

錠剤の外観や内部に不良があった場合、保存状態などの変化が生じることで製品の品質特性を損ない、信頼性や安全性の低下、クレームの発生につながります。

打錠機を使った高速かつ連続的な打錠では、応力によって内部の密度がバラつくことで内部構造が不均一になったり、外側の密度が低いことや金型の摩耗により傷や欠けなどの外観不良が生じたりします。こうしたことにより、品質劣化を早めてしまったり、特性が変化してしまって狙い通りの効果が得られなかったりといったケースがあります。以下では、打錠における代表的な不良や不具合とその対策などについて解説します。

打錠障害の原因と種類

「打錠障害」とは、打錠工程において製造された錠剤に不良や不具合が発生することです。多くの場合、主薬の性質が原因となります。たとえば、錠剤表面に主薬が分布してしまった場合、打錠機の杵や臼の金属面に主薬が直接触れることにより、特性に変化が生じることがあります。これは、結合剤を配合する量の不適切が原因となって生じる代表的な打錠障害です。
こうした不良の種類を結合剤の量で分類して以下に挙げます。

結合剤が不足した場合

錠剤の上面あるいは下面部分が剥離する「キャッピング」や、錠剤の中間部が剥離する「ラミネーション」が生じる原因となります。

結合剤を過剰に充填した場合

杵の接触面に材料の一部が付着して剥離する「スティッキング」や、杵の接触面に材料が少量付着することで錠剤に小斑状の剥がれが生じる「ピッキング」、錠剤側面に縦方向の傷が付く「バインディング」などが生じる原因となります。

品質特性異常

打錠におけるもう1つの代表的な不具合現象として「品質特性異常」が挙げられます。品質特性異常には、分布の不均一によって目的の硬度よりも柔らかくなってしまう「硬度低下」や、それとは逆に崩壊性が低下してしまう「崩壊遅延」があります。これらの品質特性異常は、服用後に錠剤が消化管内で崩壊するタイミングが狙いから外れてしまい、消化管内での吸収が早まったり遅れたりすることで、内服薬として目的通りの効果が得られないといった事態を招きます。

錠剤の不良への対策と観察・測定の重要性

これらの打錠での不良や服用時の不具合の対策として、まず臼の穴に材料を充填する量を適切にする必要があります。また、結合剤を錠剤の表面(臼側)に分布させ、主薬を臼に触れさせないようにすることで、特性の変化を抑えることができます。また、錠剤の保管時や服用時の水分(水分子)に対する反応や、各種の化学反応による影響、さらには表面へのコーティング処理などにも十分に配慮する必要があります。

このように小さくデリケートな錠剤の品質を管理・保証するには、その外観を観察し、不良や不具合の原因を究明し改善を行う必要があります。そのため、錠剤の外観や断面の鮮明な拡大観察や定量的な測定による評価が非常に重要となります。

錠剤の品質管理・品質保証に有効な4Kデジタルマイクロスコープでの観察・測定事例

小さく立体形状である錠剤の表面や断面の状態を鮮明に拡大観察するにあたり、対象物全体にピントを合わせることは困難です。また、微細な表面状態を観察するために適切な照明条件を導き出すことは難易度が高く、多くの手間と時間を要します。さらに、粉体を圧縮成形した錠剤はデリケートであるため、接触式の測定機で3次元寸法を測定することはあまり現実的とはいえません。

キーエンスの超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、深い被写界深度と高分解能を両立した光学系と4K CMOSを搭載。そして、高機能な照明や高度な画像処理などを簡単に駆使することができる独自設計の観察システムにより、従来の課題を解決しました。高度な観察と高精度な測定による不良解析や評価を簡易な操作でスピーディに実現し、錠剤の品質管理・品質保証における作業効率を大幅に向上します。
ここでは、「VHXシリーズ」を使った錠剤の観察・測定の最新事例を紹介します。

錠剤のPTP包装越しの観察

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、光学顕微鏡と比べて20倍以上の被写界深度を実現。PTP(プレス・スルー・パッケージ)包装された立体的な錠剤も全体にピントが合った鮮明な4K画像で観察することができます。
また、凸型に成形されたPTP包装用樹脂シートや底面のフィルムの光の乱反射も「リング除去」機能で簡単に除去でき、パッケージ内の錠剤表面の微細な凹凸もクリアに観察することができます。
打錠・搬送・包装など、あらゆる工程における錠剤の表面状態を鮮明に観察可能であるため、錠剤の傷や欠けがどの工程でできたのかを特定する際にも有効です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのPTP包装済み錠剤の観察
左:リング照明(×30)/ 右:リング照明 + リング除去(×30)

錠剤断面の微細な凹凸の観察

打錠時の密度や成分の分布を調べるには、錠剤の断面を観察することが重要です。しかし、ほとんどの錠剤は、ハレーションが起こりやすい単一の淡色で構成されています。そのため、従来の顕微鏡では錠剤断面からコントラストを得るための照明条件出しは難易度が高く、さまざまな照明装置を利用するなど多くの手間と時間を要しました。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ボタンを押すだけで全方位の照明で撮影したデータを自動取得する「マルチライティング」機能を搭載しています。取得した画像の中から観察に最適なものを選ぶだけなので、これまで何度も照明の条件出しを繰り返すことにかかっていた時間と手間が不要になります。これにより、白くコントラストが低い錠剤の断面であっても、微細な凹凸の観察に最適な画像が簡単に得られます。
また、画像の記録後でも他の照明データが保存されているため、再び同じサンプルを用意して条件出しを行う必要がなく、すぐに異なる照明条件での観察が可能です。
さらに、過去の観察画像を選ぶだけでそのときの照明条件を完全再現できます。それにより、たとえば違う人が同じサンプルの異なる個体を観察するときも、同一条件での観察が簡単に実現します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」の全方向照明での錠剤断面観察
左:リング照明(×30)/ 右:マルチライティング(×30)

打錠機の杵先端の摩耗状態の3D観察

錠剤の大量生産において、不良品発生を低減するために重要となるのが、打錠機の状態把握です。中でも金型として連続的に材料に接触して臼の中で圧縮する杵先端の表面が摩耗すると、医薬品名や容量などの文字情報の刻印が不良となる可能性が生じるため、定期的に観察して状態を確認する必要があります。しかし杵先端の面は小さく、文字刻印のための凹凸は微細な形状を持つため、3次元形状の観察は困難でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ピント位置を変化させながら高さ方向の微細な形状や表面状態を捉え、3D画像として観察することができます。表面の粗さまでを捉えた4K高解像度画像を用いるため、サブミクロンオーダーでの高精度な3次元寸法測定も非接触で行うことができます。
3D表示した杵先端の刻印面は自由な方向に回転させることができるため、微細な形状の変化や表面状態を効率的に観察できます。また、2次元・3次元寸法や任意の箇所のプロファイル測定も簡単に実行できるため、打錠回数や測定値を記録していくことで摩耗の傾向を把握することも可能です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」の3D表示を用いた杵先端の観察
右=打錠前:リング照明(×200)/左=打錠後の摩耗観察:リング照明(×200)

打錠機の臼内面の高倍率観察・3D観察・凹凸測定

打錠機において金型(ダイ)に相当する臼は、打錠時に錠剤の側面を成形します。臼にできた傷はそのまま錠剤の表面に投影されるため、臼内面の確認は品質を維持するうえで重要です。しかし、奥まった箇所の表面状態を非破壊で高倍率観察することは非常に困難です。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ボタンを押すだけで全方向照明での撮影データを自動的に取得する「マルチライティング」機能を搭載。条件出しの手間を省き、最適な画像を選ぶだけですぐに観察ができます。また、「フリーアングル観察システム」と「高精度X・Y・Z 電動ステージ」を活用することで、簡単に3軸を調整しながら傾斜観察が可能。小さな臼穴の内面であっても、さまざまな角度から高解像度画像での観察が実現します。

さらに、観察画像からそのまま微細な表面の粗さまでを捉えて合成した3D画像を自由な角度で表示して観察することができます。3次元寸法測定はもちろん、任意の箇所をマウス操作で指定するだけでプロファイル測定が可能です。これにより、目的の箇所の臼内面の微細な凹凸の高さ深さの測定値をサブミクロンオーダーで取得することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での臼の傾斜観察・3D表示・プロファイル測定
バックライト・傾斜観察(×1000)+ 3D表示・プロファイル測定

錠剤の品質管理・保証を高度化・効率化する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、4K画像を簡単に取得し、錠剤や打錠機の重要部品などを鮮明に観察することが可能です。また、3D表示や3次元寸法測定、プロファイル測定などを非接触で行うことができ、1台で錠剤の品質管理・品質保証に求められる業務を強力にサポートします。
観察画像と測定値を自動レイアウトするレポート自動作成も可能であるため、これまで業務にかかっていた工数を大幅に削減することができます。

「VHXシリーズ」の詳細に関しましては、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。