なくならないミスの原因は?「エラープルーフ化」5つのポイント
ヒューマンエラーを原因とする安全や品質に関わる問題発生は、製造現場において常に頭を悩ませる課題です。人はどんなに訓練されていても、ミスをする可能性をゼロにすることはできません。正確に動き続ける機械があったとしても、設定・操作する人がミスをすれば正常に動かなくなります。ミスを回避するためには、ミスを起こさせない、ミスが起きても大きな問題とならない仕組みや手順を構築することが重要です。
今回は、ミス回避の対策を人に依存しない「エラープルーフ化」について解説し、実践のコツを紹介します。
- この記事でわかること
ヒューマンエラーはなぜ起こるか
ヒューマンエラー(=ミス)を完全になくすのは困難です。どんなに気を付けていても、人間の能力には限界があります。たとえば、目の前は見えていても周囲は見えなかったり、時間が経つほど集中力が低下したりするのは、人間の変えられない特性です。エラーは起きてしまうものとして、対策を講じることが求められます。
まずは、どんな理由でヒューマンエラーが起きたのかを知ることが肝心です。
以下のようなことが考えられます。
- ・不注意
- 作業以外のことに意識がいって注意散漫になったり、反対に作業に集中しすぎて周囲への注意が欠如したりすることがミスを誘発します。
- ・意識低下
- 長時間作業や単調な作業は、注意力や集中力の低下を招きます。ぼんやりしてミスをしやすい状態です。
- ・疲労
- 疲労が蓄積していると、通常の動作ができなくなったり、集中力が持続できなくなったりして、ミスを起こしやすくなります。
- ・錯覚
- 指示を聞き間違えたり、状況を見誤ったりすることで発生するエラー。思い込みや勘違いなど、認知ミスが原因になることもあります。
- ・経験不足
- 未経験者や作業をよく理解しない人が引き起こしやすいエラー。経験不足や学習不足がミス誘発の原因になります。
- ・慣れ
- 慣れによる気の緩み、または、危険軽視による確認不足などが原因で発生するエラー。熟練作業者が引き起こしやすいエラーの1つです。
- ・連絡不足
- 申し送り事項が行き渡っていないなど、作業者同士のコミュニケーションや情報周知が不十分なときに発生するエラー。複数の人が関与する工程などで起こりやすい傾向があります。
- ・マニュアル不備・違反
- 作業手順が正確に決まっておらず、作業者が代わるとエラーが発生するようなパターンです。決まった手順があっても、作業者が順守しないことでエラーが起きることも考えられます。
- ・リスク放置
- 危険に気付いているのに、対策を後回しにしてエラーが起こるケースです。当事者意識が不足していたり、安全性より納期のほうが優先されてしまうときなどに起こりやすくなります。
教育や注意喚起を徹底するだけでは、ヒューマンエラーはなくなりません。ヒューマンエラー回避の対策を作業者の意識に頼るのではなく、仕組みや手順を変えることで、ミスが起きないようにする。または、起きても最小限の被害で済むようにすることが大切です。
人に依存せずミスを回避。「エラープルーフ化」とは?
ミス回避の対策を人に依存せず、ミスを発生させない、発生しても大きな問題とならない仕組みや手順を設計する手法として「エラープルーフ化」があります。
エラープルーフ化には、以下の5つの原理があり、それぞれについて解説します。
排除
排除とは、エラーの原因となるものを取り除くことです。たとえば、つまずく可能性がある床の小さい段差をなくすなど、エラーの原因となるものを事前に排除します。また、エラーを起こす可能性がある作業を不要にするという方法もあります。
代替化
代替化とは、今まで人が行っていた作業を機械やシステムに代替することです。たとえば、検査工程で人が1つ1つ手作業で長さや形状を測定していたとします。かわりに複数箇所を一度に測定できる寸法測定器などを使用することで、測り漏れや人による測定値の誤差を回避できます。また、これまで手入力していた測定データを、測定装置からダイレクトにシステムに送り、その中で処理すれば、入力ミスをなくすことができます。
人は項目数が増えたり、手順が増えたりするとミスしやすくなります。また、細かい作業が多くなれば、疲労から注意力が下がり、ミスが増えます。装置やシステムで作業を代替し、自動化することでミスを回避できます。
容易化
容易化とは、作業しやすく、判断しやすくすることです。たとえば、これまで乱雑に置かれていた工具を棚の決まった位置に並べることで選びやすくしたり、組み立てる部品を組み付け順に並べたりするなど、整理整頓も容易化の1つです。また、複数の操作ボタンの色と形が似ていることで押し間違うことが多ければ、違いがわかるように色を変えたり、操作箇所に番号を書いたシールを貼ることで、操作手順をわかりやすくしたりといった容易化もあります。
このように、人の動作や判断を容易にすることでミスの発生を防ぎます。判断を容易にする方法としては、測定装置を活用した数値化・定量化なども有効です。
異常検出
異常検出とは、異常を速やかに検出して知らせることで、それ以上の被害を防ぐことです。たとえば、エラーが発生した際にパトライトが点灯して警報音を鳴らしたり、装置を自動停止させるシステムなどが挙げられます。
影響緩和
影響緩和とは、発生したエラーによる問題が、他の箇所に影響して広がらないようにすることです。事前にどのような問題が発生するかを想定しておき、問題が発生した場合の対策を施しておきます。
「エラープルーフ化」の進め方のコツ
エラープルーフ化の原理に基づき、仕組みや手順を改善し、装置やシステムを使って自動化・数値化する方法は数多くあります。これにより、多くのミスを未然に防ぎ、被害を最小限にとどめることができます。排除・代替化・容易化・異常検出・影響緩和を個々に行った場合、局所的な効果しか得られません。現場の状況を見て、これらを複合的に実施することで、より広い範囲で相乗的な効果を発揮します。
ただし、意図せず起きてしまうミス=ヒューマンエラーではなく、決められた手順や確認を怠るなど、意図的な行為が原因のミスであれば、エラープルーフ化はその効果を発揮できません。そのため、教育や管理体制の強化と維持は欠かすことができません。その上で、作業内容や現場環境を見直し、改善していくことがミスの回避において重要です。
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