トライボロジー試験

軸受に代表される機械部品の摩擦抵抗は、装置にとって大きな負荷です。この損失を低減するには、部品の機械的特性である材料力学はもちろん、潤滑油の流体力学、熱による表面現象を測る熱力学など、多面的観点から包括的に取り組む必要があります。このような取り組みを「トライボロジー現象」といい、その特性を評価する技術を「トライボロジー試験」といいます。

「トライボロジー(tribology)」とは

潤滑や摩擦・摩耗・焼付きなど「相対運動しながら互いに影響し合う2つの表面の間に起こるすべての現象を対象とする科学と技術」のことで、一言でいえば「摩擦を科学する」学問です。この中には機械装置だけではなく、軸受や歯車など機械要素の摩擦や摩耗、潤滑油基油や固体潤滑剤の研究も含まれます。

トライボロジーという言葉は、1966年に英国で潤滑に起因する経済的損失の調査と産業界への必要性を提案した報告書の中で提唱されました。以降、トライボロジーの科学と技術は、機械や部品の摩擦や摩耗を低減することで省エネルギーや省資源に貢献しています。

トライボロジー試験の必要性

機械装置で発生する摩擦による熱の発生と摩耗による材料の損失は、機械的抵抗を引き起こし、機械装置が故障する最大の原因といわれています。この摩擦と摩耗を低減しコントロールすることは、単なるトラブル対策の技術ではなく、機械装置の信頼性や性能向上するためのコア技術といえます。

構造解析については、近年、CAE(Computer Aided Engineering)によるシミュレーションによる強度や熱流体性能の予測精度が向上し、実機に近いレベルまでコンピューターによる設計が可能になりました。しかし、トライボロジーに関する機械装置や機械要素については、依然として設計の根拠を経験や実証データに頼っています。このことは摩擦抵抗や摩耗について、説明できる理論に乏しいことを意味し、そのメカニズムや発生する特性の理解にあたり、摩擦・摩耗試験が果たす役割が大きいといえます。それだけに、トライボロジーの試験には、目的とする摩擦・摩耗の条件に合わせた、さまざまな試験機があります。

トライボロジー試験の特徴

一般に材料の物理的特性や機械的特性は、測定する試験機が異なってもほぼ同じ特性値を示すか、換算式を用いることで他の試験機で得られた値との関係を明確にすることができます。しかし、摩擦・摩耗試験は例外で、同じ材料でも試験片の形状や試験方式・雰囲気条件が変わるとまったく異なった特性値が得られることが多いといわれています。したがって、摩擦・摩耗試験では対象とする実際の現象がどのような条件にあるのかを把握し、それに近い条件で試験を行うことが必要です。

また、流体軸受などに見られる潤滑剤の性能は、潤滑材の物性と界面化学的性質が大きく影響します。潤滑剤には主として石油や油脂を原料(基油)とする潤滑油と、黒鉛や二硫化モリブテンを原料とする固体潤滑剤があります。特に、固体潤滑剤は油やグリースに比べて耐荷重性能が高く、油やグリースへの添加剤としても、利用されています。こうした高性能潤滑剤の開発には、物理学や熱力学、界面化学や流体力学などの知識が必要であり、潤滑性能の追求は総合工学の探求といえます。

潤滑油性能試験機は、これら潤滑剤の温度や摺動の速度による粘度変化から、せん断や酸化・熱に対する安定性などを試験する装置です。これらは、JISはもちろんASTMやDINなどが定める試験法に準拠しており、潤滑剤の潤滑性能を判断する重要なデータを取得することができます。

このようにトライボロジー試験は、摩擦や摩耗の問題を多角的視点から、より現実に近い条件で試験することを目的としています。

トライボロジー試験の測定法

トライボロジー試験による摩耗量の測定は、重量変化から体積を求める方法と、形状変化を測定する方法があります。重量変化から体積を求める方法は、摩耗量を簡単に測定できるというメリットがあります。しかし、一般的な電子天秤測りの精度では、マイクログラム単位で変化する摩耗量の測定は困難で、特に耐摩耗性に優れる材料の微少な摩耗の測定は不可能です。また、潤滑内での試験では、潤滑油が試験体に浸透する場合もあり、摩耗したにもかかわらず重量が増していたという結果にもなりかねません。

一般には、触針式の表面粗さ計で摩耗痕の深さや断面積を計測し、そこから全体のおおよその体積を計算する方法が採られています。また、ボール型の試験片の場合は、摩耗痕径から摩耗量を求めます。近年では、レーザー顕微鏡やSEMなどによる測定も一般化しています。

いずれの測定法も目的に則した測定であることが重要であり、トライボロジーでは大きく3つのカテゴリに分類され、それぞれに目的と意義が定められています。

カテゴリーI
目的:摩擦・摩耗メカニズムの科学的追究。
意義:実機との相関よりも、現象や機能発現の基礎的な解明に主眼を置く。
カテゴリーII
目的:摺動材料や潤滑剤の品質管理やスクリーニング。
意義:特定の実機との相関性を担保しつつ、一定枠内での優劣評価に主眼を置く。
カテゴリーIII
目的:実機での摩擦・摩耗の再現。
意義:実機との一致を前提に、性能確認や信頼性評価に主眼を置く。

ISO/IEC17025(IECQ制度認定基準)

試験所や校正機関が備えていなければならない管理システムと技術能力を定めた規格として、「ISO/IEC17025(IECQ制度認定基準)」があります。

試験所や校正機関の認定制度は、APAC(Asia Pacific Accreditation Cooperation:アジア太平洋認定協力機構)とILAC(International Laboratory Accreditation Cooperation:国際試験所認定協力機構)の間で相互承認協定(MRA)が締結されるなど、世界的に広まっています。これは、ある国の認定試験所・校正機関で行われた試験成績・校正証明が、国際的に認められ通用する状況になってきていることを意味します。同時に、試験所・校正機関に対するCEマーキング制度やQS-9000、産業標準化法や計量法に関連する認定取得を求める要求も高まってきています。

ISO/IEC17025はISO9001などの認証システムと異なり、品質システムだけでなく試験・校正を行う技術的能力を審査します。また、ISO9001などが工場や製品を登録の対象としているのに対し、測定方法や試験方法およびその対象と範囲を登録の対象としています。

用いる測定・試験方法が、国際規格であるか自主開発法であるかを問いません。また、試験所の所属組織や規模も問いません。

ISO/IEC17025では、品質システムやトレーサビリティの確立、試験・校正方法の妥当性などの技術力、職員のスキルなどが問われます。技能審査は、試験所間の比較試験や公的な研究所との持ち回り試験などが行われます。そして、これらの結果がISO/IEC17025に規定された要求に適合するかどうかが審査されます。

ISO/IEC17025の取得は、試験所・校正機関の技術力と信頼性の向上、独立性の維持に大きく寄与します。また、認定試験所で作成された試験結果は、海外市場における輸出品の受け入れをさらに容易にし、One stop testingによる経営資源の効率化を実現します。加速するものづくりのグローバル化の中、ISO/IEC17025は、そのビジネスを支える試験所や校正機関にとって、注目すべき制度といえます。

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