結晶性樹脂と非晶性樹脂
熱可塑性樹脂(プラスチック)は、結晶構造を持つか否かによって「結晶性樹脂」と「非晶性樹脂」の2つに分類されます。この違いによって、樹脂の性質・特性が異なるため、熱可塑性樹脂を理解するうえで重要なポイントとなります。
結晶性樹脂と非晶性樹脂の違い
樹脂(プラスチック)は、長いひも状の高分子が絡み合って構成されています。加熱され溶融状態となった樹脂は、分子運動している状態です。溶融状態から一定の温度に低下し固化するとき、結晶性樹脂と非晶性樹脂では、分子の停止状態に違いがあります。
結晶性樹脂
溶融樹脂の温度が、低下するごとに分子運動がゆっくりと収まってきます。樹脂の温度が「結晶化温度(Tc)」まで低下し、固化したとき、分子が規則的に並んだ「結晶部分」を持つものが結晶性樹脂です。
結晶部分の構造は「折りたたみ構造」と呼ばれます。
- 主な結晶性樹脂
- PE(ポリエチレン)・PP(ポリプロピレン)・PA(ポリアミド)・POM(ポリアセタール、ポリオキシメチレン)・PET(ポリエチレンテレフタレート)・PBT(ポリブチレンテレフタレート)・PPS(ポリフェニレンサルファイド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・LCP(液晶ポリマー)・PTFE(ポリテトラフルオロエチレン ※商品名:テフロン(R))など
非晶性樹脂
溶融樹脂の温度がある温度まで低下すると、分子運動が停止します。そのとき分子どうしが手をつながず(結晶部分を持たず)、不規則に絡み合ったまま固化するのが「非晶性樹脂」です。
固化した非晶性樹脂の分子の状態は、「ランダム構造」と呼ばれます。
- 主な非結晶性樹脂
- PVC(ポリ塩化ビニル)・PS(ポリスチレン)・PMMA(ポリメチルメタクリレート)・ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)・PC(ポリカーボネート)・m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)・PES/PESU(ポリエーテルスルホン)・PEI(ポリエーテルイミド)・PAI(ポリアミドイミド)など
結晶性樹脂と非晶性樹脂の主な性質・特徴
結晶性樹脂(プラスチック)と非晶性樹脂(プラスチック)は、構造の違いに伴い、性質や特徴が異なります。その一般的な例を下記に示します。
性質・特徴 | 結晶性樹脂 | 非晶性樹脂 |
---|---|---|
透明性 | 低 | 高 |
耐薬品性 | 強 | 弱 |
塗装・接着性 | 低 | 高 |
温度特性 | ガラス移転点(Tg)、融点(Tm)がある | ガラス転移点のみ |
寸法精度 | × (成形収縮率:大) |
〇 (成形収縮率:小) |
上記は一般的な比較です。性質や特徴は樹脂(プラスチック)の種類・改良・添加剤などにより異なります。
透明性
メタクリル樹脂(PMMA:ポリメチルメタクリレート)など非晶性樹脂の多くは、透明性・透過性が良好です。
一方、結晶性樹脂は、結晶部分と非晶部分でそれぞれ屈折率が異なるため、光が内部で乱反射し、透明性が低下します。
結晶化度と透明性
結晶性樹脂における結晶部分の比率を「結晶化度」といいます。結晶性樹脂が結晶化しはじめる温度(結晶化温度:Tc)付近で急速冷却すると、結晶化する時間が不足し結晶化度が低下します。結晶部分を減らすことで、結晶性樹脂であっても透明性を得ることができます。
ペットボトルは、結晶性樹脂であるPETを用いながらも透明性を持つのは、この性質を利用しているためです。また、成形時の温度が高すぎる場合、ドローダウンが生じるため、ブロー成形での良品製造には温度管理が重要となります。
耐薬品性
結晶部分には薬品が入り込みにくいため、結晶性樹脂の多くは非晶性樹脂に比べ耐薬性が強い傾向があります※。そのため、薬品・洗剤などの容器には、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの結晶性樹脂が多く用いられます。
樹脂の種類によって異なります。
塗装・接着性
結晶性樹脂の多くは、結晶部分に薬品が入り込みにくい一方、塗装性や接着性が低下します。樹脂の種類によっては、前処理としてプライマー塗布やコロナ放電などを要する場合があります。また、結晶性樹脂は、接着性の低さを活かし、接着剤の容器や剥離フィルムなどに用いられます。
温度特性
樹脂は温度変化に伴い性質が変化します。その特性を温度特性といいます。
樹脂は高温になると、分子運動しやすくなり軟質(ゴム状態)になります。一方、温度が低下すると硬質(ガラス状態)になります。この2つの状態の境目の温度を「ガラス転移点(Tg)」といいます。
また、ゴム状態からさらに高温になると、結晶性樹脂の結晶部分が流動しはじめ液状になる温度を「融点(Tm)」といいます。結晶部分を持たない非晶性樹脂には融点(Tm)がなく、ガラス転移点(Tg)のみを持ちます。
これらの温度特性は、耐熱性や成形温度に関係し、樹脂の種類によって異なり、添加剤によって変化します。
寸法精度
一般的に、結晶性樹脂の結晶部分は溶融状態では体積が増え、固化すると収縮して体積が減少します。
寸法精度は、樹脂を冷却・固化させたときの収縮の大きさ(成形収縮率)と関係します。樹脂の収縮率が大きいほど、寸法精度が低くなります。それにより、ショートショットやヒケ、ボイドなどの欠陥・不良が発生するため、金型の設計には配慮が必要となります。