熱処理用語集
熱処理では、「焼入れ」「焼もどし」「焼なまし」「焼ならし」をはじめ、さまざまな用語が使用されます。こちらでは、熱処理に関連する基本的な用語と簡単な説明をまとめています。
オーステナイト
面心立方格子で構成されたγ鉄固溶体。純鉄は、911°C以上に加熱するとオーステナイトに変態します。オーステナイト化する温度は炭素濃度が高くなるほど下がり、共析鋼(炭素量約0.77%)で727°Cとなります。
フェライト
α鉄固溶体。純鉄は、911°C以下に冷却するとフェライト化します。常温ではほとんど炭素を固溶しておらず、炭素量0.02%以下の鋼を工業用純鉄と呼びます。磁性材料の酸化鉄もフェライトと呼びますが、別の材料となりますので混同しないようにご注意ください。
パーライト
フェライトとセメンタイトの層状混合組織で、冷却速度が早いほど微細な組織を形成します。鉱物の分野でパーライトという言葉が用いられますが、別の材料となりますので混同しないようにご注意ください。
セメンタイト
Fe3Cの化学式で表される鉄の化合物です。
共析鋼
炭素量0.77%程度の共析組織をもつ鋼の名称で、すべての結晶がパーライトになります。共析鋼より炭素濃度が低い鋼を「亜共析鋼」、炭素濃度が高い鋼を「過共析鋼」と呼びます。
固溶体
複数の元素が一様に溶け合った状態の個体です。
共晶
液相から固相になる際、同時に複数の相が晶出した組織。鋳鉄の晶出組織はレデブライトと呼ばれます。
晶出
液相から結晶体である固相を生じる現象を指します。
共析
同時に複数相を析出した組織。鋼の場合は、オーステナイトからフェライトとセメンタイトが同時にパーライトとして析出します。
析出
固溶体から異相が分離し、個体の中で性質の異なる結晶が出現する現象を指します。
脆(ぜい)性
脆さの性質を表す言葉です。反対語として、粘り強さを示す「靭(じん)性」が使われます。
熱処理
素材・材料などに熱を加える操作を指し、広義では食品などの加熱殺菌処理も含まれます。鉄鋼に限定した場合は、JIS G 0201 鉄鋼用語(熱処理)で、「固体の鉄鋼製品が全体として又は部分的に熱サイクルにさらされ、その性質及び/又は組織に変化をきたすような一連の操作。 備考:鉄鋼製品の化学成分がこの操作の間に変化することもある。」と定義されます。
雰囲気熱処理(雰囲気調整熱処理)
加熱炉内に雰囲気ガスを充満させて行う熱処理で、酸化や脱炭を防いだり、浸炭焼入れや窒化焼入れに利用されたりします。
焼入れ
鋼を変態点以上に加熱し、一定時間置いた後に急激に冷却する工程を「焼入れ」と呼びます。
焼もどし
焼入れ後の鋼を再加熱し、硬さを調整しながら靭性を高める処理を「焼もどし」と呼びます。通常、焼入れと焼もどしはセットで行われます。
焼なまし
鋼を柔らかくし、加工性を高める処理を「焼なまし」と呼びます。目的によって「拡散焼なまし」「完全焼なまし」「球状焼なまし」「等温変態焼なまし」「応力除去焼なまし」などに分けられます。
焼ならし
鋼の組織を均一化、微細化する手法を「焼ならし(焼準:しょうじゅん)」と呼びます。変態点より高めの温度で再加熱し、空冷することで結晶粒が微細化するので強靭性などの性質が向上し、同時に残留応力が除去されます。
残留応力
外部からの力や熱が内部に残る現象です。焼ならしを行うことで除去できます。
焼入れ応力
焼入れ後に残った変態応力を指し、変形や焼割れの原因になります。残留応力とほぼ同義と考えていただいて大丈夫です。
変態応力
変態で生じる内部応力で、残留応力の主要原因。残留応力とほぼ同義となり、焼もどしを行うことで緩和できます。
焼入れ温度
焼入れの最終加熱保持温度を指し、オーステナイト化する温度と同じです。焼入れ温度が低いと充分な硬さが得られず、高すぎると脆くなるため、品質を保つには適切な焼入れ温度に保つ必要があります。
焼入れ硬さ
焼入れ後、焼もどしを行う前の硬さで、最大の硬さとなります(二次硬化が大きく現れる鋼を除く)。
焼入れ硬化層
焼入れによって硬化した部分を指します。表面焼入れでは、焼入れ硬化層の硬さや深さを調整することが目的になります。
焼入れ硬化層深さ
限界硬さを超える焼入れ硬化層の深さ(厚み、垂直距離)を指します。
油焼入れ
冷却剤に油を利用する焼入れを「油焼入れ」と呼びます。冷却剤の種類によって「水焼入れ」「水溶液焼入れ」などに分類されます。
水焼入れ
冷却剤に水を利用する焼入れを「水焼入れ」と呼びます。冷却速度が早いことがメリットですが、焼割れなどが発生しやすいため工業分野では油焼入れが一般的です。
水溶液焼入れ
冷却剤に水溶液を利用する焼入れを「水溶液焼入れ」と呼びます。冷却速度は、水焼入れ>水溶液焼入れ>油焼入れの順になります。
塩浴
溶融塩を伝熱媒体に使う方法です。焼入れ(塩浴焼入れ)にも利用されます。
空気焼入れ
空冷による焼入れです。冷却速度が遅いので、焼入れ歪みが非常に小さいことが特徴です。
高周波焼入れ
高周波誘導電流を用いて、表面のみを加熱する焼入れです。硬さに加え、表面に圧縮残留応力が発生して耐疲労性も向上します。
浸炭
雰囲気ガスを利用し、鋼に炭素を侵入・拡散させる処理です。表面層の炭素量を増加させます。
浸炭焼入れ
浸炭により表面層を高炭素化する焼入れ方法です。表面は硬く、内部は粘り強く仕上げることができます。
窒化
雰囲気ガスを利用し、鋼に窒素を侵入・拡散させる処理です。表面に窒化物層を形成します。