産業用機械・装置の寿命、どう判断すべき?
製造現場において加工や搬送、検査などに使用される産業用機械・装置の寿命はさまざまです。これらの機器の寿命を知るには、どうしたらいいのでしょうか。
たとえば、減価償却資産における耐用年数は、寿命を把握する目安になりますが、同じ機械・装置でも使用の頻度・状況などによって寿命は変わります。また、技術の進歩や需要や価格変化のスピードが速くなった昨今、産業用機械・装置の寿命に対する考え方や対応も変わりつつあります。的確に寿命を見極め、保全の実施や機器の更新を検討することが肝心です。
- この記事でわかること
適切な保全活動で機械の寿命を延ばす
製造現場で使用する産業用機械・装置は、現実的な耐用年数から考えた寿命が重視されます。長期間使用すれば、摩耗や変形などにより部品が劣化し、故障が発生します。軽微な故障であれば、早期復旧が可能です。しかし、修理が困難なほどの甚大な故障が発生したり、軽微な故障が頻発したりといった場合は、製造工程での使用が困難なため、寿命を迎えたといえます。
機械・装置の故障を防止または減少させ、安定した状態で継続的に稼働させるためには、保全活動が必要です。保全活動の方法には下記の種類があります。
事後保全
故障が発生してから修理を行う保全活動で、RM(Reactive Maintenance)とも呼ばれます。生産計画に予期せぬ影響が生じてしまうことがデメリットです。
予防保全
故障が起きないよう、事前に行われる保全活動です。保全する基準によって以下の2つがあります。
時間基準保全
機械・装置の状態にかかわらず、期間を区切って定期的に行われる点検作業による保全で、TBM(Time Based Maintenance)とも呼ばれます。計画的な保全活動で、故障を防止できることがメリットです。一方で、本来はメンテナンスが不要だった箇所の保全も行うため、ムダな時間・コストが生じるというデメリットがあります。
状態基準保全
機械・装置の状態を監視し、劣化や異常を判断して事前にメンテナンスを実施する保全で、CBM(Condition Based Maintenance)とも呼ばれます。これを実現するために、人が常に機械・装置の状態を監視し続けることは困難です。そのため、機械・装置の状態を必要な部位ごとにセンシングし、データを蓄積・分析、または自動監視するシステムの活用が有効です。
適切な保全活動を行うことで、機械・装置の故障を防ぎ、より長く安全に使用することが可能になります。ただし、保全に必要な交換部品の製造終了などにより調達コストが大幅に増加している場合、その機械・装置は費用対効果の面で寿命を迎えているといえます。
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センシングやIoT技術を活用した、これからの保全・寿命予測
近年では、高度なセンシング技術やネットワーキング、データの蓄積・解析といったIoT技術を活用し、状態基準保全(CBM)をより高度に実現する「予知保全」への取り組みも進んでいます。人の手を介すことなく故障の兆候や異常を素早く検知し、故障発生前にメンテナンスを行うことが可能です。これと類似する概念として「予兆保全」があります。
その他に、取得したデータを解析し、故障が発生する時期や機械とその構成部品の寿命を予測する先進的な技術の研究も進んでいます。機械・装置のメーカーとデータをシェアすることで、交換部品や代替機を事前に用意することができます。これにより、機械・装置メーカー側の製造ロスの削減と同時に、ユーザー側の部品調達コスト削減と、タイムリーな調達によって設備の停止時間を最小限に留めることができます。
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時代のニーズや競争力が変える、機械・装置の寿命
産業用機械・装置の寿命に関して、もう1つの考え方があります。それは、顧客の要望に応えるための、性能や対応力における寿命です。
近年は、ドイツを発端とする第4次産業革命(Industry 4.0)や、日本国内でもSociety 5.0やConnected Industriesといった概念の流布により、製造業は大きな転換期を迎えています。また、諸外国企業の技術革新による競争激化、加工する材料の高機能化など、顧客ニーズも高度化・多様化しました。また、その変化のサイクルもこれまでにないほど速くなりました。
このような新たな顧客ニーズや業界の変化に応えるには、新しい高機能素材や形状、より高い精度に対応する機械・装置の導入が必要になる場合があります。また、高性能な自動検査システムを導入することで、検査の精度・スピードを向上し、品質向上とコスト低減の両方を実現できるケースもあります。
設備の更新による競争力の向上が求められることも珍しくありません。このような理由によっても、従来使用してきた機械・装置は、寿命を迎えることになります。
性能としての寿命を認知するには、技術の進歩や市場・需要の変化、自社の競争力を常に意識しておく必要があります。先進的な機械や装置、システムへの移行は、時代を先取りしたアクティブなものづくりを促進し、競合他社との差別化や増収増益につながる機会となり得ます。
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