放射温度センサの基礎
放射温度センサの基礎、選び方、使用時のポイントについて紹介しています。
放射温度センサとは
デジタル放射温度センサ FTシリーズ
手のひらを頬に近づけると暖かく感じますが、これは人間の手のひらから出ている赤外線を皮膚が感知しているためです。
このように、全ての物体は赤外線を出しており、物体の温度が高くなればなるほど強い赤外線を放出しています。
放射温度センサはこの赤外線を利用して温度を測定しています。
赤外線とは?
赤外線は通常人が目で見ている可視光線と同じ"光"の一種です。IR(InfraRed)とも呼ばれます。
ただ、可視光線より波長が長い(周波数が低い)ため肉眼で見ることができません。
波長はおよそ0.7~400μmです。
1800年にイギリスのSir Frederick William Herschelにより発見されました。
放射温度センサの特長
放射温度センサを使用することのメリットは以下の2点です。
- 高速で温度測定ができる
- 非接触で温度測定ができる
移動・回転する物体や、センサを接触させると表面温度が変化するような物体(小熱容量物体)の温度測定に有効です。
その反面、物体の内部や気体の温度測定ができない点や、物体に合わせて放射率の設定が必須である点等がデメリットです。
放射温度センサの原理
物体から放射された赤外線をレンズでサーモパイルと呼ばれる検出素子に集光します。
サーモパイルとは物体から放出される赤外線を吸収し、それによって暖められると、温度に応じた電気信号を生じる検出素子です。
これを増幅し、放射率補正を行って温度を表示します。
図のように、複数の熱電対が多数直列に接続された構造になっています。
中心部には熱電対の温接点を集め、周辺部に熱電対の冷接点を集めています。
レンズで集光された赤外線は温接点のみに当たるため、温接点のみ加熱されます。
ゼーベック効果で温接点と冷接点との間に電圧差が生じ、温度測定が可能になります。
(放射温度センサにはサーミスタが内蔵されており、冷接点の温度を測定しています。)
放射率とは
物体から放射される赤外線の量は同じ温度の物体であっても、物体の材質や表面状態によって異なります。
放射温度センサで温度を測定する場合は、物体によってこの放射の割合を補正する必要があります。
この割合のことを「放射率」と言います。
「放射率」は物体に依存する定数で、理想的な黒体は"1"、黒体と逆で完全に赤外線を反射・透過してしまうもの(空気など)は"0"となります。
すべての物体の放射率は0~1の間に収まることになります。
物体表面に光が入射すると、そのエネルギーは物体に吸収されるか、表面で反射されるか、あるいは物体を透過するかに分かれます。
入射したエネルギーを"1"とすると
1=吸収率+反射率+透過率が成立します。
また、キルヒホッフの法則より、吸収したエネルギーと物体が放射するエネルギーは等しいので
吸収率=放射率が成立します。
上記の式から、物体に入射したエネルギーの吸収率が高ければ高い(反射、透過しない)ほど、放射率が高くなるということがわかります。
黒体とは?
放射率を考えるとき、「黒体」について理解する必要があります。
「黒体」とは、その表面に入射するあらゆる波長の光を吸収し、反射も透過もしない、放射温度センサにとっては理想の物体です。
反射率も透過率も"0"ですので、吸収率は"1"、すなわち放射率も"1"です。
放射率の決め方
放射率が分かっている場合
物体の放射率が文献などに物理定数として記載されている数字をそのまま利用します。
その放射率を測定したときの測定条件(物体の表面状態など)に注意して決定します。
放射率が分からない場合
黒体スプレー OP-96929
物体の温度を実際に測定し、そのときの放射温度センサの表示値を利用します。
- 接触式温度計を使用する方法
物体の温度を放射温度センサと熱電対など接触式温度計の2通りで測定し、それぞれの表示値が一致するように放射率を設定します。 - 黒体スプレー(テープ)を使用する方法
物体の放射率を求めるときに使用するスプレーです。
- 手順1
- 物体の一部に黒体スプレーを塗布します。
- 手順2
- 黒体の放射率に設定した放射温度センサで黒体スプレーを塗布した部分の温度を測定します。
- 手順3
- 黒体スプレーを塗布していない部分の温度を測定し、手順2.の表示値と同じになるように放射率を設定します。
- 手順4
- 手順3.で設定した放射率をこの物体の放射率とします。
放射温度センサの選び方
使用方法で選定
放射温度センサには大別して以下の2種類があります。
携帯型(ハンディタイプ)
検出部と変換部の区別がなく、両者が一体に構成された放射温度センサです。小型かつ軽量であり、携帯して手に持って温度を測定することが可能です。
デジタル放射温度センサ FTシリーズ
設置型
検出部と変換部が構造上別体に分かれており、両者を接続ケーブルで電気的に結合する放射温度センサです。
固定して温度を測定します。
非接触で“表面温度”が見える!デジタル放射温度センサ FTシリーズ
詳細はカタログをダウンロードしてご覧ください。
物体のサイズと測定距離で選定
放射温度センサは測定できる範囲(スポット径と呼びます)と測定距離が決まっています。
正確に温度を測定するためには決まったスポット径と測定距離で使用する必要があります。
上図は放射温度センサのスポット径と測定距離の関係を示します。
放射温度センサを選定する際、必ずスポット径が物体よりも小さいことをご確認ください。
放射温度センサ使用時のポイント
放射率の設定
設定した放射率が物体固有の放射率と異なる場合、測定誤差の要因となります。
放射率と物体の温度の関係はリニアではありませんので、異なる条件で測定した温度を後から修正・補正することができません。
(放射率の設定が1%異なったからといって温度も1%ずれるわけではありません。)
放射率の設定誤差と温度の測定誤差の関係(代表例)
物体温度 | 放射率の設定誤差(°C) | ||
---|---|---|---|
1% | 5% | 10% | |
0°C | 0.5°C | 1.5°C | 2.5°C |
100°C | 0.6°C | 3.0°C | 6.0°C |
200°C | 1.5°C | 6.5°C | 12.0°C |
300°C | 2.0°C | 9.5°C | 18.0°C |
スポット径と測定物体
安定して物体の温度を測定するためには、スポット径の1.5倍程度が物体に収まるようにしてください。
高温測定時
高温物体を測定する場合、物体からの赤外線により放射温度センサ本体が熱せられ、正確な温度を表示できないばかりか、最悪放射温度センサの破損につながる場合があります。このような場合は以下のように測定に必要な赤外線以外遮蔽するようにしてください。
計測器(レコーダ)への配線
4-20mA出力の計測
4-20mA入力を持つ計測器を使用する計測方法
「4-20mA出力の最大負荷抵抗>4-20mA入力の負荷抵抗」となるようにしてください。
上記を満たさない場合は計測誤差を生じます。
シャント抵抗を使用して電流→電圧変換する計測方法
オームの法則(E=I・R)によりシャント抵抗に流れる電流が電圧に変換されます。
変換した電圧は、電圧入力レンジを持つ計測器で計測できます。
「4-20mA出力の最大負荷抵抗>シャント抵抗の抵抗値」となるようにしてください。
上記が満たせない場合は計測誤差が生じます。
信号変換器を使用する方法
信号変換器を使用することで4-20mA出力を、電圧入力レンジを持つ計測器で計測できます。
4-20mA出力のパラ配線は可能?
可能です。
電圧入力を使用する計測方法
計測対象の4-20mA出力機器が他の4-20mA入力機器に接続されている場合は、電圧レンジを持つ計測器で直接計測できます。
他の4-20mA入力機器の負荷抵抗によって電流→電圧変換された電圧を計測します。
4-20mA入力を持つ計測器を使用する方法
直列に配線することで同時に計測できます。
「4-20mA出力の最大負荷抵抗>2台の4-20mA入力の負荷抵抗の合計」である必要があります。また、負荷抵抗を直列に配線しますので各入力の-端子に電位差が生じます。電位差が生じても回路に問題ないことをご確認ください。
アナログ電圧出力の計測
直接接続して計測できます。
出力電圧に応じて入力レンジを調整してください。