事件や犯罪の詳しい捜査や罪の有無に関わる証拠や立証において、現場で採取された証拠物に対し、高度かつ科学的な鑑定・検査を正確に行うことが非常に重要です。そのため、法医学や化学、物理学などさまざまな観点から証拠物の分析や解析が求められます。
ここでは、科学捜査において、より高度な観察・解析を実現する4Kデジタルマイクロスコープの活用事例を紹介します。

法医学など科学捜査での観察・解析の高度化と効率化

科学捜査での鑑定分野の種類と顕微鏡の活用

科学捜査には、法医学や化学、物理学などの分野があり、各分野で専門的な鑑定・検査が行われています。科学捜査の代表的な分野と各分野の概要を説明します。

科学捜査の代表的な分野

法医鑑定
事件や犯罪に関する生体資料(血液・骨・毛髪・唾液など)を法医学的な観点で解析し、鑑定・検査します。
化学鑑定
違法薬物や中毒死事件に関する薬毒物検査のほか、事件現場に残された塗膜・繊維片などの遺留物、火災現場で採取された油類、不法投棄された産業廃棄物などの化学的な鑑定・検査を行います。
物理鑑定
火災や交通事故などにおいて、現場調査や再現実験により事故状況の推定や原因の特定を行います。また、防犯カメラの映像や画像、録音された音声の解析、けん銃や弾丸なども鑑定・検査します。
文書鑑定
書類(契約書・手紙など)の筆跡や印影、印刷物(紙幣・金券・運転免許証など)の真偽鑑定、脅迫文に使われたプリンタの特定、改ざんの痕跡検出など、文書に関わる鑑定・検査です。また、文書のみならず心理学的な鑑定・検査も行っている場合は、 「文書心理鑑定」と呼ばれます。

科学捜査における顕微鏡の活用

科学捜査では、証拠物の成分や血液、DNAなどの分析が行われます。加えて、顕微鏡を使った非破壊での外観の高度な撮影・観察・解析も、正確な鑑定において重要です。その具体的な例を以下に挙げます。

  • 指紋鑑定
  • 筆跡鑑定
  • 繊維の特定
  • 付着物の特定
  • 皮膚、毛髪、歯型の撮影
  • 気道内の液中プランクトンの特定
  • 線条痕の撮影
  • 切断痕や溶融痕の撮影
  • 印刷物の真偽鑑定

法医学など科学捜査での4Kデジタルマイクロスコープ活用事例

科学捜査の鑑定結果は、犯罪や事件に関わった人々の人生を左右する可能性があるため、常に正確さが求められます。また、エビデンスとして一目瞭然といえる画像を撮影し、提示できるかどうかも重要です。顕微鏡を使った観察・解析においては、機器の性能や信頼性はもちろん、それらを正しく扱うための高い技術や経験が求められます。

全世界で2万以上の企業や研究機関に採用されているキーエンスのマイクロスコープは、30年以上の開発実績において、より高い性能や機能による「信頼性」と同様に、「使いやすさ」も徹底的に追究してきました。
そして、最新の技術や観察・解析のノウハウを集結させて完成したのが、超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」です。
最先端の光学系と4K CMOS、そして多彩な画像処理機能やフル電動制御による独自の観察システムを採用。高度かつ正確な観察・解析を簡単な操作で実施することを可能としました。ここでは、科学捜査に応用することができる「VHXシリーズ」の特長や活用事例を紹介します。

超高精細4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」の特長

深い被写界深度と多彩な機能

一般的な光学顕微鏡の20倍以上の被写界深度と高分解能を両立。立体的な証拠物の高倍率観察でも、全体にピントが合った画像が得られます。また、視野全域にフルフォーカスした画像が得られる「深度合成」など、多彩な画像処理機能を搭載。ほかにも、SEM(走査電子顕微鏡)に迫る高階調画像で細かな傷やテクスチャまでも捉える「Opt-SEM(Optical Shadow Effect Mode)」機能などを活用することで、見落としのないクリアな鑑定画像の撮影をサポートします。

深い被写界深度と多彩な機能
フリーアングル観察

視野・回転軸・傾斜軸の3軸が簡単に合う調整機構で、傾けても回転させても視野が逃げないユーセントリック性を実現。観察距離が長いため、大切な証拠物に接触することなく、自由なアングルから傾斜観察できます。なお、傾斜観察時も「深度合成」機能の活用が可能です。

フリーアングル観察
高精度な2次元・3次元測定や自動解析で、証拠物の評価を定量化

高解像度4K画像を用い、非破壊・非接触で寸法・面積・体積・3D形状・任意の箇所の断面形状(プロファイル)・表面粗さを高精度に測定。自動面積計測・カウントといった自動解析機能も充実し、定量的な解析を実現します。

高精度な2次元・3次元測定や自動解析で、証拠物の評価を定量化
レポートの自動作成で時間短縮

「VHXシリーズ」は、本体に直接Excelをインストールできます。テンプレートを使って、撮影画像や解析結果を任意のレイアウトに出力してレポートの自動作成が可能です。作業時間を大幅に短縮し、業務での負担を軽減します。

レポートの自動作成で時間短縮
現場に携行し、手持ち観察で4K画像を取得

通常、科学捜査のほぼすべての業務は研究室で行われます。しかし、採取や移動が不可能な建造物などが証拠物となる場合、現場にて非破壊・非接触での鑑定・検査が必要となります。「VHXシリーズ」であれば、現場での手持ち観察においても高精細な4K画像の取得が可能です。

現場に携行し、手持ち観察で4K画像を取得

毛髪の高倍率観察

現場で採取された毛髪は、犯人や事件に関わった人物を特定するうえで重要な証拠物となります。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、深い被写界深度で、高倍率であっても毛髪のキューティクルにまで鮮明にフォーカスした4K画像で観察できます。
また、電動レボルバを搭載し、レンズの交換作業なしに20倍から6000倍までを自動制御で切り換える「シームレスズーム」機能を搭載。これにより、画面を見ながら手元のマウスやコンソールで簡単かつスピーディにズーム操作が可能です。
毛髪はもちろん皮膚など、さまざまな証拠物の高倍率観察の高度化、そして効率化を実現します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での毛髪の高倍率観察
同軸落射照明(×2000)
同軸落射照明(×2000)

「VHXシリーズ」は、観察画像から2次元・3次元寸法を高精度に測定することができます。毛髪の外径や断面形状(プロファイル)も非破壊・非接触で測定できるため、定量的な比較・同定、さまざまな痕跡の解析を素早く行うことができます。

銀歯など光沢のある証拠物の観察

証拠物によって、表面状態は多種多様です。なかでも銀歯のように光沢のある曲面を持つものの場合、光の乱反射によりハレーションが生じやすいため、照明の条件出しが難しく、多くの時間と手間を要します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」であれば、照明の条件出しを簡素化し、スピーディな観察が可能です。ボタンを押すだけで全方向からの照明で撮影した複数の画像を自動取得する「マルチライティング」機能を搭載。取得した複数の画像から、目的に最適なものを視覚的に選ぶだけで観察が開始できます。これにより、従来は条件出しにかかっていた時間を飛躍的に短縮します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での銀歯の観察
リング照明(×200)
リング照明(×200)

また、観察用に選択した以外の画像も自動保存されており、再び呼び出すことが可能です。異なる条件での観察が必要になった場合も、貴重な証拠物を再びステージに配置して条件出しをする必要がありません。
さらに、過去の画像を選択するだけで、その画像と同一の照明条件や設定を完全再現できます。これにより、複数の同種の証拠物に対して同一条件で観察できるため、定量的な鑑定に役立てることができます。

指紋の高解像度4K画像での撮影

指紋は、証拠物に関与した人物を特定するための重要な痕跡です。しかし、採取された指紋と背景のコントラストが非常に低い場合、鮮明な拡大画像の取得が難しいことがあります。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、照明の条件出しや各種設定における操作の簡易化を実現し、高倍率観察においても鮮明な画像を簡単に取得することができます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での指紋の撮影
リング照明(×30)
リング照明(×30)
リング照明(×100)
リング照明(×100)

また、通常の観察では指紋と背景のコントラストが低い場合でも、シャッタースピードを変えた画像を複数取得し、高階調画像を取得する「HDR(High Dynamic Range)」機能を搭載。この機能を活用すれば、これまでにない高精細かつ高コントラストな4K画像の取得が実現します。

繊維の高倍率撮影

繊維を特定するには、その立体的な構造を持つ組織を高倍率かつ鮮明に捉えた画像が必要となります。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、1台で豊富なバリエーションの照明条件に対応します。たとえば、同軸落射照明を活用して正反射光を捉えることにより、繊維の光沢や組織の構造の違いなどをクリアに撮影することができます。
また、深い被写界深度により、立体的な構造を持つ繊維の高倍率観察時も、その組織全体にピントが合うため、特定に最適な4K画像が得られます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での繊維の高倍率撮影
同軸落射照明(×200)
同軸落射照明(×200)

フィルタ中の花粉の撮影

空気清浄機やエアコンなどのフィルタは、立体的かつ複雑な繊維組織を持ちます。そのため、従来の顕微鏡では被写界深度の不足により視野の一部にしかピントが合わず、フィルタの繊維とそこに付着した花粉を同時に撮影することは困難でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ピントが合う位置が異なる画像を取得して合成する「深度合成」機能を搭載。高倍率であっても視野全域にフルフォーカスした画像を取得することができます。これにより、奥行きを持つフィルタ繊維とそこに付着した花粉の両方にピントが合った画像が撮影できます。
深度合成で得られる鮮明なフルフォーカス画像は、衣類や寝具などの繊維組織内部といった難条件下においても、非破壊・非接触での付着物質の特定に役立ちます。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのフィルタ中の花粉の深度合成画像
リング照明(×200) 左: 深度合成 / 右:通常撮影
リング照明(×200) 左: 深度合成 / 右:通常撮影

なお、「VHXシリーズ」は、画像の範囲を指定するだけで、高精度な自動面積計測・カウントが可能です。これにより付着物の定量的な分析をスピーディに実現します。

筆跡の高階調画像とカラーマップ画像での解析

筆跡鑑定では、紙の繊維にどのような形跡があるかを詳しく観察する必要があります。しかし、筆圧によって紙の表面にできた凹凸は微小であるため、ルーペや通常の顕微鏡では詳しく調べることが困難でした。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」は、ボタンを押すだけでSEM(走査電子顕微鏡)に迫る高階調の観察画像が取得できる「Opt-SEM(Optical Shadow Effect Mode)」機能を搭載。従来は観ることができなかった細かなテクスチャや微小な凹凸、かすかな傷までを逃さずに観察・解析できます。

また、SEMで行われる真空引きとその準備時間を必要とせず、通常の雰囲気中で観察できるため、証拠物にダメージを与えません。
さらに、Opt-SEMで撮影した画像は、カラーマップでの表示が可能です。紙表面のわずかな3次元的変化を色分け表示して可視化できるため、筆圧の変化のパターンを解析し、比較・同定する際に役立ちます。

以下では、「VHXシリーズ」を使った筆跡の通常観察画像やOpt-SEM画像、Opt-SEMでのカラーマップ画像の例を紹介します。

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での筆跡の通常観察
リング照明(×150)
リング照明(×150)
4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」での筆跡のOpt-SEM画像とカラーマップ表示
リング照明 + Opt-SEM(×150)
リング照明 + Opt-SEM(×150)
リング照明 + Opt-SEM・カラーマップ画像(×150)
リング照明 + Opt-SEM・カラーマップ画像(×150)

法医学など科学捜査の業務を高度化・効率化する4Kデジタルマイクロスコープ

4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」を導入する大きなメリットの1つとして、これまで紹介したような高い性能や多彩な機能を簡単な操作でスピーディに活用できることが挙げられます。

「VHXシリーズ」は、観察・解析からレポート自動作成まで、一連の作業を1台でシームレスに行えます。これにより、日々山積する科学捜査の業務を正確かつ効率的にこなすことができ、鑑定の時間短縮と捜査員の負担軽減が実現します。
また、証拠物の細部まで鮮明に捉えた4K画像は、鑑定結果の理由を明確に示すにあたり、大きな役割を果たします。

「VHXシリーズ」に関する詳細は、以下のボタンよりカタログをダウンロード、または、お気軽にご相談・お問い合わせください。