顕微鏡の光学系
光学顕微鏡のレンズの種類・手入れについてご説明します。
レンズの種類
光学顕微鏡では、基本的に対物レンズと接眼レンズの組み合わせで観察を行います。観察倍率はそれぞれの倍率を掛け合わせたものとなります。観察可能な倍率の範囲は、数十倍~1000倍程度です。機種によっては2000倍の観察が可能なものもあります。
対物レンズ
複数枚のレンズで構成され、観察対象を拡大して像を写し出します。焦点距離の違いによって、4×、10×、40×、50×などさまざまな倍率のものがあります。対物レンズの性能を表す指標として、倍率に加えて、開口数、ワーキングディスタンスを挙げることができます。
また、レンズを透過した光は波長によって屈折率が異なる色収差(色のにじみ)を起こします。それを防ぐために、次のようなレンズが開発されています。
アクロマートレンズ
光の波長の中で2色の屈折率が同じになるように設計されたレンズです。コストパフォーマンスに優れ、一般的に広く使用されています。
セミアポクロマートレンズ(フルオールレンズ)
光の波長の中で3色の屈折率を同じにしたレンズです。波長がおよそ340nm程度の紫外光の透過率を確保していることから、蛍光観察に用いられます。
アポクロマートレンズ
セミアポクロマートレンズ同様、光の波長の中で3色の屈折率を同じにしたレンズです。開口数が大きく分解能に優れ、詳細な観察を必要とする研究用途によく用いられるレンズです。その分、高価なものとなっています。
プランレンズ
レンズの中心部だけでなく周辺部までもピントが合うように、像面湾曲収差の補正が施されたレンズです。前述のレンズに像面湾曲収差が施されている場合は、それぞれプランアクロマートレンズ、プランフルオールレンズ、プランアポクロマートレンズと呼ばれます。多くの場合、レンズ側面に「PLAN」と表記されています。
液浸レンズ
対物レンズと標本との間を液体で満たすことで開口数を向上させ、高分解能化を実現させたレンズを液浸レンズと言います。このうち、イマージョンオイルを用いるものを油浸レンズ、水を用いるものを水浸レンズといいます。前者はレンズの側面に「HI」「OIL」、後者は「W」「WATER」などと記載されています。
接眼レンズ
観察者がのぞく側に取り付けるレンズです。対物レンズで拡大した像を接眼レンズでさらに拡大して写します。1~3枚のレンズで構成され、そのほか「視野絞り」といって、不要な反射光や収差を取り除く機構が備わっています。
倍率の違いによって、7×、15×などの種類があります。レンズの性能を表すものとして、倍率に加えて、視界に入る範囲を示した視野数などがあります。
ちなみに、対物レンズでは、倍率が高いほどレンズ長が長くなりますが、接眼レンズでは逆に高倍率の方がレンズ長は短くなります。
視野絞りの構造や用途に応じて、次のようなレンズがあります。
ホイゲンス(ホイヘンス)・レンズ
2枚の平凸レンズで構成されています。低倍率用で用います。視野絞りはレンズの鏡筒内にあるのが特徴です。
ラムスデン・レンズ
視野絞りがレンズの鏡筒の外にあるのが特徴です。
ペリプラン・レンズ
倍率色収差などを補正して、視野の周辺部までも鮮明に見ることができるレンズです。
コンペンゼーション・レンズ
対物レンズで生じた収差を接眼レンズで補正するレンズです。
広視野レンズ
広い視野を確保でき、生物や鉱物などの観察で広く用います。
超広視野レンズ
さらに広い視野に対応していて、主に実体顕微鏡で用います。
コンデンサーレンズ
ステージの下に取り付けるレンズです。光量を調整して、観察対象に均一に当てることができます。高倍率での観察で重宝します。一般的な「アッベ・コンデンサー」や色収差を補正する「アクロマート・コンデンサー」などさまざまなタイプがあります。
アッベ・コンデンサー
教育施設に備え付けの顕微鏡などに用いられる簡易型のコンデンサーレンズです。
アクロマート・コンデンサー
色収差を補正するコンデンサーレンズです。像面湾曲を補正できる上位タイプとして、アクロマート・アプラナート・コンデンサーレンズがあります。
ユニバーサル・コンデンサー
暗視野観察、位相差観察、微分干渉観察、偏光観察などの観察に広く対応したコンデンサーレンズです。
倍率について
観察時の倍率(総合倍率)は、対物レンズと接眼レンズの倍率を掛け合わせたものとなります。たとえば、対物レンズが20×、接眼レンズが10×であれば、観察時の倍率は200倍です。
ちなみに、倍率が1倍とは、観察対象から250mm離れたところから肉眼で見た状態を指します。250mmと決められているのは、人間が最も見やすい距離とされているためです。これを「明視距離」といいます。接眼レンズの倍率は明視距離をレンズの焦点距離で割ったものを意味します。
レンズの手入れ
顕微鏡は使用によって、ほこりや汚れが付くことから使用後には清掃が欠かせません。特にレンズはほこりや指紋、培養液などが付きやすく、適切な手入れが必要です。
レンズの清掃法
清掃に必要なものとして、主に次のような道具があります。
- ブロアー
- レンズ用のクリーニングペーパー
- 綿棒
- 洗浄剤(メーカーの専用品、無水アルコール、エーテルとアルコールの混合液、蒸留水など)
①ブロアーなどでの清掃
まずブロアーやエアダスターを用いて、レンズの表面に付いたごみやほこりを除去します。(エアダスターは風量が強いため、レンズによっては使用を避けた方がよい場合があります。取扱説明書に従って使用を検討してください。)
②汚れの拭き取り
洗浄液はメーカー専用のものをはじめ、無水アルコール、エーテルとアルコールの混合液、蒸留水などを用います。メガネクリーナーは曇り止めが含まれているため、使用はできません。
引火性のある洗浄液やエーテルなどを清掃に用いる場合、発火に注意して、あらかじめ周辺の電気装置の電源をオフにしておきます。また、室内の換気にも配慮します。
ガーゼや不織布、クリーニングペーパーなどほこりが付着しない素材に、洗浄液などを微量つけて、レンズの中心から外に向けて渦巻き状にていねいに拭き取ります。小さなレンズでは、綿棒の先にレンズペーパーを巻いて力を入れずに拭き取ります。
コンデンサーレンズについても、清掃方法は上記と同様に行うことができます。
対物レンズに油浸オイル(イマージョンオイル)を使用した場合、そのままにしておくとレンズ表面の劣化につながるため、必ずきれいにしておきましょう。オイルはクリーニングペーパーで吸い取り、その後、洗浄液をつけたクリーニングペーパーでていねいに拭いておきます。