精密・微細加工の代表である機械式時計の歴史は古く、13世紀頃の塔時計が始まりとされています。最初は「重り」を使用して歯車を回す方式でしたが、15世紀頃にゼンマイを使用する方式が発明され小型化が図られていきました。19世紀後半には腕時計が登場し現在に至っています。日本での時計産業の歴史は浅いですが、1969年に日本のセイコーがクオーツ時計を製品化して以来、電子式ムーブメントで世界をリードしています。
ここでは、時計部品の概要とデジタルマイクロスコープでの観察事例を紹介します。

時計部品のデジタルマイクロスコープでの観察

ムーブメントとエボーシュとは

時計のケースの中の動力機構部分をムーブメントと呼んでいます。機械式時計のムーブメントには、自動巻きと手巻き式の2種類がありますが、現在は自動巻きが主流になっています。また、メーカーによってムーブメントに付けられた型式番号をキャリパーと呼んでいます。

すべての時計メーカーがムーブメントを自作している訳ではなく、ムーブメントメーカーの製造した未完成のムーブメントを購入して時計を製造しているメーカーも数多く存在します。
この未完成のムーブメントをエボーシュと呼んでいます。エボーシュはフランス語で、「下書き」を意味しています。

機械式時計の振動数・石数

機械式時計の振動数

機械式時計のムーブメントの動力源はヒゲゼンマイで、テンプと呼ばれるパーツの中心に組み込まれています。ヒゲゼンマイが伸縮を繰り返すことで、テンプが往復回転運動(振動)します。
振動数は、テンプの1時間当たりの振動数を表しています。
現在の機械式ムーブメントの主流は28800振動(8振動/秒)で、28800振動より高い物をハイビート、28800振動より低い物をロービートと呼んでいます。

テンプ
  • A:ヒゲゼンマイ

石数

機械式時計は、歯車が回転する際に軸が摩耗を起こします。このため、軸受けに摩耗を最小限に抑えるための人工ルビーが使用されています。また、軸受け以外にも摩耗し易いアンクルの爪にも使用されています。
ルビーはダイヤモンドに次ぐ硬度がある宝石で、古くから機械式ムーブメントの石として使用されてきました。石数が多いほど、高級機・複雑機と考えられています。

アンクル
  • A:ルビー
  • A:テンプ
  • B:振り座
  • C:振り石
  • D:ヒゲゼンマイ
  • E:アンクル
  • F:出爪
  • G:入り爪
  • H:ガンギ車

クオーツ式時計の振動数

クオーツ式時計には水晶振動子が組み込まれています。
水晶は、機械的な圧力を加えると電気が発生します(圧電現象) 。逆に、電気(電圧)を加えると機械的な歪みが発生します(逆圧電現象) 。水晶振動子はこの逆圧電現象を利用しています。
代表的な周波数は32.768KHzで、これをICで1秒1パルス(1Hz)に変換し秒針を1秒進めます。

圧電現象
逆圧電現象

デジタルマイクロスコープによる時計部品の観察事例

キーエンスの4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を用いた時計部品観察の最新事例を紹介します。

時計の針の表面処理状態の観察

Optical Shadow Effect Modeを使用することで、表面のテクスチャーが明確に観察できました。

500x 同軸落射照明
同軸落射照明 + Optical Shadow Effect Mode

水晶振動子 銀蒸着面の観察

Optical Shadow Effect Modeを使用することで、結晶の方向が明確に可視化できました。

2000x 同軸落射照明
同軸落射照明 + Optical Shadow Effect Mode

研磨した水晶の表面観察

微分干渉とHDRで表面のうねりが可視化できました。

100x 同軸側射照明 + HDR + 微分干渉

時計ベルトのコーティング膜の剥がれ(3D形状測定)

3D形状測定を行うことで、コーティング膜の剥がれが定量化できました。

1000x 同軸落射照明