全業界向け基本ルール
業界を問わず知っておくべき、トレーサビリティの法規制
自動車や電子デバイス、食品、医薬品などの業界を問わず、トレーサビリティや品質管理に関連のある基本的なルールや法規制についてご紹介します。ISO9000/9001や計量法などは、品質管理や生産管理でもなじみ深い規格や法規制ですが、トレーサビリティにおいても重要な役割を担っています。
トレーサビリティという用語の定義 ISO9000(JIS Q 9000)
トレーサビリティは、国際標準化機構(ISO)が定めるISO 9000および日本産業規格(JIS)が定めるJIS Q 9000の「品質マネジメントシステム―基本及び用語―」にて、以下のように定義されています。
- トレーサビリティ(Traceability)
- 考慮の対象となっているものの履歴、適用または所在を追跡できること
この定義で重要なことは
- 考慮の対象(=原材料や部品、製品)の識別単位(個別やロット)が明確になっていること
- 考慮の対象を識別し、情報を記録し、トレースフォワード(追跡)またはトレースバック(遡及)ができることの2点です。
トレーサビリティの定義 ISO9001
国際標準化機構(ISO)の品質マネジメントシステムの総称をISO9000シリーズまたはISO9000ファミリーと呼びますが、その中でも重要な規格がISO9001です。品質マネジメントシステム(Quality Management System:略称QMS)とは、「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」と定義されています。またISO9001は、日本国内で円滑に使用するため、技術的内容や規格表の様式を変更せず、日本語に翻訳されJIS Q 9001として発行されています。
ISO9001では、業務改善に関する多くの成功事例からエッセンスを抽出して国際規格化。製造工程や製品だけが対象ではなく、仕入れから製造、出荷、サービス提供まで一気通貫のルールに基づいて業務を推進することで、利益を最大化することが目的です。仕事の要領が悪い、ミスが多いなど通常業務の改善に最適な手本と言えるでしょう。また、ISO9001の認証を得ることで社会的な信用、取引先の信用も高まります。
トレーサビリティの2つの概念について
ISO 9001では、トレーサビリティについて、「測定のトレーサビリティ」と「識別およびトレーサビリティ」という2つの項目で規定しています。今回はサプライチェーン全体におけるトレーサビリティを題材にしているので、「識別およびトレーサビリティ」について説明していきます。
「測定のトレーサビリティ」についてはこちらをご覧ください。
識別およびトレーサビリティの概要
ISO9001では、「識別およびトレーサビリティ」について、以下のように記載しています。
- 製品およびサービスの適合を確実にするために必要な場合、組織はアウトプットを識別するために適切な手段を用いなければならない。
- 組織は製造およびサービス提供の全過程において、監視および測定の要求事項に関連してアウトプットの状態を識別しなければならない。
- トレーサビリティが要求事項となっている場合には、組織はアウトプットについて一意の識別を管理し、トレーサビリティを可能とするために必要な文書化した情報を保持しなければならない。
条文をまとめると、
と解釈できます。
この中でも重要な概念が“識別”です。識別とは、生産工程やサプライチェーン全体で共通認識を持つことです。例えば、テレビの製造に使う1枚のチップがあったとしましょう。そのチップは部品単体でも製品に組み込まれた状態でも同じものと判別し、さらにそのチップは検査をパスしたのか、検査中なのか、現在はどの工程にあるのかといった現状について、誰が見てもわかるようにしておくことが識別の基本です。
そのためにトレーサビリティシステムでは、シリアル番号やロット番号のような表現様式、またラベルやRFタグのような伝達媒体を用いて区別します。
消費者まで含めてサプライチェーンに関わる全員が製品のステータスを認識し、モノと情報が紐づけばトレースフォワード・トレースバックも用意に行うことが可能です。その結果として、品質や安全性の確保ができるというわけです。
電子制御などに関する基本安全規格 IEC 61508
FA(ファクトリーオートメーション)には欠かせないPLC(Programmable Logic Controller)による産業用ロボットの制御をはじめ、製造現場では多数の電子制御システムが取り入れられています。そのような電子・電気的なシステムに対する、機能安全規格がIEC61508となります。IEC61508は、国際電気標準会議(IEC)が制定した、産業における電気・電子・プログラマブル電子に関する機能安全規格の総称です。
その基本的な考え方は、危険のある事象から人命・健康・環境(地域)などを守る機能装置を追加して、安全を確保し、事故や災害を防止することです。IEC61508はすべての機能安全規格のベースになっており、自動車向けの電子・電子システムに関する機能安全規格であるISO26262もIEC61508から派生した規格となります。
測定情報の正確性を証明 計量法
トレーサビリティシステムでは、検査データなども情報として記録するケースがあり、製品を製造する過程ではさまざまな測定器を使用します。この測定器の精度は品質を左右する要因ですが、その正確性を担保するのが標準器と呼ばれるもの。当然、標準器は現場で用いられる測定器よりも正確であることが求められますが、この標準器にもグレードがあり、行き着くところは国が定める標準器ということになります。
ISO9000が要求する測定機器の「校正または検証」項目をクリアするには、測定器を校正する標準器がJCSS(計量法校正事業者登録制度)により国家標準にトレーサブルであることが証明されることが前提条件になっています。また、道路運送車両法では、自動車検査用機械器具の校正は、国土交通大臣の定める技術上の基準に従い実施することになっており、この意味でも標準器のトレーサブル証明が重要になってきます。