二次電池製造における塗布・塗工

二次電池製造における塗布

日本で発明されたリチウムイオン(LiB)二次電池は、電子機器の小型化・モバイル化とともに世界中に普及しました。現在もスマートフォン・タブレット、ノートパソコンなど小型・薄型のモバイル機器や、 EV(電気自動車)・HEV(ハイブリッド自動車)の車載用バッテリー、住宅用の太陽光発電・燃料電池の蓄電システムなど用途の広がりを背景に、二次電池のさらなる小型化や大容量化、安全性向上に向けた研究・改良が進められています。

また、電解液とセパレータを固体の電解質に置き換える「全固体電池(全固体型リチウムイオン電池)」 が、将来の実用化と普及に向けて広く研究されています。全固体型は、エネルギー密度を向上でき、電解液がないため発火しにくく、設計の自由度が高いため、次世代の電池として期待されています。ここでも塗布を多用した高い量産性が同時に研究されています。

二次電池製造における「接着」

リチウムイオン二次電池のセルの外装は最終用途によって、円筒型、角型、ラミネート(パウチ)型などがあり、製造工程もさまざまです。金属缶タイプに比べて薄型・軽量で、成形の自由度が高く、廃棄が容易で低環境負荷であることから、アルミ箔と樹脂を接着剤の塗工(塗布)で貼り合わせたラミネートフィルムで、積層電極(積層エレメント)を封止する「ラミネート型セル」へのニーズが高まっています。

ラミネート型セル製造における接着
リチウムイオン二次電池セルは、正極と負極の間にセパレータを挟んで交互に重ねた「積層電極(積層式エレメント)」などを封止して製造します。ラミネート型セルは、薄型・軽量でありながら大容量を実現できると同時に、表面積が広く放熱性が高いため、充放電時の温度上昇を抑えることができます。また、塗工装置を用いて大量生産できるため製造コストの面でもメリットがあります。
ラミネート型セルの構造[積層電極(積層式エレメント)の例]
ラミネート型セルの構造
  • A. ラミネートフィルム
  • B. 積層電極(積層式エレメント)
  • C. タブ
  • D. 正極
  • E. セパレータ
  • F. 負極

ラミネート型セルの封止・外装に使用するラミネートフィルム(図中A)には、一般的にアルミ箔と樹脂フィルムが用いられます。これらに特殊な接着剤を塗工(塗布)し、ラミネートで貼り合わすことで積層電極と電解液を封止します。ラミネートフィルムに使用する接着剤にはアルミ箔と樹脂フィルムの異種基材に対する強い接着力と、内包する強酸性の電解液への耐性が求められます。

二次電池製造における「機能付与・表面処理」

リチウムイオン二次電池(LiB)の製造工程において、塗工(塗布)は核となる技術です。基材に材料を塗布(塗工)することで、正極(アノード)・負極(カソード)、それらを隔てるセパレータとしての機能を付与し、積層電極(積層式エレメント)の部材を製造します。

リチウムイオン二次電池(LiB)製造における塗工(塗布)

リチウムイオン電池(LiB)の基本構造
リチウムイオン電池(LiB)の基本構造
  • A. 負極(カソード)
  • B. 正極(アノード)
  • C. セパレータ
  • D. 電解液
  • E. 充電
  • F. 放電
  • G. 集電体
  • H. バインダー
  • I. 活物資

正極(アノード)の塗工(塗布)

正極スラリー(溶剤系)の例
活物質、導電助剤、バインダー、有機溶剤を混合させたものです(なお、水系の場合は、有機溶剤でなく増粘剤であるCMCと水を加えます)。
  • 活物質:容量や電圧、特性に大きく関わります。材料(例:コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなど)の選定や混合、攪拌方法は、企業によって多種多様です。
  • 導電助剤:内部抵抗を小さくして導電性を向上させます。
  • バインダー:集電箔に混合した材料を結着させます。
  • 有機溶剤:材料の混合・撹拌を促し、スラリーを塗工に適正な粘度にします。
正極スラリーの塗工(塗布)の例
集電箔であるアルミ箔に対し、正極スラリーをダイコータを使って、一定の厚みで塗工(塗布)します。電極の厚みや質量は、電池のエネルギー密度に大きく影響します。塗膜が厚いほど容量が大きくレート特性が低下し、薄いほどレート特性が向上する一方、容量が小さくなるといわれています。

負極(カソード)の塗工(塗布)

負極スラリー(溶剤系)の例
活物質、バインダー、有機溶剤を混合させ、負極用のスラリーをつくります(なお、水系の場合は、有機溶剤でなく増粘剤であるCMCと水を加えます)。
  • 活物質:導電性が高い炭素系材料(黒鉛、チタン酸リチウムなど)を使用します。負極にも導電助剤を入れて、内部抵抗を低下させる場合もあります。正極と同様に、活性剤の容量や電圧、特性に大きく関わります。材料の選定や混合、攪拌方法も企業によって多種多様です。
  • バインダー:集電箔に混合した材料を結着させます。
  • 有機溶剤:材料の混合・撹拌を促し、スラリーを塗工に適正な粘度にします。
負極スラリーの塗工(塗布)の例
銅箔に対し、ダイコータを用いて負極スラリーを一定の厚みで塗工(塗布)します。一般的に、負極の方が正極に比べて薄い塗膜を形成します。塗膜の厚みによる容量やレート特性の変化は、正極の塗布と同様です。正極・負極の容量バランスも重要で、一方の電極の膜厚が厚くなるともう一方の電極も厚くするケースが多いです。

セパレータの製造工程

正極と負極を隔てる重要な部材である、セパレータの製造工程を下記に示します。ベース膜への耐熱性能付与のコーティングに塗工(塗布)が用いられています。

  1. ベース膜製膜工程:ポリオレフィン原料から「ベース膜(微多孔膜)」を製膜します。
  2. 塗工工程:アラミド塗工液(アラミドポリマーを合成した塗工液)をベース膜上に均一に塗工(塗布)し、耐熱層を形成します。
  3. スリット工程:必要なサイズに裁断します。

注目を集めているEV(電気自動車用)や家庭用蓄電池などへの活用がみられる「ラミネート型LiB電池」には、積層電極(積層式エレメント)が使用されています。

積層電極の製造工程では、積層式用にシートカットされた正極・負極を用い、最外層に負極を配置し、次にセパレータ・正極・セパレータ・負極といった順番に積層していきます。それを電解液とともにセルとしてパッケージします。

トピック:電池製造における塗工品質の管理

電極材の膜厚は、容量や電圧、レート特性と大きく関係し、設計通りの性能や仕様で量産するには、目的の膜厚を連続して均一に塗工(塗布)する必要があります。万一、塗工面に「厚みムラ」や端面の「耳立ち」といった発生した場合、電池製品の品質・性能に大きく関与するため、インラインでの塗工面の高速・高精度な測定・管理が重要となります。

インラインで高速・高精度な測定が可能な「マルチカラーレーザ同軸変位計」を導入することで、塗工表面の粗さやレーザが反射しにくい材料に影響されず、安定した厚み測定・管理が可能となります。

電池製造における塗工品質の管理

導入事例:不透明材料の塗工厚み測定

塗工端面の厚みが過剰となる「耳立ち」などの塗工欠陥は、スリット状のレーザで形状測定できる「超高速インラインプロファイル測定器」を用いることで、塗工不良をインラインで検出することができます。

電池製造における塗工品質の管理

導入事例:端面形状の測定

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