製造現場で使えるロジカルシンキングの手法、 MECEとは?
製造業の現場は、原材料・加工装置・搬送・作業者・検査装置・検査員など数多くの要素から成り立っています。加工装置だけをとっても、それを動かすエネルギーと機構・治具・潤滑材・冷却水・制御・位置決めなど数多くの要素があります。
業務改善や問題解決策を考える際、前述のように場当たりで項目を挙げただけでは、検討すべき項目が漏れたり、ダブったりすることで、後から再検討や修正案が必要になってしまうことがあります。そこで活用したいのが、ロジカルシンキングの手法です。今回は、製造業における、MECEの手法を用いたロジカルシンキングについて説明します。日々改善が求められる製造現場での考え方の例や実践のコツについても解説します。
- この記事でわかること
MECEとは
MECE(ミーシーまたは、ミッシー)とは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、意訳すると「相互に(Mutually)、重複せず(Exclusive)、そして全体として(and Collectively)、漏れがない(Exhaustive)」というような意味合いになります。簡単にいうと、情報や分析対象をグループ分けする際に「漏れなく・重複なく」、つまり、欠けやムダなく行うためのロジカルシンキングの手法です。
MECEの概念を客観的に見ると、「漏れなく・重複なく」なんて当然と思う人も少なくないでしょう。しかし、いざ実際の製造現場で物事を検討する立場になると、判断の難しさに直面することもあります。MECEの手法は、そのような場面で役立ちます。
では、MECEの概念について図を用いて考えてみましょう。
次の3つの概念図のうち、MECEを表す図として相応しくないものはどれでしょうか。
①
②
③
答えは②と③です。これらはMECEの考え方を満たしていません。
それぞれの図を説明すると、
①重複も漏れもありません=MECEといえます。
②重複と漏れの両方があります。
③重複はありませんが、漏れがあります。
製造現場におけるMECEの例
MECEの「漏れなく・重複なく」という考え方は、製造現場で役立てることができます。複雑で数多くの要素から成り立つ製造現場において、問題に対する原因や方策を考えるとき、何の脈絡もなく検討項目を羅列しても、なかなか効果的な解決策を掘り起こすことができません。
また、思いつきで検討すべき項目を挙げた場合、重複によって時間をロスしたり、重要な項目が漏れてしまう可能性があります。MECEのメリットは事象を漏れなく・重複なく分類し、効率良く検討できることにあります。
製造業における分類の例を下記に示します。
- ・「製造工程」を「4M」で分ける
- 人(Man)/ 機械(Machine)/ 材料(Material)/ 方法(Method)
- 工程に改善の余地がないか、歩留まり率が低下した理由は何かなどを「漏れなく・重複」なく検討する場合、上記のように4Mで分類することが多いです。
- ・「品質」を「時間」で分ける
- 設計 / 原材料 / 製造 / 加工 / 検査 / 梱包 / 輸送 / 販売 / 使用 / 廃棄
- 製品とその生産前後を時系列で分けて考えます。品質を維持するには、どのタームにおいて何が重要かを「漏れなく・重複なく」検討することができます。
- ・「故障原因」を「科学的」に分ける
- 固体・液体・気体 / 重力・電気力・磁気力
- 品質保証においては、製品を成す物体の形態や、製品使用時にかかる力などを「漏れなく・重複なく」挙げ、それぞれを検討します。
- 他にも設備の点検では、点検項目を検討する際に、MECEの手法を用いることで、「漏れなく・重複なく」を実践することができます。
製造現場でMECEを実践するコツ
MECEの「漏れなく・重複なく」の考え方は、管理的な項目を分けることが多いですが、小さなグループや個人が携わる業務の整理・改善、他の工程の担当者への確認事項・顧客との確認事項の洗い出しなどにも活用することがでます。
いざ、実践しようとすると、漏れや重複が発生してしまったり、項目を挙げることに苦戦してしまうことがあります。ここでは、MECE実践のコツを紹介します。
MECE実践のコツ1:細かすぎると逆効果
MECEは、検討する前段階で項目の漏れや重複をなくし、効率的化することが目的です。そのため、「細目まですべてを完璧に洗い出す」のではなく、「重要な項目を漏れなく・重複なく」挙げることが重要です。
対象が広範囲であればあるほど「漏れ」が生じやすく難易度が上がります。一方、目の前のことに拘りすぎると、細かくなりすぎてしまい「重複」が増え、精査に時間がかかってしまうことがあります。
特に対象が担当外・専門外の事柄を含む場合、独りでは何が重要かを判断したり、漏れや重複に気づくことが困難な場合がほとんどです。その場合は、社内のQCサークル活動やミーティングで議題に挙げてみるなど、複数の人と意見交換すると効果的です。
MECE実践のコツ2:分類の基準を設ける
MECEの概念は、対象となる事象だけでは、項目を導き出すことが困難です。事象に対して、相対的なテーマを持つことで、より項目を上手く引き出すことが可能となります。その例を下記に挙げます。
- 工程に関する項目→ 時系列、または4M(人・機械・材料・方法)
- 設備点検に関する項目→ 機構の分類、または動作する順
- 装置に関する項目→ 各部の役割で分解・空気圧/熱/磁力など利用するエネルギー
- 工具や治具に関する項目→ 用途・サイズ・使う順
他にも、組み合わせ次第で優先すべき項目が違って見える場合があります。できれば、複数の組み合わせで検討してみることで、項目の妥当性を検証できたり、漏れや重複に気づき、精度を向上できる場合があります。
誰もが普段から「プチMECE」を実践している!?
MECEには、一見難しそうな印象があるかもしれません。しかし、ロジカルシンキングの手法自体に悩むなんて、本末転倒です。極端な例を出すと、日常生活の中でもMECEに近い考え方を実践していることがあります。
たとえば、普段の買い物で、ねぎ・卵・醤油・パスタ・牛乳・トイレットペーパー・洗濯用洗剤・子どもの靴下・歯ブラシをリストアップするとき、頭の中で無意識に簡単なMECEを実施して必要品を挙げていることがほとんどです。なぜなら、誰しも、買い漏れや重複を避けたいからです。
製造現場におけるMECEも、基本的なロジックはこれに似ています。ただ、家庭よりも項目や検討要素が多く複雑であるがゆえ、体系化・明文化が必要なだけと考えれば、取り組みやすいかもしれません。
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