硬さ試験
硬さには、言葉の定義はあっても、すべての測定物に共通した硬さを求める数式や手順がありません。これは、力を加える物体や大きさ・形状・強さなど、試験の条件が変わると結果も変わってしまうためです。このため、目的や用途に応じた、さまざまな試験法や試験機が考案されてきました。
ここでは、その中から代表的な試験について説明します。
硬さ試験の種類
硬さ試験には、「押し込み試験法」と「動的硬さ試験法」があります。押し込み硬さ試験法は、ダイヤモンドや焼き入れ鋼などの硬い材料(圧子)を規定の形状や寸法の押し込み具で試験片に押し付け、その部分にできた圧痕(永久変形)から硬さを求めます。圧子の押し付け方や圧痕の計測方法によって、試験の種類がわかれています。一方、動的硬さ試験法は、一定の形状と寸法、重量のハンマーなどを試験片に衝突させて、そのときの反発の大きさや角度などから硬さを調べます。これらのうち、代表的な硬さ試験には、以下の種類があります。
種類 | 名称 | 試験方法 |
---|---|---|
押し込み試験法 | ロックウェル硬さ | 圧子を試験片に押し付け、圧痕の「深さ」で硬さを求める |
ビッカース硬さ | ダイヤモンド製の四角錐の頂点を試験片に押し付け、圧痕の「表面積」で硬さを求める | |
ブリネル硬さ | 球形の圧子を試験片に押し付け、圧痕の「表面積」で硬さを求める | |
ヌープ硬さ | ダイヤモンド製の細長い四角錐の頂点を試験片に押し付け、圧痕の「投影面積」で硬さを求める | |
動的試験法 | ショア硬さ | おもりを試験片に落下させ、おもりが跳ね返った「高さ」で硬さを求める |
ロックウェル硬さ試験
ロックウェル硬さ試験は、ダイヤモンドまたはタングステンカーバイドボールでできた直径1mmの円錐形圧子を試験片に押し付け、できた圧痕の「深さ」で硬さを求めます。圧子は2段階に分けて押し付け、まず基準荷重をかけて圧痕を作り、次に試験荷重をかけて圧痕を深くします。そして、基準荷重のときと試験荷重のときの圧痕の深さの差が硬さになります。
主に熱処理した金属部品の硬さ試験に用いられます。硬さは、圧痕深さを計測して硬さの値を求めます。ロックウェル試験機は操作が簡単で、圧痕の大きさもコンマ数ミリと小さいのが特徴です。また、他の硬さ試験に比べて圧子を押し付ける力が強いため(50kgf~150kgf)、鋳造品や鋳物などでできた大型の試験片に対して行われます。熱処理した材料の硬さ試験としては「ジョミニー試験(一端焼き入れ試験)」があります。これは、水で冷やした棒の外周面の硬さを求める試験で、焼きなましや焼きならしといった熱処理による焼き入れ性の計測など、高度な試験も可能です。
適合規格:ASTM E18、ISO 6508、JIS Z 2245
ビッカース硬さ試験/マイクロビッカース硬さ試験
ビッカース試験は、ダイヤモンドでできた角錐形圧子を試験片に押し付け、できた圧痕を顕微鏡で観察し対角線の長さ(表面積)を測定して硬さを求めます。
金属材料を含むさまざまな硬い材料、表面硬化材や被膜、溶接材などの断面の硬さ分布の測定に用いられています。圧痕が最大でもコンマ数ミリ程度と小さいため、正確に計測するには測定面を研磨しておく必要があります。さらにマイクロビッカース試験は圧子を押し付ける力が小さく、ビッカース硬さ試験に比べて断面の硬さの分布をより詳細に測定することができます。
適合規格:ASTM E384、ISO 6507、JIS Z 2244
ブリネル硬さ試験
ブリネル硬さ試験は、タングステンカーバイドボールや超硬合金でできた球形圧子を試験片に押し付け、できた圧痕の円の直径を顕微鏡などの光学装置で観察し、表面積を求め、押し付けた荷重を圧痕の表面積で割って硬さを求めます。
圧痕の大きさが大きいため、鋳造品や鋳物など粗くて不均質な粒子構造を持つ材料の硬さ試験に用いられます。一方で、圧痕の周囲が不明確になる場合があり、測定に誤差が生じる可能性があります。
適合規格:ASTM E10、ISO 6506、JIS Z 2243
ヌープ硬さ試験
ヌープ硬さ試験は、ダイヤモンドでできた細長いひし形の圧子を試験片に押し付け、できた圧痕を顕微鏡で観察し対角線の長さ(投影面積)を測定して硬さを求めます。試験方法はビッカース試験に似ていますが、圧子の形状が異なります。ビッカース試験の圧子が角錐形であるのに対し、ヌープ試験の圧子は一方の対角が長く、ビッカース硬さ試験の圧子の約3倍の長さです。このため、硬さの変化に敏感です。また、圧痕の深さも約1/2なので、表面に近い深さの硬さ試験に向いています。硬さは試験荷重を圧痕の表面積で割って算出します。薄いシート状の材料や小型の試験片、セラミックスなどの脆性材料の硬さ試験に用いられています。
適合規格:ISO 4545、ASTM E384、 JIS:Z 2251
ショア硬さ試験
ロックウェル硬さ試験やビッカース硬さ試験・ブリネル硬さ試験が圧子の押し込みによる硬さ試験であるのに対し、ショア硬さ試験は反発係数を利用した硬さ試験です。ショア硬さ試験は、ダイヤモンドのハンマーを試験片に対して直角に落とし、ハンマーが跳ね返る高さを測定して硬さを求める試験です。跳ね上がる高さが高いほど硬い材料になります。反発力を利用するので、測定物に傷が付かず、仕上がり品や材料をそのまま試験することができます。なお、反発型のデュロメーター試験で求めた硬さをショア硬さということがありますが、混同しないよう注意が必要です。
適合規格:JIS:Z 2246
熱処理と硬さ
鋼は、加熱することで、硬くしたり(焼入れ)靱性を持たせたり(焼もどし)、鋳造や鍛造、圧延といった加工で不安定になった組織を元の状態に戻すこと(焼なまし)ができます。また、軟らかくすることで、加工しやすい性質にすること(焼ならし)もできます。鋼の表面に炭素を拡散浸透させて耐摩耗性を高める「浸炭処理*」、寸法や重量を変えることなく耐摩耗性・耐疲労性・耐腐食性・耐熱性を高める「窒化処理*」なども熱処理による表面硬化法です。「高周波焼き入れ」も金属表面の硬さを高める処理ですが、こちらは電磁誘導作用による高周波誘導加熱(IH)を利用し、秒単位で高温まで急速加熱した後に急速冷却することで、金属部品の表面を硬化させる処理法です。
これらの加工を施した鋼には、それぞれ適した硬さ試験があり、その一覧を以下に示します。
試験方法 | 適用熱処理部品 |
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ブリネル硬さ |
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ロックウェル硬さ |
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ショア硬さ |
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ビッカース硬さ |
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浸炭処理:鋼の表面に炭素を拡散浸透させる処理の総称です。主に耐摩耗性を高める効果があります。通常、浸炭処理の後に焼き入れを行い、これによって、耐摩耗性と靱性を高めることができます。
窒化処理:鋼に窒素を拡散進入し表面を硬くする処理です。アンモニアガスなどによる化学変化を利用し、表面に約0.03mm~0.3mmの硬化層を施すことで、硬度の強化を図ります。金属の表面を化合するため寸法や重量の変化が少なく、焼き入れに比べて加熱温度が低いため変形量を抑えることができます。