機械設計の外殻を担う筐体設計

「動力によって一定の動きを繰り返し行うもの」を“機械” と定義しています。身の回りにあるスマートフォンやパソコン、家電や自動車のほか、工場で使われているロボットアームやベルトコンベア、巨大なプラントなど、すべて“機械”に分類されます。機械と言っても非常に多岐にわたり、求められる機能・性能・仕様は千差万別です。この機械のスペックやデザインを決める工程を「機械設計」と呼び、その中でも外装(筐体)の設計を「筐体設計」と言います。こちらでは「筐体設計」の立ち位置や役割についてご説明します。

機械設計の分類

機械設計は、「構造設計」と「機構設計」の2つに分けられます。構造設計は、動きのない外装(筐体)などの設計を指し、機構設計はモータやギヤなどの動きのあるものの設計を指します。構造設計の中心になるのが機械や電子回路などの部品を収納している外装(筐体)の設計を行う「筐体設計」です。筐体設計者として機械設計と構造設計・機構設計、そして筐体設計の関係性を理解しておくことが大切です。こちらの学習サイトでは、機械設計の中でも「筐体設計」を中心に扱っています。

機械設計

構造設計

機械的な動きが伴わない設計を指します。ネジや歯車といった部品の強度や剛性などを検討する「部品設計」、外装(筐体)のデザインや形状などを検討する「筐体設計」が構造設計に該当します。

筐体設計

構造設計の中でも外殻を担うパートが「筐体設計」です。外装(筐体)の設計を行います。

機構設計

機械的な動きの伴う設計を指します。部品であればギアやモータ、そのほか自動車のドアの開閉やサスペンションのジオメトリなど、設計内容は多岐にわたります。

新規設計と類似設計(流用設計)について

機械設計は、「新規設計」と「類似設計(流用設計)」という分類の仕方もあります。まったく新しい製品を作るときの機械設計を「新規設計」、過去実績の応用や組み合わせから製品を作るときの機械設計を「類似設計(流用設計)」と呼びます。機械設計においては、類似製品や既存技術を活用した「類似設計(流用設計)」が一般的です。設計に入る前に流用可能か検証・類似製品の有無を調べます。コピー製品にならないよう良い点や悪い点を洗い出し、類似設計(流用設計)での新たな付加価値を創造することが機械設計者に求められます。

新規設計

これまでにない、まったく新しい機械やシステムを作るときの設計を「新規設計」と呼びます。

類似設計(流用設計)

過去の実績や応用、技術の組み合わせにより、機械やシステムを作るときの設計を「類似設計(流用設計)」と呼びます。

筐体設計の立ち位置

筐体設計者は、クライアントのニーズや開発部門からの要求仕様など、多方面にわたる要望を整理して、製品の外装を最適化する重要なポジションです。例えば、スマートフォンの筐体なら軽量・小型であること、産業機械であれば高い防水性・防塵性など、クライアントや開発担当の要求は千差万別です。機能や性能のほかにデザイン性やコスト削減など、さまざまな要求に耳を傾け、商品化することが筐体設計者の腕の見せどころです。

そこで重要になるのがクライアントはもちろん、プロダクトデザイナーや機構設計を担当するエンジニアとのコミュニケーションです。 筐体には、さまざまな部品が組み込まれるので、部品設計や機構設計と綿密に連携することが大切です。コミュニケーションを重視して開発を進めることで製品精度が高まり、製造段階での手戻りを減らし、生産コスト削減などの効果も見込めます。

開発では、各段階でデザインレビュー(DR/設計審査)が行われ、関連部門からダメ出しを受けて修正に多大な時間がかかるケースがよくあります。このような手戻りをなくすには、クライアントや関連部署との連携が必要不可決で、筐体設計者には高いコミュニケーション能力が求められます。

コミュニケーション不足は、デザインレビューでの手戻りの原因に

デザインレビューでの手戻り

デザインレビューでの手戻りをなくすにはクライアントや関連部署との連携が必要不可欠!!

デザインレビューでの手戻りをなくすにはクライアントや関連部署との連携が必要不可欠!!

筐体設計の役割

筐体とは、機械や装置を収める箱を指し、ケースやハウジング、エンクロージャーとも呼ばれます。一般的なものではスマートフォンやパソコンの外装、大きなものでは自動車や飛行機の外板も筐体です。筐体の目的は、中に収められた機械や装置を保護することです。外部からの衝撃や圧力、電磁波、水、ホコリの侵入を防いだり、発熱する機器であれば放熱を助けたり、さまざまな役割を担っています。

また、人の手に触れ、目に見える部分でもあるので、操作のしやすさやデザイン性も大切な要素です。そのほかにもコストダウンや納期短縮、安全性なども考慮する必要があり、それらの要求を満たすために使用する材質や形状を決定します。近年では商品の小型化や軽量化・複雑化が進み、難易度の高い筐体設計が求められます。
こちらでは、筐体を使用する一般的な目的と、要求を満たすための対策を簡単にご紹介します。以下はあくまで一般例で、筐体設計では要求に応じてさまざまな対策を講じる必要があります。

筐体を設計する一般的な目的と対策

衝撃対策

内部に収められた機械や装置を保護し、外部からの衝撃を内部に伝えないようにします。

防塵対策

基盤や電子機器などは、チリやホコリが故障や誤作動の原因になります。このようなチリやホコリの侵入を防ぎます。

耐圧対策

気圧変化による故障や誤作動を防ぐために、気密性を高めて内部の機械や装置を保護します。

防水対策

基盤や駆動部に水滴が侵入しないように気密性を高めます。

防音対策

筐体に内燃機関やモータなどの騒音を発する装置を収める場合は、外部に騒音を漏らさないように対策をすることも必要です。

電気的ノイズ対策

家電製品やパソコンなど電磁波を発生する製品は、外部へ電磁波の流出を抑える対策も必要です。

温度対策

内燃機関や電子部品は熱を発生し、誤動作や故障の原因になります。そこで発生した熱を放出して冷却することも筐体に求められます。

光線対策

カメラ・フィルムやレーザプリンタなどは、外部からの光を遮断し、外部に光の流出しないように対策する必要もあります。

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