自動車業界
自動車業界で押さえておくべき、トレーサビリティ関連の法規制
自動車・二輪の完成車メーカーはもちろん、エンジンやミッションの組立メーカー、ピストンやクランクシャフトなどの部品を製造するサプライヤー、ナビゲーションシステムやタイヤなどの周辺機器を製造するサプライヤーなど、自動車業界の事業者向けにトレーサビリティ関連の法規制をご紹介します。
サプライヤーに対する品質管理基準 ISO/TS 16949
自動車や二輪車を製造・販売するメーカーでは、下請け企業(=サプライヤー)から多くの部品供給を受けています。当然、メーカーはこうしたサプライヤーの品質管理体制についても監督する責任がありますが、供給企業が何十社にも及ぶ場合は統一的な評価基準を策定しなければいけません。
ISO/TS 16949はこうしたニーズに応える国際規格で、自動車または二輪車の完成車メーカーが品質・納期などの要求を満たすために、サプライヤーに対して要求する品質管理基準です。ヨーロッパやアメリカを基準にしたグローバル規格の技術仕様書で、ISO9001がベースとなっています。
電気・電子分野の機能安全規格 ISO26262
現在の自動車はECU(Electronic Control Unit)をはじめ、各種センサやアクチュエータ(モータ)など、数多くの電気・電子機器が搭載されています。ISO 26262は、産業機器や製品全般に適応するIEC 61508から派生した、自動車向けの機能安全に関する国際規格です。
ISO26262の特徴は、自動車開発における要件定義から開発、生産、保守、運用、廃棄まで、ライフサイクル全体が対象になっていることです。そのためサプライチェーン全体での機能安全マネジメントが必要になり、トレーサビリティとも密接に関係しています。今後、ハイブリッドカーや電気自動車などが一般的になれば、さらに搭載される電気・電子機器が増えていくことが予想されます。その際に自動車メーカーは部品の調達先や製造依頼先を探しますが、その選定基準の一つとしてISO26262の取得が目安になっていくでしょう。
リコールを義務化 国家交通・自動車安全法/TREAD法(アメリカ)
国家交通・自動車安全法(TITLE 49 USC CHAPTER 301 MOTOR VEHICLE SAFETY)とは、アメリカで1966年9月に制定されたリコール制度です。アメリカのリコール制度では、自動車や装置に安全上の欠陥があると判断または新車時に安全基準を満たしていない場合に行政当局および、ユーザーに対して欠陥または不適合の内容を通知しなければいけません。さらに該当車種の回収・無償での改善を課しています。
日本のリコール制度は道路運送車両法に基づいて、完成車メーカーが販売店などに寄せられた苦情や事故情報をもとに原因を究明し、自らの判断で国土交通省に届け出ますが、部品や構造に問題があればリコール、構造自体に問題はないものの安全確保が難しい場合は改善対策、商品性や品質を確保するためにメーカーが自主的に無償修理するサービスキャンペーンというように3段階の対策が取られるのが通例です。
- メーカーには監査の実施等により指導・監督を行っている。
- 必要な場合には、(独)交通安全環境研究所リコール技術検証部において技術的検証を行う。
- 虚偽報告、リコールの届出義務違反、リコール命令に従わない場合には、罰則(懲役1年以下、罰金300万円以下、法人罰金2億円以下)が科せられる。
世界のリコール関連制度
同様にEUでは製品の一般的安全性に関する指令(※)(2001/95/EC GRSD:General Product Safety Directive)、ドイツでは製品安全法実施規則(※)(Gerate und Produktsicherheitsgesetz)、イギリスでは自動車の安全不具合に関わる手続きの規約(Code of Practice on Vehicle Safety Defects)、オーストラリアでは商取引法(※)(Trade Practice Act)などのリコール等に関する制度があります。
※自動車に限らず製品全般が対象
アメリカ | 国家交通・自動車安全法 |
---|---|
日本 | 道路運送車両法 |
EU | 一般的安全性に関する指令 |
ドイツ | 製品安全法実施規則 |
イギリス | 自動車の安全不具合に関わる手続きの規約 |
オーストラリア | 商取引 |
安全基準を引き上げたリコール制度 TREAD法(アメリカ)
アメリカの国家交通・自動車安全法では、安全基準を満たさない場合は原因不明でもすべてリコールとして処理されます。また、日本の旧運輸省に当たる米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)は独自判断でメーカーにリコールするよう命じるケースも。それほどまでに完成車メーカーや部品メーカーに対してきびしい処置をしているアメリカですが、2000年頃に多発したBridgestone/Firestone社製のタイヤを装着したFord Motor社のExplorerのタイヤ剥離問題を受けてさらにリコール制度を強化しました。
それが2000年に施行された「交通運輸のリコール強化・説明義務・書類提出法」、通称TREAD法(Transportation Recall Enhancement, Accountability, and Documentation Act)です。アメリカで施行されたTREAD法は、安全に関わる情報の報告の徹底化、詳細化が義務づけられたことで、トレーサビリティの重要性が一気にクローズアップされました。
廃棄後の再利用法案 自動車リサイクル法(日本)
自動車は金属部品が多く、リサイクル率の高い製品です。一般的には総重量の80%がリサイクルされ、残り20%程度のシュレッダーダスト(解体後に残ったプラスチックやガラス、ゴムなどの廃棄物)が埋立処分されています。しかし、埋立処分地の減少や処分費用の高騰、不法投棄、カーエアコンの冷媒として使われているフロンガスによるオゾン層破壊や地球温暖化問題、爆発の危険があるエアバックの処理など、さまざまな問題があり、それらを解決するために2005年1月、日本では自動車リサイクル法がスタートしました。
日本の自動車リサイクル法では、自動車メーカー・輸入業者に対して、販売した自動車から発生するシュレッダーダストやエアバッグ、フロンガスなどの引き取り、リサイクルなどを義務化。また、解体業者や破砕業者などには適切な廃車処理に加え、自動車メーカー・輸入業者へのシュレッダーダストやフロンガスの引き渡しを指示しています。