ニーズの拡大

BSE問題をきっかけに"トレーサビリティ"という言葉が一般化

日本の製造業は、戦前から製番管理・追番管理(号機管理)を生産管理に取り入れ、トレーサビリティを実践してきた歴史があります。しかし、すべての業界にトレーサビリティの概念が浸透していたわけではありません。中には「トレーサビリティは製造業を中心とした生産管理手法の一部」というイメージもあり、業界によっては導入が進んでいなかったことも事実です。

そんなトレーサビリティですが、とある出来事をきっかけに国内はもちろん、世界的に注目を集めることになりました。それが2000年代初頭に起きたBSE(狂牛病)問題です。こちらでは、BSE問題を発端にトレーサビリティシステムの導入が進んだ食品業界を中心に、BSE問題から現在までの歴史、そしてトレーサビリティの未来に迫ります。

BSE(狂牛病)問題で注目を集める

製造業では一般的だったトレーサビリティですが、消費者レベルまで認知度が拡大したきっかけがBSE(狂牛病)問題です。発症した牛の脳や脊髄など特定危険部位が混入した食品を摂取すると、人にもこの病気が感染するということで畜産業や食肉産業、外食産業はもちろん一般消費者まで巻き込んだ一大社会現象となりました。

2003年はトレーサビリティ元年

2003年はトレーサビリティ元年

BSE問題を受け、農林水産省は2003年に牛トレーサビリティ法を導入。国内で生まれたすべての牛を個体識別し、牛肉についても業者に仕入れや販売の記録を義務づけました。さらに牛肉以外でも食の安全を確保するため、米トレーサビリティ法をはじめとした「食品トレーサビリティ法」を本格的にスタートしました。

また、同年に厚生労働省が施行した改正薬事法により、血液製剤やワクチンなどの生物由来製品を取り扱う事業者・医療関係者にトレーサビリティ管理を義務づけるなど、その取り組みは一気に拡大していきます。いわば2003年は日本のトレーサビリティ元年と言えるでしょう。これを機に食品業界などでもトレーサビリティが急速に広まっていくことになります。

製造業に比べて、トレーサビリティが難しい食品業界

品質管理や安全管理といった観点から製品・部品の個別・ロット管理が戦前から行われてきた製造業と比較すると、食品業界におけるトレーサビリティへの取り組みはやや遅れ気味でした。理由はいくつかありますが、多くの部品を集約してひとつの製品になる工業製品に対し、食品は流通過程で製品として細分化するため、追跡にコストがかかりすぎることも一つの要因でしょう。

食品業界の流通過程

食品業界の流通過程

製造業界の流通過程

製造業界の流通過程

食品の個別管理を容易にするRFタグの活用

BSE問題に加え、産地偽装や残留農薬問題、産地表示や食品アレルギーへの対応など、さまざまな課題が浮き彫りになった食品業界では、食の安全性を訴える動きも活発化。そこで注目されたのがトレーサビリティの確保です。

しかし、前述のように食品業界は流通過程が複雑で、情報管理のコストや手間がかかるという問題がありました。また、従来のバーコードでは格納できる情報量に限りがあり、産地や生産者、流通経路、賞味期限、個体番号などの情報を記録することは困難です。

そこでバーコードに代わる伝達媒体としてRFタグ(電子タグやICタグ、無線タグ、RFIDタグとも呼ばれるが、JIS(日本産業規格)で定めているRFタグで統一)を使用し、電波を使って通信を行うRFID(Radio Frequency IDentification)の活用に注目が集まりました。

食品の個別管理を容易にするRFタグの活用

RFタグのメリットは、大容量のデータを格納でき、電波を用いて非接触でデータの読み書きができることです。一方でコストやシステムなどの課題もあり、導入のハードルは消して低くはありません。それらの課題を解決するために経済産業省は2004年から2006年までの2年間、業界標準の電子タグ開発を実施することで負担軽減と普及に努めました。

また、農林水産省が制定した牛トレーサビリティ法では、牛の個体識別のためにRFIDの活用を推進しています。そのほか、野菜や魚介類、鶏卵などの品目にもRFIDの活用が進められ、官民共同でトレーサビリティの普及に取り組んでいます。これは食品に限ったことではなく、自動車業界をはじめ、出版業界やアパレル業界、化粧品業界など、さまざまな業界での利用がはじまっています。

食品の個別管理を容易にするRFタグの活用

トレーサビリティの範囲が拡大

食の安全性が叫ばれるようになり、産地表示や原材料表示、アレルギー表示は当たり前になりました。食品業界に限らず、自動車であればチャイルドシートやタイヤなどの後付けリコール制度であったり、そのほかの生活必需品でも改正消費者用製品安全法の施行であったり、製品品質や安全品質に対する制度は年々きびしさを増しています。

さらに家電や自動車などの特定品目では、製造業者または輸入業者が廃棄品を回収し、再利用することを義務化したリサイクル法を制定。これにより生産メーカーは廃棄まで追跡する責任を負うことになりました。そのため消費者、さらには廃棄まで含めたトレーサビリティの確保が求められています。

リサイクルの流れ -有用金属として再生されるまで-

適用範囲は世界へ広がる、グローバル対応について

資源に乏しい日本では、原材料の多くを海外からの輸入に頼っています。また、東南アジアやヨーロッパ、北米、南米などに生産拠点を置いて現地で部品・製品の生産を行っている、または海外企業から部品を調達しているケースも多いでしょう。そして最終製品を海外市場へ輸出――。そのようなグローバルなサプライチェーンの"見える化"という意味でもトレーサビリティシステムが欠かせないものになっています。

原材料から生産、小売り、消費者、そして廃棄というサプライチェーンに加え、グローバル化への対応と、トレーサビリティシステムの範囲が今後も拡大していくことが予想されます。

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