これからの物流

ネット通販の隆盛で慢性的な人手不足にあえぐ宅配業界、トラック輸送の拡大で懸念される環境負荷の高まりなど、現在の物流を取り巻く環境はたいへん厳しいものとなっています。そんな中で、これからの物流はどう変わるべきなのでしょうか。ここでは、2016年10月に施行された「改正物流総合効率化法」について簡単に説明しながら、物流の将来像を探っていきます。

大きく変わっていく物流

国土交通省によれば、2016年の宅配便貨物の取扱個数は前年比6.4%増の約38億6,900万個と、6年連続で過去最高を更新しました。一方で、少子高齢化や出生率の低下を背景に、若い働き手の絶対数の減少、物流の担い手であるドライバーの高齢化は長期的かつ深刻な問題といえます。しかし、いまや問題は人手不足という単純なものにとどまりません。物流業界は、社会情勢や経済状況の変化、自然災害など予期せぬ外的要因によって、運搬・保管する荷物の量が劇的に増減するなど、不確定要素の影響を受けやすいといえます。たとえば、トラック運転手の人員を多数確保できたとしても、取り扱う荷物の量が著しく増減すると、稼働人員の調整が困難になります。今後の物流業界では、単に人員を増やすだけでなく、変化に対して柔軟かつ効率的に人員を配置できる体制づくりも重要な課題です。

改正物流総合効率化法で何が変わる?

物流業界の時代背景に伴って政府主導で進めているのが、2016年10月に施行された「改正物流総合効率化法」です。改正物流総合効率化法では、2社以上の物流企業や荷主が1台のトラックを利用する「共同配送」や、トラックから鉄道や船舶などの大量輸送手段に切り替える「モーダルシフト」といった取り組みに対して、さまざまな優遇措置を打ち出しています。例えば、税制上の特例や低利融資、計画策定経費の補助、事業参入に必要となる行政手続きの一括化といった支援措置などが掲げられています。

モーダルシフトは環境対策と負担軽減

長期的な問題である人手不足や、トラック輸送偏重による環境負荷の高まりなどを解消するために、国と業界が連携して取り組んでいるのが「モーダルシフト」です。政府は、鉄道や船舶による貨物輸送を2020年度に2012年度比で1割超増やすことを目標に掲げました。また、地球規模の気温上昇の抑制を目的に、2050年までに排出した分と同じ量の温室効果ガスを吸収・除去し、差し引きゼロ(ニュートラル)を目指す世界的な取り組み「カーボンニュートラル」の達成は、物流業界での大きな課題です。代表的な取り組みとして、短距離輸送でのEV(電気自動車)などの活用が挙げられます。ほかにも、500~1,200km程度のトラック輸送を鉄道や船舶に切り換えることで輸送距離だけでも100km程度と大幅な短縮が可能です。そうなればCO2排出量の削減はもちろん、トラックドライバーの負担軽減にもつながります。政府は、モーダルシフトやカーボンニュートラルによって環境問題と人的負担という2つの問題を解決しようとしているのです。

輸送機関別のCO2排出量原単位

モーダルシフトの効果
(輸送機関別のCO2排出量原単位(1トンの貨物を1 ㎞輸送したときのCO2排出量):2016年度実績)
モーダルシフト効果を示すイメージグラフ
(出典)国土交通省「自動車輸送統計調査」「内航船舶輸送統計調査」及び「鉄道輸送統計調査」(いずれも平成28年度)並びに国立研究開発法人環境研究所地球環境センター温室効果ガスインベントリオフィスの公表している温室効果ガス排出量のデータ(平成28年度)に基づき作成

トラック輸送のメリットを生かしたRORO船(ローローせん)

RORO船

モーダルシフトを推進しても陸上交通の主役であるトラック輸送の重要性が損なわれることはないでしょう。鉄道・海上・航空の各輸送手段とは異なり、小回りが利き、小口配送にも適しているからです。今後はモーダルシフトが進んでいきますが、一方で貨物を積んだままの状態でトラックやトレーラーをそのまま運べるRORO船(ローローせん)との連携も進んでいて、陸上輸送と海上輸送のシームレス化が図られていきます。

トラック・鉄道・船舶・航空と各輸送手段をバランスよく、適材適所で活用していくことが大切。そうすれば、日本の物流はこれまでにない発展を遂げるはずです。

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