AI外観検査

製造業界でも広まりつつある、AI(人工知能)による外観検査の基礎とメリットについてご説明します。

AI(人工知能)とは?

近年、さまざまな分野で注目されているテクノロジーのひとつに『AI(人工知能)』があります。AIとは、『Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)』の略語で、“Artificial”は『人工的な』、“Intelligence”は『知能/知性』という意味があり、日本語では『人工知能』と訳されます。

AIは、1956年にアメリカのダーマス大学で開催されたダーマス会議で、計算機科学者・認知科学者のジョン・マッカーシー教授によって提案され、広く知られるようになりました。その後、ブームと停滞期を繰り返しながら、2000年代に入ってからは機械学習を中心にした第三次人工知能ブームが訪れています。

人工知能の置かれた状況 主な技術等 人工知能に関する出来事
1950年代 チューリングテストの提唱(1950年)
  • ・探索、推論
第一次人工知能ブーム
(探索と推論)
  • ・自然言語処理
ダートマス会議にて「人工知能」という言葉が登場(1956年)
1960年代
  • ・ニューラルネットワーク
ニューラルネットワークのパーセプトロン開発(1958年)
  • ・遺伝的アルゴリズム
人工対話システムELIZA開発(1964年 )
1970年代 冬の時代
  • ・エキスパートシステム
初のエキスパートシステムMYCIN開発(1972年)
MYCINの知識表現と推論を一般化したEMYCIN開発(1979年)
1980年代 第二次人工知能ブーム
(知識表現)
  • ・知識ベース
第五世代コンピュータプロジェクト(1982~92年)
  • ・音声認識
知識記述のサイクプロジェクト開始(1984年)
誤差逆伝播法の発表(1986年)
1990年代
  • ・データマイニング
  • ・オントロジー
2000年代 冬の時代
  • ・統計的自然言語処理
第三次人工知能ブーム
(機械学習)
  • ・ディープラーニング
ディープラーニングの提唱(2006年)
2010年代 ディープラーニング技術を画像認識コンテストに適用(2012年)

出典:ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究/総務省

また、AIは、機械学習や強化学習、ディープラーニングをはじめ、そのために必要な音声認識や画像認識など、多種多様なテクノロジーが含まれます。一般的に『人が実現するさまざまな知覚や知性を人工的に再現するもの』という意味で使われますが、明確な定義は人によって異なり、発展途上のテクノロジーとも言えます。そのため、人によって解釈も異なります。

たとえば、以下は総務省がAIのイメージを日米で調査した資料ですが、日米ともに「コンピューターが人間のように見たり、聞いたり、話したりする技術」という人間の知覚や発話の代替えになる技術という認識が多くなっています。また、米国では、「人間の脳の認知・判断などの機能を人間の脳の仕組みとは異なる仕組みで実現する技術」という、人間の脳に変わるシステムというイメージも浸透していることがわかります。

出典:ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究/総務省 より作成

AIの種類について

多種多様な技術によって成り立ち、さまざまな意味を持つAIですが、タスクの幅によって『特化型AI』と『汎用型AI』、知能のレベルによって『弱いAI 』と『強いAI』に分類されます。

特化型AIと汎用型AI

特定のタスクに特化したAIを『特化型AI』と呼んでいます。たとえば、自動運転システム、将棋・チェス・囲碁などのゲームをするAI、画像認識や音声認識のソリューションなど、現在活用されているもののほとんどが特化型AIに属します。

一方、汎用型AIは、タスクを限定せず、多種多様な処理が可能なAIを指します。たとえば、人間の脳のように思考し、判断するAIで、SF映画で会話をするロボットなどが近いイメージです。ただし、現在のところ技術的に難しく、一部の実用例でも人間のような振る舞いにはほど遠いものとなっています。

弱いAIと強いAI

AIは、知能レベルによって『弱いAI』と『強いAI』に分類できます。カリフォルニア大学の教授であり、哲学者のジョン・サールは、「人間のような精神を持たず、単にプログラムに従って問題解決をしているに過ぎないAIを『弱いAI』。人間と同様の精神能力を有し、人間と同じような動作をするAIを『強いAI』」と名付けました。

そして、現在普及しているAIは、弱いAIに属します。近年では、将棋やチェスなどのゲームで人間を凌駕するAIも登場していますが、これらも事前に設定されたアルゴリズムに従って処理しているにすぎず、弱いAIとなります。

一方で強いAIは、SF作品に登場するロボットのように、人間のような知能を持ち、自律的に問題を解決するものです。ただし、強いAIの実現は、現状では難しいものになっています。

これらのことから、現在広く使われているAIは、『特化型AI』であり、『弱いAI』であることがわかります。

AIによる外観検査について

外観検査とは、製品や部品の外観をチェックする検査のことで、主に表面に付着したキズや欠け、シミ、異物、変形といった欠陥について良否判定を行う工程です。その方法は、検査員の目による目視検査が主流で、人間の五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を使った『官能検査』が代表例です。

従来は人間の目による目視検査が一般的でしたが、判断基準や検査数にばらつきが発生したり、コストや手間がかかったり、詳細な検査に拡大鏡や顕微鏡が必要という課題がありました。そこで画像認識を用いた自動化が進んでいます。

ただし、画像認識による外観検査にも課題があります。たとえば、ワークの向きや色、形状や角度によって判定結果が左右されるという問題があり、最終的に目視検査が必要になるケースがあります。そこでAIが普及するにつれ、外観検査にもAIが活用されるようになっています。外観検査にAIを用いることで、人間による目視検査に柔軟な判定が可能になります。

以下、AIによる外観検査のメリットやデメリットなどを詳しく説明します。

AI外観検査のメリット

AIは、製造業でも活用が広まっています。こちらでは、その中でも外観検査に絞り、その特長やメリット、デメリットを紹介します。外観検査では、すでに汎用画像センサを用いた検査が普及しています。しかし、汎用画像センサを用いた外観検査は、数値で閾値を設定するので、OK/NGの判断が曖昧な判定に不向きです。AIによる外観検査は、事前の学習データをもとに人間に近い感覚で判断が可能です。以下に従来の汎用画像センサによる外観検査と、AI画像処理による外観検査の違いをまとめてみました。

汎用画像センサ AI画像処理
判定方法 面積や色の濃さ、幅などを計測し、数値として閾値を設定して判定 事前の学習データに基づいて判定
メリット NG判定時に数値的に根拠を示すことができる 人による官能検査に近い、閾値が曖昧な検査ができる
デメリット 閾値が曖昧な検査ができない NG判定時に数値的な根拠を示すことができない
適した外観検査
  • ・寸法などで明確に判定ができる場合
  • ・良品のバラツキがなく、OK/NGの判定が容易な場合
  • ・人の目では判断できるが、汎用画像センサではOK/NGの線引きが難しい場合
  • ・複雑な形状のワークを扱う場合
  • ・良品にバラツキがあり、NGの想定が難しいワークの場合
  • ・品種が多く、登録に時間がかかる場合

AIが得意な検査

OK/NGの線引きが難しい(人の感覚)

例)接着剤塗布後の外観検査

「人が見たらわかる」の自動化が可能!

形状が複雑(領域設定が大変)

例)アルミダイカスト品の鋳巣の検査

形状が複雑でも簡単設定で検査可能!

NGが想定できない、良品がばらつく

例)金属部品の打痕検査

良品のばらつきを吸収し、欠陥を検出可能!

品種が多い(登録に時間がかかる)

例)樹脂部品のキズ検査

品種が変わっても設定1つで対応可能!

「AIによる外観検査」でよくある誤解

「AIは、人間のように勝手に学習して賢くなっていく」「AIを活用すれば100%の精度で不良品を判別できる」と、AIによる外観検査に対して期待される方もいらっしゃいます。しかし、現在のAIは万能ではなく、できることには限りがあります。また、判定精度を高めるには、人間のように教育していく必要もあります。

AIによる外観検査では、機械学習の判定ルール(モデル)生成のために大量のデータをパソコンに取り込み、学習させる必要があります。具体的にAIによる外観検査を実施するには、最低でも数十枚のOK/NG画像データが必要です。そしてOK/NG画像データは、人間が選ぶ必要があります。AIは、OK/NG画像データを参考に判定するので、そこにない状況の判断が難しく、間違った結果を出す恐れもあります。また、間違ったOK/NG画像データを覚えさせてしまえば、 AIは判断を間違ってしまいます。

そこでAIによる外観検査では、機械学習のために必要なデータの精度が非常に重要です。人間に対して教えるように「どこまでを良品、また不良品の判定にするのか」を教え込んでいく必要があるのです。最近では、機械学習やディープラーニングといった言葉も一般的になっていますが、まだ自動的にAIが学習し、賢くなっていくというのは難しいというのが現状です。

なぜAIは難しいのか?

AIを導入することで、外観検査の自動化や省人化が可能です。しかし、最適なソフトや判定ルールの選定、学習に必要な画像の用意など、非常に手間がかかることが課題です。検証にも時間がかかり、最適なAIを選ぶことは容易な作業ではありません。

そもそも学習のために必要な大量の画像データの入手が困難だったり、学習させたい不良が画像に写らなかったり、課題はたくさんあります。その結果、期待したほどの判定精度が得られないケースもあります。そこでAIによる外観検査を導入するのは、撮像からルールベースの選定も含めた、トータルソリューションが求められます。

キーエンスによるトータル提案

キーエンスは、FA(ファクトリーオートメーション)で培った経験を活かし、AIによる外観検査をトータルでサポートしております。初期検証段階では、ルールベースでの検査と同時に項目別に画像を保存、AI実装フェースでは保存した画像でAI導入可否の決定まで、トータル提案でコンサルティングを行っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

また、機械学習やディープラーニングはもちろん、AIによる外観検査では元画像の品質がとても重要です。そこでキーエンスでは、画像処理のプロがAIソフトの選定から学習用画像の用意までお手伝いしております。

キーエンスの画像処理ラボでは、レンズや照明などの周辺機器も含め、大型のテストステージや駆動治具なども使用した具体的なテストが可能です。さらに画像処理ラボでは、AIに最適化した画像づくりも無償で提供。ソフトウェアだけではなく、AIによる外観検査に必要不可欠なカメラなどのハード面まで含め、総合画像処理メーカーとしてサポートしております。

そのほか、テスト機の無償貸し出しに加え、全商品当日出荷可能な体制を整え、AI導入における課題だった納期問題も解決。全商品送料無料、照明1個からでもお届けする体制で、実ライン採用後も安心です。

AI導入では良質な画像が必要不可欠!

AIでは、学習のために良質な画像が必要不可欠です。従来の汎用画像センサによる検査とは異なり、 AIはパラメーターによる追い込みが難しく、高精度な判定には“良い画像”で学習させることが重要です。

  1. (1)キーエンスの特殊撮像技術で検出したい欠陥を強調できる
  2. (2)カメラ側で、AIソフトにはない「位置補正」や「前処理」をかけられる
(1)
LumiTrax™機能
(2)
位置補正あり
少ない学習枚数でAI構築が可能になります!
位置補正+前処理なし 位置補正+前処理あり
学習枚数 1000枚 20枚

キーエンスは、FA(ファクトリーオートメーション)で培った特殊画像処理技術があり、外観検査に最適なアイテムを多数ラインナップ。 AI導入においても画像処理のプロフェッショナルが機器選定からトータルでサポートしております。これにより、最小限の学習用画像で高精度な判定を実現。短時間でAIによる外観検査の導入が可能です。

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