一般社団法人日本造船技術センター様

技術部 技術課 戸谷 祐季氏

一般財団法人日本造船技術センター

技術部 技術課 戸谷祐季氏

水槽試験に使う模型を高精度で造形できる3Dプリンタはキーエンスの3Dプリンタだけでした。

船体付加物の省エネ効果を測定する水槽試験にキーエンスの3Dプリンタを活用

キーエンスの3Dプリンタをどのように活用していますか。

ごく簡単な省エネデバイス模型 アジリス導入を検討する際にサンプルとして出力した。(長さ約5cm×幅約2cm×厚さ約2mm)

ごく簡単な省エネデバイス模型 アジリス導入を検討する際にサンプルとして出力した。(長さ約5cm×幅約2cm×厚さ約2mm)

当試験センターでは、造船会社から受託した「省エネデバイス」の水槽試験に、キーエンスの3Dプリンタを活用しています。

「省エネデバイス」とはどのような物ですか。

省エネデバイスとは、船体に取り付けて推進効率やプロペラ効率を高めることにより、燃費の向上とCO2排出量の削減を図る装置です。省エネデバイスには、下のような物があります。

キーエンスの3Dプリンタを活用しているのは、下記のうち、「付加形状物」に分類される省エネデバイスの水槽試験です。

「省エネデバイス」の例

付加形状物
船体フィン型

船体フィン型

平板または楔型の細長状のフィンを船体外板に取り付けたもの。主に伴流利得(=プロペラ周辺の流速が遅くなることによる推進力向上効果)を改善する。

ステーター型

ステーター型

プロペラ前方の船尾に数枚のフィン(翼)を放射状に取り付けたもの。プロペラ回転方向と反対方向の回転流を与えることによりプロペラ後流の回転エネルギー損失を回収する。

ダクト型

ダクト型

円形またはそれに類した形状のダクトをプロペラ直前に取り付けたもの。船尾流場の整流化およびプロペラ前方へ流入する流れを加速する効果がある。

舵フィン型

舵フィン型

プロペラシャフトセンターライン延長線上付近に翼型のフィンを取り付けたもの。プロペラ後方の回転流エネルギーを回収し、推力に変換する。

バルブ型

バルブ型

プロペラシャフトセンターライン延長線上またはその付近にバルブ(=球根状の物体)を取り付けたもの。プロペラの回転流やハブ渦による損失を回収し推進効率を向上させる。

プロペラ付加装置
二重反転プロペラ

二重反転プロペラ

同軸上の2つのプロペラを相互に逆回転させることにより、前方のプロペラで発生した回転エネルギーを後方のプロペラで回収する。

プロペラハブ渦回収装置

プロペラハブ渦回収装置

プロペラボスキャップに取り付け、プロペラ後方に発生するハブ渦によるエネルギー損失を回収する。

ポッド推進装置

ポッド推進装置

ポッド推進装置(=モーターでプロペラを回転させる繭型の推進装置)を使って主プロペラの回転流などを回収する。

性能推定値に要求される精度は誤差±1%以下

水槽試験はどのように実施するのですか。

水槽試験を行う長さ400m、幅18m、水深8mの大水槽※機密保持のため写真の一部をボカしてあります

水槽試験を行う長さ400m、幅18m、
水深8mの大水槽
※ 機密保持のため写真の一部をボカしてあります

エネデバイスの水槽試験では、対象となるデバイスの模型を、長さ約6.5mの模型船に装着し、曳航設備付きの大水槽で航走させます。

実際の省エデバイスは数mの大きさになりますが、模型船の大きさに合せて縮小すると、ちょうどキーエンスの3Dプリンタで出力できるサイズになります。

水槽試験は、「抵抗試験」と「自航試験」の2種類を実施します。

「抵抗試験」では、模型船を曳航車で曳航し、主に船体の抵抗を評価します。

「自航試験」では、模型船に搭載したプロペラで自航させて、主にプロペラの効率を評価します。

水槽試験では、特にどのような点が重視されますか。

戸谷氏

模型による水槽試験には厳しい精度が要求されます。
(戸谷氏)

性能推定値の精度は、シビアに要求されます。

性能推定値の精度とは、「模型による水槽試験に基づいて推定した性能」と、「実際に建造された船舶が実際の航海で出す性能」の、「一致度」です。水槽試験に基づいて推定する性能値には、ある馬力のエンジンを搭載してある貨物積載量で出せる「船速」や「燃費」などがあります。

現在当試験センターでは、実際の船舶の実海域での船速・燃費等を、模型船での水槽試験に基づき、±1%以下の精度で推定しています。

この精度でもまだ十分とは考えていません。精度の向上に向け、絶えず研究と工夫を続けています。

なぜ性能推定値の精度がシビアに要求されるのですか。

各造船会社が、1%の燃費向上をめぐってしのぎをけずっている状況だからです。

1%の向上を達成できるかどうかが問題になる世界で、1%を超える推定誤差は許容されません。

水槽試験に基づく性能推定値の精度を上げるために、
どのような努力をしていますか。

たとえば次のような努力をしています。

1.模型の精度向上

船舶の性能を正しく推定するには、まず模型の形状が、実際の船舶の形状を正確に反映している必要があります。

特に、水流の微妙な変化でエネルギー効率の改善を図る省エネデバイスの模型には、高い精度が要求されます。

フィン(翼)のエッジなど、部分によっては±0.1mmの精度を要求されます。

2.実験の精度向上

水槽実験自体の精度を上げるため、測定機器や測定方法の改善を絶えず図っています。

3.推定の精度向上

波も風もない水槽で模型を航走させて得られたデータから、波も風もある海上で実際の船舶が航走する能力を推定するための、より精度の高い計算式の研究や実績データの蓄積も進めています。

外注では必要な精度が得られなかった

キーエンスの3Dプリンタを導入する前は、こうした省エネデバイスの模型をどのような手段で
製作していましたか。

キーエンスの3Dプリンタを導入する前は、NCフライスでケミカルウッドを切削して、こうした省エネデバイスの模型を製作していました。

3Dプリンタの導入を検討し始めた背景を教えてください。

近年、燃費向上への要求がますます強まる一方、船型(船体自体の形状)の改良による燃費向上がやや手詰まりになったことを背景に、省エネデバイスへの期待が高まっています。

当センターも様々な省エネデバイスの水槽試験を依頼されるようになり、NCフライスによる模型製作が間に合わない状況になっていました。

そこで試験的に外部の業者に、粉末焼結積層造形による模型製作を依頼してみました。

模型製作を外注してみた結果はいかがでしたか。

残念ながら、私たちが要求する精度は得られませんでした。

部分によっては±0.1mmの精度が必要だったのですが、焼結に使用されるレーザーの精細度が、そこまでの精度には対応していませんでした。

冷却時の収縮ムラによる歪みも発生していました。素材がナイロンだったため、切削が難しく、歪みの修正にも手間を取られました。

外注すると納品までに1週間ほどかかることもあり、内部の製作キャパシティを増やす方向で、改めて検討を始めました。

複雑な形状を一体造形できる3Dプリンタに着目

模型の製作キャパシティを増やすため、どのような手段を検討しましたか。

オフィスに設置されたキーエンスの3Dプリンタ

オフィスに設置されたキーエンスの3Dプリンタ

まず従来と同様のNC工作機械の、小型版を購入することを検討しました。

しかしNC工作機械では複雑な形状を造形できないので、複雑な形状の省エネデバイスの模型については、部品ごとにNC工作機械で造形した後、「組み立て」→「仕上げ」の工程が必要になります。

組み立てや仕上げができるスタッフは限られているので、NC工作機械だけを増やしても、全体としての製作キャパシティは増えません。

もっと抜本的に模型の製作キャパシティを増やせる手段を探していた時、3Dプリンタの存在を知りました。

3Dプリンタなら、複雑な形状を一体造形できるので、「組み立て」→「仕上げ」の工程がほぼ不要になります。そこで各社の3Dプリンタを検討し始めました。

選択肢はキーエンスの3Dプリンタ一択だった

3Dプリンタにどのような条件を求めましたか。

3Dプリンタには2つの条件を求めました。

  1. 条件1.造形物を水につけて使えること

    水槽実験用の模型製作が目的ですので、造形物を水につけて使えることが必須条件でした。水槽試験に使いたい旨を展示会などで伝えると、キーエンスの3Dプリンタ以外の3Dプリンタは、すべて「造形物を水につけるとどうしてもゆがんでしまう」という回答でした。

    キーエンスの3Dプリンタだけは、そもそもサポート材を水につけて除去する方式ということもあり、造形物を水につけて使うことが可能でした。

  2. 条件2.造形精度が高いこと

    精度の確認用に、簡単な翼状の形状を3次元CADで作り、ショールームのキーエンスの3Dプリンタで出力してもらいました。翼形状のナイフエッジの直線部分など、特に高い精度が要求される部分で必要な精度が出ていることを確認しました。

データができた翌日~翌々日には模型が完成

キーエンスの3Dプリンタを導入して、どのようなメリットが得られましたか。

たとえば、次のようなメリットが得られました。

  1. メリット1.模型製作に費やされる所要時間・作業時間が大幅に減った

    模型製作にとられる人手も時間も大幅に減りました。
    以前は製作に約1週間かかっていた省エネデバイス模型を、データができた翌日~翌々日には完成させられるようになりました。

  2. メリット2.複雑な形状の模型も簡単に作れるようになった

    船体は基本的に曲面なので、ある程度の長さにわたって船体に装着するフィン型の省エネデバイスなどは、見かけ以上に複雑な形状になります。
    こうした複雑な形状の模型も、3次元データから簡単に出力できるようになりました。

  3. メリット3.スケジュール変更にも対応しやすくなった

    模型製作時間が短縮されたぶん、試験スケジュールの変更などにも対応しやすくなりました。

日本語で確認メッセージが表示される安心感

サポート材の除去のしやすさへの評価をお聞かせください。

キーエンスの3Dプリンタで出力した模型の耐水性と精度に満足しています(戸谷氏)

キーエンスの3Dプリンタで出力した模型の耐水性と精度に満足しています(戸谷氏)

水につけておくだけでサポート材がほぼ取れてしまうのは、楽でいいです。かなり複雑な形状を造形した場合でも、サポート材の除去で苦労したことはありません。

実際に使ってみて便利だった機能があれば教えてください。

3次元CADソフトでデータをSTL形式に変換する際、特に曲面同士が組み合わさった形状で変換エラーが出やすいようなのですが、キーエンスの3Dプリンタの付属ソフトではこうした変換エラーを自動補正してくれるので、助かります。造形物の配置や姿勢を自動で調整してくれるのも便利です。

他に、使い勝手について評価されている点があれば教えてください。

出力する時、本体のディスプレイに「○○はとってありますか?」といった確認のメッセージが表示されるのも、ミスを防ぐことができて安心できます。表示が日本語なのもわかりやすくていいです。

自航試験用プロペラへの活用も検討中

今後キーエンスの3Dプリンタを活用してみたい領域があれば教えてください。

キーエンスの3Dプリンタで試験的に造形した自航試験用プロペラ(約165mm×約165mm×約23mm)実際に模型船を航走させることができた。

キーエンスの3Dプリンタで試験的に造形した自航試験用プロペラ
(約165mm×約165mm×約23mm)実際に模型船を航走させることができた。

模型船を自航させるためのプロペラの製作にキーエンスの3Dプリンタを活用できないか、現在検討中です。プロペラはアルミのブロックからNCフライスで削り出すのですが、NCフライスの刃が入らない部分も多く、非常に微妙な仕上げや表面処理が必要なため、製作に約1カ月を要しています。

試しにキーエンスの3Dプリンタでプロペラを出力してみたところ、造形精度的には問題ありませんでした。また、プロペラにかかる負荷が一定以下であれば、模型船を航走させることができることも確認できました。

製作に1カ月かかるプロペラが数時間でできればメリットは大きいので、キーエンスの3Dプリンタで出力したプロペラを活用できる試験の範囲を、慎重に検討しています。

最後に、キーエンスのサポート体制への評価をお聞かせください。

問い合わせるといつもスピーディーに対応してもらっています。購入を検討している時も、稟議に必要な資料をきめ細かく提供してもらえて助かりました。今後もよろしくお願いします。

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