スマート工場と無線化
日本の生産現場では、工場の自動化による生産性の向上に取り組んできました。工場の自動化とは、FA(Factory Automation:ファクトリーオートメーション)と呼ばれ、センサや産業用ロボットなどを用いて『測る』『制御する』ことで、生産工程ひとつひとつに人の関与を削減していくことを指します。
近年では、生産現場のさらなる進化が要望されており、デジタル技術を駆使した「スマート工場(スマートファクトリー)」に注目が集まっています。こちらでは、スマート工場(スマートファクトリー)と無線LAN(Wi-Fi)の関係性や必要性などを紹介します。
スマート工場(スマートファクトリー)とは
スマート工場(スマートファクトリー)という言葉の起源は、2011年にドイツで生まれた『インダストリー4.0』です。インダストリー4.0は、製造業のIT化を促進するためにドイツ政府が行ったプロジェクトで、その成果から世界的にスマート工場(スマートファクトリー)が広がりました。以下は、インダストリー4.0の設計原則です。
インダストリー4.0の設計原則
相互運用性
情報透明性
技術的補助
分散型決定
AIの活用を通して、生産工程を自律化すること。生産工程への人の介在が減るため、労働者の負担が軽減される。
インダストリー4.0の設計原則を踏まえて、具体的に省力化や常用管理の効率化、生産性改善などを目的に、工場内にある生産設備や工作機械などのあらゆる機器や設備をネットワークに接続させた工場(スマート工場(スマートファクトリー))が注目を集めています。スマート工場(スマートファクトリー)効果として、以下のようなメリットが挙げられます。
- 人手不足の解消
- 製造工程の可視化による生産性向上
- トラブルへの柔軟な対応
無線LAN(Wi-Fi)の必要性
スマート工場(スマートファクトリー)では、生産の進捗確認のほか、圧力センサや流量センサ、温度センサ、電力量計をはじめとする計測機器、生産を行っている機器・設備の制御を行っているPLC(Programmable Logic Controller)など、すべての設備・機器がネットワークに接続され、通信できる体制が求められます。
しかし、有線のLANケーブル敷設には既存のスイッチングハブの空き状況を確認したり、安全に配慮して天井に設置する高所工事、また床下に隠す工事が必要になったりと費用や時間もかかってしまいます。それに対して既設の機器の設置状況も確認不要かつ、工事も不要でシステム構築できる無線LAN(Wi-Fi)に注目が集まっています。 さらなるネットワーク接続機器の増加には、無線LAN(Wi-Fi)なくして対応不可能と言っても過言ではない状態になってきております。
製造業やFA(ファクトリーオートメーション)の分野においては、まだ無線LAN(Wi-Fi)の導入が活発ではありませんが、今後の導入が重要になってきていると言えます。
FA(ファクトリー・オートメーション)とWi-Fiの関係性
スマートファクトリー(スマート工場)を語る上で、『FA(Factory Automation:ファクトリーオートメーション)』を確認しておく必要があります。FA(Factory Automation:ファクトリーオートメーション)は、生産工程を自動化すること、またはそのシステムを指し、JIS規格で以下のように定義されています。
FAとは JIS B 3000:2010
工場における生産機能の構成要素である生産設備(製造,搬送,保管などにかかわる設備)と生産行為(生産計画及び生産管理を含む。)とを、コンピュータを利用する情報処理システムの支援のもとに統合化した工場の総合的な自動化。
簡単に言えば、FA(Factory Automation:ファクトリーオートメーション)は、センサや産業用ロボットなどを用いて『測る』『制御する』ことで『工場を自動化する』ことを指し、生産工程ひとつひとつの自動化が目的です。
一方のスマート工場(スマートファクトリー)は、明確な定義はありませんが、『IoT(Internet of Things:モノのインターネット)』によるデータの収集、『AI(Artificial Intelligence:人工知能)』によるデータ分析、『M2M(Machine to Machine)』による機器同士がネットワークに接続された自動制御などにより、工場全体を最適化することを指します。
スマート工場(スマートファクトリー)用語集
AI(Artificial Intelligence:人工知能)
明確な定義は存在しませんが、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うもの(一般社団法人 人工知能学会)」とされています。
DX(Digital Transformation:デジタル変革)
デジタル技術を活用して業務そのものや製品、サービス、ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること目指すことを指します。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)
従来はインターネットに接続されていなかったモノ(各種センサや生産設備など)がインターネットにつながり、相互に通信を行う仕組みです。
M2M(Machine to Machine)
産業用ロボットや各種センサなどの機器が人を介さず、別の機器やパソコンなどと通信を行い、データ収集などを行う機械同士の通信を指します。
生産現場を無線化する難しさ
スマート工場(スマートファクトリー)化において重要な、ネットワークの無線化ですが、現状では課題もたくさんあります。まず、近年注目を集めているローカル5Gは、無線局免許の申請や数千万円以上の初期投資、さらに毎月発生する数十万円のランニングコストなど、導入ハードルが非常に高くなっています。
また、無線LAN(Wi-Fi)は、導入ハードルが低い一方で、電波干渉や電波混雑による遅延や速度低下といった課題がありました。とくに工場は、生産ラインによっては数百メートルといった広大な通信エリアが必要になり、ノイズを発生する機器・設備も多く、安定した無線通信にとって、過酷な環境です。これまでは通信の安定性や速度などの問題もあり、無線LAN(Wi-Fi)導入が進まなかったという側面もあります。
しかし、近年の無線LAN(Wi-Fi)は、速度や安定性も高くなり、さらに電波干渉や電波混雑の影響を受けにくい6GHzに対応した、新しい規格のWi-Fi6Eが登場するなど、スマート工場(スマートファクトリー)において無線LAN(Wi-Fi)が現実的なものになってきています。