第3章 機械安全規格について
- 機械安全に関する国際規格の階層構造
- ISO12100 - 機械安全の基本規格
- ISO13849-1 - 制御システムの安全関連部
- 日本における機械安全の考え方
- ライトカーテン使用時の安全距離
- レーザスキャナ使用時の安全距離
ISO12100 - 機械安全の基本規格
ISO12100の目的
機械安全の基本概念規格と位置付けられるISO12100が制定された目的は以下の通りです。(ISO12100 Introduction)
- ① 仕様の範囲内で安全である機械を設計することを可能にするための包括的な枠組みとガイダンスを提供する。
- ② A規格であるISO12100に整合するB規格およびC規格を戦略的に作成するための指標を提供する。
上記の目的において、ISO12100:2010「機械類の安全性─設計のための一般原則─ リスクアセスメント及びリスク低減」が制定されています。
ISO12100には、機械を設計する上で考慮されなければならないリスクアセスメントとリスク低減のための戦略及び手法が明示されています。
危険源
ISO12100で例示される危険源は以下の通りです。
- 1) 機械的な危険
- 押しつぶし、切断、巻き込み、衝撃、裂傷など、機械又は機械の一部により発生する危険性。
- 2) 電気的な危険
- 導電部への接触、静電気、落雷など、感電による危険性。
- 3) 熱的な危険
- 高温部への接触、高温又は低温環境下での作業などの危険性。
- 4) 騒音による危険
- 聴力喪失、耳鳴り、平衡感覚の喪失などの危険性
- 5) 振動による危険
- 血行障害、神経障害、関節障害などの危険性
- 6) 放射線による危険
- X線、低周波、無線、マイクロ波、紫外光などの危険性
- 7) 有害化学物質による危険
- 有害物質の吸引、爆発などの危険性
- 8) 人間工学無視による危険
- 不自然な姿勢などによる生理学的な悪影響などの危険性
リスクとは
ISO12100において、リスクとは、「危害の発生確率とその危害の重大さの組み合わせ」と定義されます。また、危害とは、「身体的な傷害又は健康障害」と定義されておりますので、ISO12100はリスク自体を労働災害に限定していると考えられています。
ISO12100は、絶対的な安全というものは存在しないという考えを背景にして制定されています。従って、いくらかリスクは残ると考えられており、その残ったリスク(残留リスク)がその時代の社会的価値観及び社会通念上許容できるレベル(許容リスク)にまで低減されることにより「安全」は達成されると考えられています。
残留リスクが許容できるレベルにまで低減されているかどうかは、リスクアセスメントとリスク低減手法の繰り返されるプロセスに従って達成されることになります。
リスクアセスメントとリスク低減手法
ISO12100が定めるリスク低減の手法をまとめると、以下のような流れになります。
リスクアセスメント
図中の破線枠内は、ISO12100で定められるリスクアセスメントに該当します。リスクアセスメントの各項目(①~④)は以下の通り説明されています。
- ① 対象となる機械の仕様の特定
- 対象となる機械の仕様を限定します。つまり、機械の使用方法に対する限定、設置環境に対する限定および時間に対する限定です。
- ② 危険源の特定
- ①で特定した範囲内において、ISO12100に例示されるような危険源を特定します。
- ③ リスクの見積り
- 危険源を特定した後、各危険源に対するリスク要素を決定することでリスクを見積もります。
リスク要素とは、傷害のレベル(severity)と発生の確率(probability of occurrence)の組み合わせにより決定されます。 - ④ リスク評価
- ③で見積もりをしたリスクに対して、リスク低減が必要かどうか、安全が既に確保されているかどうかを評価し、リスク低減が必要となれば、具体的なリスク低減手法を講じることになります。
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- 「リスクアセスメントの進め方」はこちら
リスク低減の手法(3ステップメソッド)
- A)本質的安全設計
- 本質的安全設計は、リスク低減プロセスの第一ステップであり、かつ最も重要なステップになります。本質的安全設計とは、①機械を設計する際、危険源を含まない(危険源を排除する)設計を実施すること、または、②リスクを最も効果的に低減できる最適な設計手法を選択するか、人の危険源への暴露を制限する設計をすることによりリスク低減を実現することです。
本質的安全設計を実施するに当たって、以下の事項を考慮します。
(ア) 幾何学的要素、および物理的側面
(イ) 安定性
(ウ) 保守保全性
(エ) 人間工学の原則 など
また、制御システムにてリスク低減を図る場合、制御システムへの本質的安全設計の適用、及び安全機能喪失の故障確率を最小化することを考慮しなければなりません。(次章ISO13849-1-制御システムの安全関連部参照)
なお、ライトカーテンのような保護装置は、機械の制御システムにつながりますので、本質的安全設計を実施した制御システムの一部としてみなすことは出来ますが、ISO12100では、保護装置は安全防護手段として分類されています。 - B)安全防護手段、又は追加の防護手段
- 本質的安全設計の手法により危険源を除去できない、あるいはリスクが十分に低減できないと合理的に判断される場合、人体保護のためのガードや保護装置を使用することになります。また、追加の(補完的な)防護手段(例:非常停止スイッチ)なども考慮する必要があります。
これがリスク低減プロセスの第二ステップになります。
ライトカーテンなどの電気的感知検出装置(ESPE)は、安全防護手段としてISO12100第6章に紹介されています。 - C)ユーザへの情報提供
- ISO12100では、ユーザに対して情報を提供することは機械設計の一部であると考えられています。機械を正しく安全に使用するために必要とされる情報は全てユーザに提供されなければなりません。
ユーザへの情報には、残留リスクの情報も含めて、使用者のレベルに応じた適切な警告、注意も含まれます。
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