メンテナンス

除電器(イオナイザ)の基本性能である「除電速度」と「イオンバランス」は、使用している時間が経過するにつれて、徐々に低下してしまいます。ここでは、基本性能の低下を防止するためのメンテナンスについて説明します。

メンテナンスの重要性

基本性能が低下する要因となるのが、継続的な使用による「電極針の劣化」です。電極針の劣化として、大きく下記の2つが挙げられます。

  1. 電極針の摩耗
  2. 電極針の汚れ

上記のいずれか、あるいは両方が発生するとイオンの発生に影響が生じます。結果として「除電速度の低下」と「イオンバランスの悪化」を招きます。

  • 電極針先端の汚れ

    電極針先端の摩耗

  • イオンの発生量が減少

    +イオンと-イオンの減少量が異なります。

  •  
  • 除電速度が遅くなる

    +

    イオンバランスが悪化

除電器(イオナイザ)の性能維持の妨げとなる、電極針の「摩耗」「汚れ」それぞれのメカニズムやメンテナンスについて、以下で解説します。

電極針の摩耗とメンテナンス

摩耗のメカニズム

除電器(イオナイザ)がプラスイオンとマイナスイオンを生成するとき、イオン生成の元となる「電子」を電極針の先端で、プラスイオンの場合は「吸収」、マイナスイオンの場合は「放出」します。
この吸収・放出の際、物理的な衝突エネルギーによって、電極針の先端は使用とともに徐々に摩耗し丸くなっていきます。

電極針の摩耗の様子
+の電極針
+の電極針
-の電極針
-の電極針

1年間24時間連続で通電し続けた電極針の拡大写真です。
このように除電器の電極針はいずれ摩耗します。
また、±の電圧の印加極性で摩耗量が変わります。

なお、プラスの電圧をかけ続けた電極針の先端と、マイナスの電圧をかけ続けたものを比較すると、前者のほうが先端がより摩耗して丸くなります。これは、プラスの電圧で「電子を吸収」する際の衝突エネルギーが、マイナスの電圧の「電子を放出」する際のそれよりも大きいことが要因と考えられています。

電極針摩耗のしくみ
<+の電極針>
取り込まれた電子はアースに向かって流れる
+の電極針
分子自体が帯電し針先に引き寄せられ衝突
<-の電極針>
アースから供給された電子が電極針先端から飛び出す
-の電極針
針先から飛び出した電子が分子にぶつかり-に帯電
A:イオン化

このように極性によって摩耗の早さが異なるため、パルスDC方式やSSDC方式のような、電極針によって極性がプラスかマイナスに固定されている方式では、マイナスに比べてプラスの電極針の摩耗がより早くなります。そのため、使用し続けているとイオンバランスがマイナス側に片寄ってしまう傾向があります。

摩耗に対するメンテナンス

電極針の先端が摩耗してしまった場合は、電極針を交換する必要があります。電極針の材質による交換の目安は表のとおりです。

材質 寿命 特長
タングステン 約2年 最も一般的に使用されている材質で長寿命
シリコン 約2年 金属汚染を嫌う環境で使用されている材質
SUS 約1年 安価ではあるが他の材質と比べると短寿命

また、電極針の交換に関しては、「交換しやすいもの」「交換しにくいもの」、また「交換ができないもの」の大きく3つのタイプがあります。
メンテナンス工数やランニングコストに影響するため、除電器(イオナイザ)を選択する際は、仕様を確認することが重要です。

電極針の交換方法
交換不可
交換不可
工具による交換
工具による交換
針キャップ交換
針キャップ交換

電極針の汚れとメンテナンス

汚れのメカニズム

除電時、電極針には高い電圧がかかり、先端周辺に電気的な力が働きます。この力によって空気中に浮かぶ微小な粒子(パーティクル)といったゴミ、あるいは有機物(SiO₂:二酸化ケイ素など)といったガスが、電極針の先端に吸い寄せられて析出することで、電極針の「汚れ」となります。

電極針の汚れによる影響

汚れによる影響

除電器(イオナイザ)は、電極針周辺の空気を電気的に分解することでイオンを発生させます。つまり、汚れによって電極針先端と空気が接触する面積が減少するため、イオンの発生量が減少し、除電速度が低下します。

イオン量の経時変化データ(代表例)
イオン量の経時変化データ(代表例)

グラフの曲線が示すように、プラスイオンとマイナスイオンで減少速度に差が生じています。これは、イオンバランスも悪化していることを意味します。

電極針の汚れの様子
A
+の電極針
+の電極針
B
-の電極針
-の電極針

1週間、24時間連続で通電し続けた電極針の写真です。
Aの電極針はプラスの電圧、Bはマイナスの電圧をかけ続けた状態です。このように電極針の極性によって、汚れる速度だけでなく、汚れ方も異なります。

電子を吸収するプラスの電圧に比べ、電子を放出するマイナスの電圧をかけ続けた電極針のほうが、汚れが多く付着します。

電極針へのSiO₂付着の様子
一般オフィス環境:24時間稼動で約1ヶ月使用
電極針へのSiO₂付着の様子

空気中のゴミがどれくらい電極針に析出し、汚れになるかは、環境次第です。もちろん、きれいな環境であるほど、汚れにくくなります。しかし、空気中のガスといった有機物(SiO₂二酸化ケイ素など)の析出は、きれいな環境であっても、完全に避けることができない現象です。

汚れに対するメンテナンス

除電器(イオナイザ)の基本性能を最大限に発揮させるためには、汚れに対する定期的なメンテナンスが欠かせません。

メンテナンス方法
図のようにアルコールを浸した綿棒などで定期的に汚れを拭き取ります。
メンテナンス頻度
使用状況などにもよりますが、一般的に、2週間程度ごとが目安といわれています。
汚れに対するメンテナンス
アルコールを浸した綿棒

汚れを低減する電極針

電極針の汚れに対するメンテナンスは大変重要ですが、FA(ファクトリオートメーション)の現場においては複数箇所に除電器(イオナイザ)を設置・運用することが一般的です。
例えば、1 mほどのバータイプ除電器(イオナイザ)1体あたり、およそ20個の電極針を搭載しています。工場内のすべての除電器(イオナイザ)のメンテナンスを考慮すると、メンテナンス工数は大きな課題となります。

メンテナンス工数を削減する方法としては、「汚れを低減する電極針」を採用した除電器(イオナイザ)の導入が最も有効といえます。

図で示したような防護構造を持った電極針であれば、汚れを低減することができます。
除電器(イオナイザ)にエアを供給したとき、そのエアが電極針の周囲から噴出するような構造を持つことで、汚れの原因となる空気中のゴミやガスを電極針の先端に接近させません。
電極針が汚れにくい構造を持った除電器(イオナイザ)を導入することで、FAの課題であるメンテナンス工数を削減することができます。

例:「シースエア」による電極針の防護(キーエンス特許)
例:「シースエア」による電極針の防護(キーエンス特許)

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