ものづくりの現場において低コスト・高品質を実現するため自動化は避けては通れないトレンドとなっています。単純作業から高度な技術を要する組付けや検査工程も技術の進歩によって次々と自動化され、生産効率は以前に比べ格段に上がってきました。自動化の始まりと、画像処理の役割について今回はご紹介します。
人手を煩わせることなく、必要な価値やサービスを提供する――。自動化(オートメーション・システム)への挑戦の歴史は、紀元前にまで遡ります。古代エジプトでは、聖水の自動販売機があったと言われています。ただ、当時はまだ珍品として注目を集めたに過ぎず、決して実用性が高いものではありませんでした。
人類が自動化へと大きく動き出す転機は、大量生産、大量消費時代の幕開けを告げた産業革命です。
膨大な量の手仕事を機械・機器に置き換え、作業ミスの少ない効率化や省力化を図るために、積極的に導入が始まります。
また、過酷な労働環境や単純作業の繰り返しから人々を解放し、安全や快適性を高める手段としても、さまざまな分野で活用されていきます。
ものづくりの分野における自動化の代表例は、FA(ファクトリー・オートメーション)システムです。
生産工程の自動化システムは、人間から機械への単なる「労働(作業)の肩代わり」にとどまらず、生産性の向上やコストの削減、品質向上のための管理システムとしてより大きな役割を発揮し、世の中に欠かせない存在となっています。
センサーに工作機械、産業用ロボットなど、FA機器の効用はいまや、高難度の「人間の力を超える」領域にまで及んでいますが、その一つが画像処理技術です。画像処理とは、ある目的をもって画像に含まれる情報を操作、解析することです。
人間は情報の大半を眼や耳から得ていますが、特に眼から入手する画像情報は、わかりやすく伝わる情報量が圧倒的に多いのが特徴です。
ただ、人類の情報伝達の手段は長く、言葉以外の画像情報では絵(静止画)や文字などアナログ時代が続きました。
壁画と手紙などアナログ画像の時代を経て、電子機器の進展によるデジタル画像時代を迎えるのは20世紀に入ってからのことです。
言葉よりも、より正確で幅広い情報を伝える画像――。コンピューターでデジタル画像を効率的に処理し、活用するFAシステムの画像技術が日本の産業界で実用化され始めたのは1960年代です。
人工衛星の画像など科学研究分野から始まり、70年代にはX線や超音波による検査画像が医療分野に応用され、工業生産・物流などの産業分野においても、半導体の組み立てなど生産工程における自動化、効率化、省力化に積極的に活用され、品質管理の向上に大きな貢献を果たしていきます。
また、80年代以降は図面や文書画像の認識処理技術が、飛躍的に向上を遂げていきます。
それまでは大型コンピューターが必要でしたが、汎用画像処理装置やパソコン上で処理する安価な画像処理プログラムが普及し、身近になった画像処理技術の実用化は一気に加速していきます。
当初はモノクロだった画像もカラーで高精細な画像が当たり前となり、さらに小型化、高速化、低価格化によって活用度が高まっています。
一般的に、1 秒間の動画像は静止画像の30枚。
つまり単純計算で30 倍程度に情報量が増え、さらにカラー動画像はその3 倍、つまりモノクロ静止画の90倍になります。
また、画像は縦、横に分割した小さな画素の集合体で構成され、より細かく分割して画素数を増やせばより高精細で正確な画像になりますが、それだけ情報量も増大します。
画像の高度化が進むほど情報量が大きくなり、処理が遅くなるジレンマがありましたが近年、画像処理のスピード化が進んでいます。
膨大な情報量をスピード処理できるようになったのは、なぜでしょうか。
答えは、高速で高精細な画像素子(画像を電気情報に変換)が登場したこと、大情報量を高速で処理する超高集積回路が開発されたことです。
さらに、ブラウン管モニタから薄くて軽い液晶パネルや有機ELへと高精細なディスプレイが実用化されたこと、パソコン性能の飛躍的な向上なども、追い風となりました。
これまで手にしたことのない強力な情報処理能力を持ち、多様で高度な画像を手軽に入手できる――。
半世紀前には当時のスーパーコンピューターでも難しかった画像処理を技術と環境が整った現代は、まさに「いつでも、どこでも、だれでも」画像によって情報を伝達し、共有し合える「画像時代」と言えるでしょう。
印刷された賞味期限の自動読取りや、製品形状(外観や傷、表面形状)、ロボットとの連動による仕訳や組立て、農水産物・食品の加工や等級分類などのリモートセンシング…。
多岐にわたる産業分野への応用と実用化が進むFAシステムの画像処理は、多種多様な用途とニーズに応じた最適化が進められながら、着実に進化を続けています。
FAシステムの画像処理技術は、ものづくり大国・日本のポテンシャルをさらに高めながら、グローバルへと活躍の場を広げています。
日本企業の生産機能の海外移転に加えて、ものづくりだけでなくサービスや保全、貯蔵など現地リソースの最適化を目指す経済新興国(BRICsなど)で急速に導入が進み、需要拡大の原動力となっています。
いま、ものづくり企業は世界規模で激動と大競争の時代を迎えています。
自動車や産業機器、電気製品、食品、医薬品など、いわゆる「ものづくりの現場」のあらゆるシーンを支えてきた日本のFAは、これまで「軽薄短小+高性能・高品質」化で世界をリードしてきました。今後は、FA機器・制御ソフトウェアの仕様統一によるFAオープン化、(※1)ERPや(※2)MESとの効果的な連携、さらにはスマートコミュニティやスマートグリッドと連係し社会・地域でエネルギーを有効活用する「スマート・ファクトリー・オートメーション」システムの確立など、次世代の新たな役立ちと国際競争力を高めていくことが期待されています。