測温抵抗体の基礎

測温抵抗体の基礎、選び方、使用時のポイントについて紹介しています。

測温抵抗体とは

測温抵抗体とは

測温抵抗体は、金属または金属酸化物が温度変化によって電気抵抗値が変化する特性を利用し、その電気抵抗を測定することで温度を測定するセンサです。
RTD(Resistance Temperature Detector)とも呼ばれます。
使用する金属には一般的には特性が安定して入手が容易である白金(Pt100)が用いられます。JIS-C1604で規格化されています。
そのため各メーカ間の互換性があります。
現在、熱電対と並んで、最もよく使用される温度センサです。

測温抵抗体の特徴

測温抵抗体は高精度に温度を測定する場合に使用されます。

  • 高精度に温度を測定できる
  • 極低温を測定できる

この2点が大きなメリットです。その反面、高温測定には不向きなセンサです。
環境の温度測定には測温抵抗体、工業炉の温度測定には熱電対というように使い分けることが一般的です。

測温抵抗体の原理

測温抵抗体の抵抗素子の抵抗値は温度の変化により、一定の割合で変化します。
抵抗素子に一定の電流を流し、測定器で抵抗素子の両端の電圧を測定し、オームの法則E=IRから抵抗値を算出し、温度を導き出します。

測温抵抗体の原理

[参考]Pt100の基準温度換算表

温度°C -100 0
0 60.26 100
-10 56.19 96.09
-20 52.11 92.16
-30 48 88.22
-40 43.88 84.27
-50 39.72 80.31
-60 35.54 76.33
-70 31.34 72.33
-80 27.1 68.33
-90 22.83 64.3
-100 18.52 60.26
温度°C 0 100 200
0 100 138.51 175.86
10 103.9 142.29 179.53
20 107.79 146.07 183.19
30 111.67 149.83 186.84
40 115.54 153.58 190.47
50 119.4 157.33 194.1
60 123.24 161.05 197.71
70 127.08 164.77 201.31
80 130.9 168.48 204.9
90 134.71 172.17 208.48
100 138.51 175.86 212.05
温度°C 300 400 500
0 212.05 247.09 280.98
10 215.61 250.53 284.3
20 219.15 253.96 287.62
30 222.68 257.38 290.92
40 226.21 260.78 294.21
50 229.72 264.18 297.49
60 233.21 267.56 300.75
70 236.7 270.93 304.01
80 240.18 274.29 307.25
90 243.64 277.64 310.49
100 247.09 280.98 313.71
温度°C 600 700 800
0 313.71 345.28 375.7
10 316.92 348.38 378.68
20 320.12 351.46 381.65
30 323.3 354.53 384.6
40 326.48 357.59 387.55
50 329.64 360.64 390.48
60 332.79 363.67
70 335.93 366.7
80 339.06 369.71
90 342.18 372.71
100 345.28 375.7

JIS C1604より抜粋(単位:Ω)

測温抵抗体の選び方

抵抗素子で選定

測温抵抗体には大別して以下の4種類があります。

種類 測定範囲
白金測温抵抗体 -200~+660°C
銅測温抵抗体 0~+180°C
ニッケル測温抵抗体 -50~+300°C
白金・コバルト測温抵抗体 -272~+27°C

以下、各測温抵抗体の特徴を記載します。

白金測温抵抗体

温度による抵抗値変化が大きく、安定性と精度が高いことから工業用計測に最も広く使用されています。
白金測温抵抗体の種類は以下の3つに大別されます。

記号 0°Cにおける抵抗値 抵抗比率
Pt100 100Ω 1.3851
Pt10 10Ω 1.3851
JPt100 100Ω 1.3916

抵抗比率:100°Cにおける抵抗値/0°Cにおける抵抗値

Pt100が最も多く使用されています。
Pt10はIEC規格に規定がありますので、JIS規格に追加されていますが、使用実績はほとんどありません。
JPt100は1989年以前、JIS規格上では旧Pt100でした。
1989年のJIS規格改正時に、IEC規格に合わせて新Pt100(現在のPt100)を制定した際、旧Pt100をJPt100という記号に変えて残しましたが(市場の混乱を防ぐため)、1997年のJIS改正時に廃止されました。

銅測温抵抗体

温度特性のばらつきが小さく、安価です。ただし、抵抗率(固有抵抗)が小さいため小型化できません。
また、高温で酸化しやすいので+180°C程度が使用上限温度になります。

ニッケル測温抵抗体

1°Cあたりの抵抗値変化が大きく、安価です。
ただし、+300°C付近に変態点があるなどの理由で使用上限温度が低いです。

白金・コバルト測温抵抗体

抵抗素子に白金・コバルト希薄合金を使用したセンサで、極低温計測用に使用されます。

精度で選定

測温抵抗体の精度は”測定温度に対する許容差”としてJIS規格に定められています。

クラス 許容差(°C)
A ±(0.15+0.002│t│)
B ±(0.3+0.005│t│)

│t│:測定温度の絶対値

内部導線の結線方式で選定

内部導線の結線方式は2線式、3線式及び4線式があります。

内部導線の結線方式で選定
【2線式】
抵抗素子の両端にそれぞれ1本ずつ導線を接続した結線方式です。
安価ですが、導線抵抗値がそのまま抵抗値として加算されますので、あらかじめ導線抵抗値を調べて補正をする必要があります。そのため、実用的ではありません。
【3線式】
最も一般的な結線方式です。抵抗素子の片端に2本、もう片端に1本の導線を接続した結線方式です。
3本の導線の長さ、材質、線経及び電気抵抗が等しい場合、導線抵抗の影響を回避できることが特徴です。
【4線式】
抵抗素子の両端に2本ずつ導線を接続した結線方式です。
高価ですが、測定原理上、導線抵抗の影響を完全に回避できます。

なぜ3線式測温抵抗体は導線抵抗の影響を受けないか?

なぜ3線式測温抵抗体は導線抵抗の影響を受けないか?

図に示すように、3線式測温抵抗体は抵抗素子の片端に2本、もう片端に1本の導線を接続した測温抵抗体です。
抵抗素子の抵抗値をR、3本の導線抵抗をR1、R2、R3(R1=R2=R3)とすると、規定電流はA→B→Cの経路を流れます。
(BとDは同電位なのでR2には流れない)
3線式測温抵抗体が配線されたレコーダはこのときA-B間の電圧とB-C間の電圧を測定し、その差分を計測値とします。
流れる電流値は一定ですので、それぞれの抵抗を流れる電圧を
R:V
R1、R3:V1
とすると
(B-C間の電圧)-(A-B間の電圧)
=(V+V1)-(V1)
=V
となり、導線抵抗の影響を回避することができます。

構造で選定

【1】一般型(保護管付)測温抵抗体
抵抗素子に内部導線を接続し、保護管に納め、端子を取り付けて使用するという、測温抵抗体の最も基本的な構造です。
耐震性・耐蝕性の高い保護管も選ぶことができ、また、安価で扱いやすいことがメリットです。
その反面、下記のシース測温抵抗体と比較するとサイズが大きくなりますので、応答性が遅いことがデメリットです。

一般型(保護管付)測温抵抗体

【2】シース測温抵抗体
金属細管(シース)と内部導線及び抵抗素子の間に高純度のMgO(酸化マグネシウム)を充填し、一体に加工された構造です。
シース測温抵抗体は、細く、シース内に空気層が全くありませんので、応答性が速いことが最大のメリットです。
また、形状を自由に曲げることができる点や、外径を細くできる点もメリットになります。

シース測温抵抗体

「ダブルエレメント」とは何?

測温抵抗体の抵抗素子部分のことをエレメントと呼ぶことがあります。
通常、1つの測温抵抗体の内部には1つの抵抗素子のみ存在し、これをシングルエレメントと呼びます。
ダブルエレメントとは1つの測温抵抗体の内部に2つの抵抗素子が入っているタイプの測温抵抗体のことをいいます。

  • 内部導線の断線など、故障に対する信頼性を向上させたい場合
  • 複数の機器(レコーダと温調器など)に同じ測定値を表示、記録したい場合に使用します。

測温抵抗体使用時のポイント

内部導線による誤差に注意

測温抵抗体は、内部の抵抗素子の抵抗値を精度良く計測することによって温度を算出します。したがって、導線抵抗の影響を極力受けないようにする必要があります。3導線式、4導線式のいずれの場合においても、導線の材質、外径、長さ及び電気抵抗値が等しく、かつ、温度勾配がないようにしなければなりません。

測温抵抗体の延長は可能?

可能です。測温抵抗体用接続導線を使用します。
長い導線を必要とする場合は、誤差を生じさせないため、導線の1mあたりの抵抗値を確認してください。レコーダの入力信号源抵抗の範囲内で選定してください。

挿入深さによる誤差に注意

測温抵抗体の測温部が測温対象と同じ温度になるように設置しないと正確な温度は得られません。
保護管付測温抵抗体、シース測温抵抗体に限らず、外径の約15~20倍程度は挿入するようにしてください。

自己加熱による誤差に注意

測温抵抗体を使用して温度を計測する場合、測温抵抗体に規定電流を流して温度を求めますが、このとき発生したジュール熱によって測温抵抗体自身が加熱されます。
このことを「自己加熱」といいます。
自己加熱は規定電流値の2乗に比例しますが(測温抵抗体の構造や環境にも依存)、大きいと精度誤差の要因になります。

JIS規格では0.5mA、1mA、2mAを規定電流としていますが、一般的に測温抵抗体はいずれかの規定電流に合わせて精度保証をしていますので、仕様に記載されている規定電流値であれば自己加熱の心配はありません。

測温抵抗体の規定電流に注意

測温抵抗体の規定電流は仕様で決まっています。
仕様に記載されている規定電流値以外の電流値を流さないようにしてください。
異なる電流値を流すと、以下のような問題点が起こる可能性があります。

  1. 発熱量の変化によって測定誤差が生じます。
  2. 規定電流値が変化することで測定電圧値も変化し、間違った温度を表示します。

並列配線に注意

1本の測温抵抗体を複数のレコーダに並列配線する場合、ダブルエレメントタイプをご使用ください。
シングルエレメントタイプの場合、必ずレコーダ1台につき1本の測温抵抗体をご用意ください。

並列配線時の問題点は?(シングルエレメントタイプ)

並列配線時の問題点は?(シングルエレメントタイプ)

レコーダは測温抵抗体に規定電流を流し、抵抗の両端に発生した電圧を計測します。
並列に配線すると、2つのレコーダから規定電流を供給することになり、正確な電圧値が得られなくなります。

レコーダへの導線の配線位置に注意

レコーダへは正確に配線してください。正確に配線しないと、間違った温度が表示されてしまいます。
下図は3線式測温抵抗体をレコーダに配線する方法を示しています。

レコーダへの導線の配線位置に注意

参考1

2線式測温抵抗体を3線式測温抵抗体計測用のレコーダに配線する方法

2線式測温抵抗体を3 線式測温抵抗体計測用のレコーダに配線する方法

参考2

4線式測温抵抗体を3線式測温抵抗体計測用のレコーダに配線する方法

4線式測温抵抗体を3 線式測温抵抗体計測用のレコーダに配線する方法

※この配線は3線式測温抵抗体として使用しますので、精度は3線式相当となります。

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