凹凸シートの3D形状を瞬時かつ定量的に測定する方法
凹凸のあるシートは、さまざまなシーンで活用されています。また断熱性やクッション性、防振性、吸水性、滑り止め、曲げへの強さ、拭き取りやすさ、肌触りのよさ、意匠性など、目的や機能は多種多様です。材料や製造方法も多種多様で、縦糸と横糸で編む紡績工程での工夫や、不織布や平らな紙であってもエンボスや塗布などの加工によって基材に凹凸を付与することができます。しかし、凹凸が意図しない高さであったり、高さ・深さがバラついたりしている場合、目的の機能を発揮できないことがあります。
ここでは、シートの凹凸に関する基礎知識から、凹凸測定での課題、そして従来の課題を解決する、最新の測定方法までを解説します。
- 凹凸シートとは
- 凹凸シートの種類
- 凹凸シートの加工・製造
- 凹凸シートの品質管理と競争力
- 従来の測定機器での凹凸シートの形状測定の課題
- 凹凸シートの形状測定における課題解決方法
- まとめ:正確な測定が難しい、凹凸シートの形状測定を飛躍的に改善・効率化
凹凸シートとは
表面に凹凸形状を持つシートで、凹凸によってさまざまな機能を持ちます。利用目的や機能、素材やサイズ、凹凸の形状やパターン、加工・製造方法は多種多様です。凹凸形状を設けたシートは、航空宇宙関係から自動車、電気製品など工業製品の部材、身近な日用品や医療・衛生用品までさまざまな用途で幅広く用いられています。
凹凸シートの種類
凹凸シートは表面を立体的な形状にすることで表面積を増やすことができます。そうしたメリットを活かし、種類や機能・用途は多種多様です。代表的な例の一部を下記に挙げます。
- 断熱シート:凹凸形状に熱や冷気を持った空気をいったん取り込むことで、温度差を緩和します。屋外と室内の温度差の間にある屋根や窓ガラスなどに取り付けることで、室温への影響や結露を抑制します。
- 放熱シート:シートの凹凸によってヒートシンクのような役割を担います。たとえば、小型な電子機器の内部でCPUやマザーボード、パワートランジスタ、電源部品の放熱などの放熱に用いられます。
- 緩衝材・防振材:凹凸の形状のゴムやウレタンなど軟質または弾性のある素材のシートで、衝撃や振動を吸収します。自動車の静音性・居住性の向上などに多く用いられています。
- 吸水シート:凹凸によって表面積を増やし、吸水性を高めたシートです。
他にも工業製品や日用品・医療・衛生用品など、さまざまな製品に凹凸シートが用いられています。たとえば、汚れの拭き取りやすさや、滑り止め、密着の防止、意匠などさまざまな目的に凹凸形状が設けられることもあります。
凹凸シートの加工・製造
凹凸シートの製造工程や加工技術も多種多様です。織物の場合はそのピッチや縦糸・横糸の太さなどによって目的の機能を付与することができます。一方、スパンボンド法やスパンレース法で製造された不織布や平滑な表面を持つ樹脂や紙製シートなどの場合、エンボスまたはデボス加工やパターン塗布、エッチングなどの工程で、さまざまな凹凸形状と機能を付与することができます。
以下では、中でも代表的な加工方法の1つである「エンボス/デボス加工」のメカニズムについて解説します。
エンボス/デボス加工とは
エンボス/デボス加工とは、「浮き出し加工」とも呼ばれ、金属または樹脂製の凸版と凹版で素材となるシートを挟み込む、または、凸版を上から押しあてることで、凹凸形状に加工する方法です。
上下から版(型)で挟み込むことで、材料表面よりも高い凸形状を設ける場合はエンボス加工、低い凹みを設ける場合はデボス加工と呼ばれます。また、1つの凸版で片面から材料表面に圧力をかけることを「空押し加工」といいます。それぞれのメカニズムを概略図で示します。
- A
- 凸版
- B
- 素材(シート)
- C
- 凹版
- D
- 加圧
- E
- 表面に凹形状ができる
- A
- 凸版
- B
- 素材(シート)
- C
- 加圧
- D
- 最大厚み変えずに凹形状ができる
凹凸シートの品質管理と競争力
特殊なものを除き、凹凸シートには、均一な凹凸パターンが求められる場合がほとんどです。凹凸の高さ・深さがシート全面で均一ではない場合、目的とする機能や外観を得ることができず、不良品となる場合があります。
細かい凹凸の場合、目視では凹凸の均一さに関する評価は不可能といえます。また、インラインでの検査においては、シートの大まかな形状や傷、折れ、シワ、異物などは判別できたとしても、微細な凹凸の高さ・深さまで詳しく測定することには向いていません。
また、高機能シートは、製品サイクルが速いため、高い競争力を得るには、研究開発から試作・評価、製品化までのスピードも重要です。各段階での効率的かつ精度の高い評価は、大きなスピードの差となって表れます。
従来の測定機器での凹凸シートの形状測定の課題
製造方法や加工方法に関わらず、シートの凹凸形状を正確に測定することは、製品の性能や品質、工程を評価するうえで、非常に重要です。しかし、従来の輪郭形状測定機などの接触式の測定では、シートの凹凸を測定するにあたり、下記のような課題がありました。
輪郭形状測定機での凹凸シートの形状測定の課題
輪郭形状測定機とは、スタイラスと呼ばれる触針を用いて対象物の表面をなぞることで、その輪郭形状を測定、記録する装置です。
近年では触針の代わりにレーザーを用いて、非接触で輪郭をなぞることで複雑な形状の測定に対応した機種もあります。また、機種によっては上下両面の測定が可能なものもあります。
輪郭形状測定機を用いた凹凸シートの測定・評価では、下記のような課題がありました。
- A
- 触針
- B
- 検出器
- 対象物を線でなぞって測定するため、広範囲の変形を測定・評価することは困難です。
- 対象物の表面全体の凹凸形状をくまなく把握することができません。
- なるべく広範囲を測定するために、測定線を何本も引いた中で最大・最小の凹凸を測定するには時間がかかります。また、測定線のズレなどにより、測定値が安定しません。
凹凸シートの形状測定における課題解決方法
従来の接触式測定機は、線や点で測定するため、シートの凹凸形状が把握できませんでした。また、対象物全体におけるすべての凹凸の最大値・最小値を得たり、すぐ定量的に比較することは困難です。
こうした測定の課題を解決すべく、キーエンスでは、ワンショット3D形状測定機「VRシリーズ」を開発しました。
対象物の3D形状を非接触で、かつ「面」で正確に捉えることができます。また、ステージ上の対象物を最速1秒で3Dスキャンして3次元形状を高精度に測定することができます。このため、測定結果がバラつくことなく、瞬時に定量的な測定を実施することが可能です。ここでは、その具体的なメリットを紹介します。
メリット1:最速1秒。「面」で対象物全体の3D形状を一括取得
「VRシリーズ」は最速1秒、軟質で薄くデリケートな凹凸シートであっても、非接触・ワンショットで80万点の「面」データを取得することができます。取得した3D形状の最大・最小の凹凸(高さ・深さ)をカラーマップで表現できるため、対象物全体から変形した箇所を「見える化」することができます。
また、スキャンしたデータに対して、直感的な操作で任意の箇所に複数のプロファイル線を引くことができます。正確なプロファイル測定が可能なため、凹凸形状の異常箇所の詳細なデータも素早く取得することができます。
測定後であっても対象物を再びセットし再スキャンすることなく、過去に3Dスキャンした広範囲のデータから別の箇所をプロファイル測定することもできます。
さらに、たとえば異なる加工条件を与えた複数の凹凸シート測定データを用いて、形状を比較したり、目的の条件を複数のデータに一括適応することもできます。
これにより、正確な測定・評価はもちろん、飛躍的な工数削減、業務効率の向上が実現します。
メリット2:簡単操作で、誰が測っても測定値がバラつかない
- 上
- 広がりを自動認識
- 下
- 高さを自動認識
対象物をステージの上に置き、ボタンを押すだけの簡単操作で、3D形状の測定を実現しました。
低倍率/高倍率カメラを切り換えることにより、微細な凹凸を持つシートであっても、全体や凹凸形状の細部、表面粗さまで、1台で正確に測定することができます。
また、対象物の特徴データから自動的に位置補正が可能なため、シビアな水平出しや位置決めは不要です。また、対象物の大きさを判断して測定範囲を自動設定・ステージ移動する「Smart Measurement機能」を業界で初めて搭載し、測定長やZ範囲などを設定する手間を一切排除しました。
さらに、豊富な補助ツールを使用することで、目的の測定内容を直感的に設定することができます。
簡単設定に加えて、初心者でも簡単な操作を実現しているため、測定に不慣れな人でも最速1秒で正確な測定が可能です。そのため、研究開発・試験・評価時などはもちろん、量産時の測定・検査におけるN増しや傾向分析も簡単に実現します。
まとめ:正確な測定が難しい、凹凸シートの形状測定を飛躍的に改善・効率化
「VRシリーズ」なら、高速3Dスキャンにより非接触で対象物の正確な3D形状を瞬時に測定可能です。シートの凹凸の3次元寸法はもちろん、微細な高さ・凹凸の測定、複数データの比較など、これまで難しかった作業も短時間で実現します。
「VRシリーズ」を導入することで、これまでの測定における課題をすべてクリアすることができます。
- 非接触で瞬時に3Dスキャンするため、やわらかい対象物であっても、素早く誤差なく測定することができます。
- カラーマップで対象物全体における高さの違いを「見える化」することが可能です。
- 複数の測定データの比較や、条件の一括適用が簡単に実現するため、業務効率が飛躍的に向上します。
- 一度スキャンすれば、過去のデータからいつでも任意の場所のプロファイル測定や複数データの比較などが可能です。
- 位置決めなどなしに、ステージに対象物を置いてボタンを押すだけの簡単操作を実現。測定作業の属人化を解消します。
- 簡単・高速・高精度に3D形状を測定できるため、短時間で多くのN数に対応可能。品質向上に役立てることができます。
- 簡単操作と自動制御で、人による測定値のバラつきを解消し、定量的な測定が実現します。
他にも、CADデータとの比較や、公差範囲内での分布なども簡単に分析できるため、研究開発や設計、試験などの段階はもちろん、量産投入後の抜き取り検査、不良発生時の原因究明など、凹凸シート製造のさまざまなシーンで活用することができます。