手軽に美味しい “37万9,521トン”
原油の輸入に使われているタンカーは、いくつかのクラスにわかれていて、もっとも大きなULCC級(Ultra Large Crude Carrier)となると、約32万トン~約55万トンにのぼります。
今回、紹介する37万9,521トンというのは、ULCC級でないと一度に運搬できないほどの重量ですが、その正体は2018年に日本国内で生産されたレトルト食品の総重量です。
手軽に美味しく食べられ、しかも長期保存できる便利なレトルト食品は世界中で重宝されています。そんなレトルト食品の歴史をご存知でしょうか。
日本初の家庭向けレトルト食品の誕生は、1968年に販売を開始した「レトルトカレー」です。食品のレトルト包装は1950年頃のアメリカで、缶詰にかわる軍用携帯食としてアメリカ陸軍で開発され、ソーセージを真空包装したものなどが誕生しました。ただし、当時のアメリカではすでに冷蔵冷凍庫や冷凍食品の普及がすすんでいたため、消費者ニーズと合わず、市場で流通して消費されることはなかったようです。
日本のレトルトカレーは、このソーセージの真空方法をヒントにしたものです。ちなみにレトルトパウチ包装ごと温めることができる食品として、世界ではじめて一般家庭用として成功したものだといわれています。
そんなレトルトカレーですが、最初から順風満帆といかなかったようで、初期のレトルトパウチは破損しやすく、中身も劣化しやすいなど、カレーを包装するには課題がありました。発売当初の保存期間は夏期2か月、冬期3か月かつ、販売エリアも関西圏に限定されたものだったとのこと。
いま聞くと2か月~3か月という期間は短く感じるかもしれませんが、温めるだけで美味しいカレーが食べられ、しかも長期保存が効くという食品はかなり画期的な存在です。そのため「防腐剤や殺菌剤などが入っているのではないか」などの、さまざまな憶測や噂が出回ったりもして、なかなか大変な船出だったそうです。
その後、研究や改良を重ねることで破損や劣化に強い3層構造のレトルトパウチの開発に成功し、保存期間も一気に2年まで拡大。また、店頭での試食会などをすることで、悪いイメージを払拭します。日本でいち早くレトルトカレーが一般家庭に浸透した背景には、日本の製造業の技術力と改善力、そして顧客対応へのサービス精神があったからではないでしょうか。
レトルト食品が誕生して約50年経ち、現在では100社以上の企業が、500種以上のレトルト食品を生産しています。特にレトルト食品の元祖であるカレーは、いまでも根強い人気を維持しています。2018年のレトルトカレーの年間生産量は約16万1,711トンと登場から50年経った現在も、レトルト食品総生産重量の半分近くを占めるトップランナーです。
いまや世界中に浸透したレトルト食品。これからも味と利便性の進化に期待したいですね。
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