除電器(イオナイザ)の方式による性能
除電器(イオナイザ)の選定基準として、対応する設置距離や範囲、速度が挙げられます。除電の距離・範囲、速度、イオンバランスといった除電性能に大きく関係するのが、電極針への電圧のかけ方で、「電圧印加方式」と呼ばれます。
ここでは、それぞれの電圧印加方式の種類と特徴・性能について説明します。
電圧印加方式の種類と除電性能
DC(直流)方式
プラス、あるいは、マイナスの直流電圧を電極針に印加し続ける方式です。そのため、イオンの極性はプラスかマイナスのいずれかに限られてしまいます。
基本性能
- 300mm以上
- イオン発生領域が広いため、速くなります。
- イオンの極性が限定されてしまうため、イオンバランスが悪くなります。
AC(交流)方式
「AC方式」は、コンセントから供給されるAC(交流)の電圧をそのまま昇圧して電極針にかける方式です。1本の電極針からプラスイオン、マイナスイオンをコンセントの電源電圧のまま、50/60 Hzの周期で交互に切りかえます。 そのため、イオンバランスは良くなります。
基本性能
- 50〜300mm
- イオン発生量が少ないため、除電速度は遅い傾向にあります。
- プラス/マイナスのイオンを電極針から交互に放出するため、イオンバランスは良いです。しかし、設置距離(対象物との距離)が遠いほど、プラスとマイナスのイオンが互いに磁石のように引きつけ合ってイオンを打ち消し合うため、イオンバランスが悪化します。
高周波AC方式
装置構成は「AC方式」と似ていますが、電圧の生みだし方に違いがあります。「AC方式」はコンセントからの電源電圧を昇圧します。しかし、「高周波AC方式」は、圧電体に加えられた力を電圧に変換する「圧電素子」を利用して昇圧します。
基本性能
- 50〜300mm
- 電圧が低いため、「AC方式」と比較して除電速度は遅くなります。
- プラスイオンとマイナスイオンの切り替わりが高速であるため、イオンバランスが良いです。しかし、設置距離(除電対象)が遠いほど、プラスとマイナスのイオンが互いに引きつけ合い、イオンを打ち消し合う現象によってイオンバランスが悪化します。特に、この方式は「AC方式」に比べてイオン発生量が少ないため、遠距離にある対象物の除電に適しません。
パルスDC方式
「AC方式」や「高周波AC方式」とは異なり、電極針によってかける電圧の極性が決められている(固定されている)方式です。例えば、電極針が複数横に並んだバータイプの除電器(イオナイザ)の場合、プラス、マイナスとイオン極性が決められた電極針が交互に配置されます。さらに、プラスとマイナスのイオンの発生も交互に行います。
つまり、プラスイオンを発生させているときはマイナスイオンの発生が止まり、マイナスイオンを発生させているときは、プラスイオンの発生が止まります。
基本性能
- 300mm以上
- 除電速度は「AC方式」より速くなります。DC(直流)電圧をかけているため、「AC方式」よりも電圧をかけている時間(サイクル)が長く、イオンが多く発生するためです。
- プラスイオンとマイナスイオンをそれぞれの電極針から交互に発生させるため、イオンバランスは良いです。ただし、近距離で使用する場合は、注意が必要です。各電極針から発生するイオンは極性が決まっているため、1つの電極針に近くなるほどイオンバランスは悪くなります。特に「パルスDC方式」を採用したバータイプ除電器(イオナイザ)を使用する場合、長手方向のイオンバランス悪化に注意が必要です。
SSDC方式
「パルスDC(直流)方式」と同様にプラスとマイナスに決められた電極針が交互に並んだ構造です。しかし「SSDC方式」では、電圧をかける時間を制御します。また、前者がプラスとマイナスのイオンを交互に出す仕組みに対して、後者はすべての電極針に電圧をかけ続けます。
基本性能
- 300〜1500mm
- 「パルスDC(直流)方式」と比べて除電速度が少し遅いです。
- 常時すべての電極針に電圧をかけているため、発生したプラスイオンとマイナスイオンが引きつけ合ってしまい、イオンバランスは悪くなります。
パルスAC方式
「パルスDC(直流)方式」と同様に、プラスの電圧をかけるときはマイナスを止め、マイナスの電圧をかけるときはプラスを止めます。「パルスDC(直流)方式」では、極性が決められた電極針が交互に配置されているのに対し、「パルスAC方式」では「すべての電極針がプラスイオンとマイナスイオンを交互に発生」させます。
つまり、他の方式における、近距離または遠距離でのイオンバランス悪化、除電速度の低下といった弱点をクリアできる方式といえます。
基本性能
- 50mm以上
- すべての電極針が極性を同時に切り替え、大量のイオンを発生させるため高速に除電できます。
- すべての電極針の極性を同時に切り替えるため、イオンバランスも優れています。
電圧印加方式による基本性能一覧
これまで紹介した各方式と基本性能を比較すると表のようになります。「パルスAC方式」の性能と対応力の高さをみてとることができます。
電圧印加方式 | DC | AC | 高周波AC | パルスDC | SSDC | パルスAC | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
放電の周波数 | 定常連続 | 50/60 Hz | ~70 kHz | パルス 0.1~60 Hz |
定常連続 | パルス 0.1~60 Hz |
|
除電速度 | 近距離 | 〇 | × | × | 〇 | 〇 | 〇 |
長距離 | 〇 | × | × | 〇 | 〇 | 〇 | |
イオンバランス | 近距離 | × | 〇 | 〇 | × | × | 〇 |
長距離 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
キーエンスの除電器(イオナイザ)は、「パルスAC方式」を採用することで、高い基本性能を実現しています。