物流の歴史

ある物事について深く知るには、その歴史的な経緯をたどる必要があります。こちらでは、物流の歴史から高度経済成長期そして現状を俯瞰しながら、時代ごとの物流の役割と課題について探っていきます。

物流の始まりとこれまでの歴史

江戸時代までさかのぼって日本の物流の起源や移り変わり、当時の課題などをご紹介します。

水運が発達した江戸時代

江戸時代の水運のイメージ

厳密な意味での物流とは異なりますが、日本で生産地から消費地へのモノの流れがある程度確立されていたのが江戸時代です。当時は利根川などの水運が発達し、建築資材である木材や農産物は川の流れに乗って江戸まで運ばれていました。川のほとりにはいくつもの河岸が設けられ、そこで荷受けが行われるといった具合です。一方、当時の陸路は舗装もされておらず、せいぜい小型の荷車を引いて短い距離を移動する程度で、大量の物資を輸送するとなると水運を利用するのが当たり前でした。それが難しい場合に限りやむなく陸路で輸送を行っていたそうです。

物流という概念が登場した戦後

物流のイメージ

陸路の未発達は戦後の1950年近くまであまり変わらなかったようです。実際、都心部以外では道路はほとんど未舗装のままで、輸送車両もスピードが出せず、少しでも急ごうとすれば悪路の影響で荷物がダメージを負いかねない状況でした。商品の破損を防ぐために、厳重な梱包が不可欠でそのためのコストが負担になっていたようです。

こうした状況をなんとか改善しようと、当時の政府は物流の先進国であるアメリカに視察団を送り、その成果を持ち帰ることに成功。商品をスムーズかつスピーディーに流通させるにはインフラの整備が重要なこと、荷役の機械化や合理化が不可欠なこと、今で言う物流センターや倉庫といったターミナル機能の拡充が必要なことがようやく国内でも共通認識化していったのもこの時期です。何より、生産と消費をつなぐ物流の重要性がクローズアップされたことは画期的な出来事だったと言えるでしょう。なお、当初、原語のまま使用されていた「Physical Distribution」という概念が「物的流通」と訳されたのもこの当時。この物的流通が転じて「物流」と呼ばれるようになります。

大量生産・大量消費時代から多品種少量消費時代へ

オリンピックや万博の開催に伴って全国の道路が整備され、陸送に適した環境が充実した高度経済成長期。この頃は、大量生産・大量消費時代とも言われ、どんな商品でも作れば作るだけ売れました。そんな状況だけに生産者はモノづくりに、流通に携わる者は売ることに専念すればそれですべてがうまく行くという時代でした。しかし、景気が後退し、人口減少や高齢化が進み、多品種少量生産・消費が当たり前になってくると、利益確保のために生産と流通が一体となって物流の最適化を図っていく必要が生じてきました。

現在の物流

消費者のニーズが多様化し、多品種や小ロットでの生産体制や在庫管理が不可欠となった現代では、もはや生産者はモノづくりだけ、流通部門は売ることだけに専念していては立ち行かない時代です。双方が情報共有しながら、「必要なモノを必要とする人に、必要な数だけ、必要なタイミングで届ける」取り組みが何より不可欠だからです。その基本となる概念が「ロジスティクス」です。ロジスティクスとは、複雑なモノの流れを一元管理して、物流をより効率化するための考え方と言ってもよいでしょう。ただ、本来、ロジスティクスとは企業内における物流の最適化を意味する用語ですが、近年ではさらに原材料の供給先から生産者、流通、販売業者も含めたすべての過程を最適化する「SCM(サプライチェーンマネジメント) 」という考え方に発展・定着しています。このロジスティクスという考えが物流を大きく変え、生産と物流の結びつきを強固なものにしました。

現在の問題点

ECサイトの隆盛で取り扱う荷物の絶対数増加・慢性的な人手不足

自動化が進んでいる生産の現場に対して、物流ではいまだに多くの部分を人の手に頼っています。しかし、人口減少や高齢化によって働き手の慢性的な不足が表面化しているのが業界の現状です。しかも労働力の売り手市場化で賃金の高騰は避けられず、それに反して荷主からのコスト削減要求は強まるばかり。さらに大手ECサイトの利用者は増加し、物流業界では慢性的な人手不足と荷物の増加で非常に苦しい状況になっています。

一部では、自動運転車やドローンによる配送の自動化も検討されていますが、これらが主流化するにはまだ相当の時間がかかるでしょう。そんな中で、物流業界が抱えるこうした課題の解決を促すような各種優遇措置、資金面の支援などを盛り込んだ「改正物流総合効率化法」が2016年に閣議決定しています。今後は、これらの法改正に加え、産業用ロボットによる自動化、ハンディターミナルなどによる情報管理の自動化などが重要になるでしょう。

改正物流総合効率化法とは

物流総合効率化法は、2005年10月に施行された法律です。2005年10月時点では、物流コストの削減と環境負荷低減を図った事業者に対して、「事業許可等の一括取得」「営業倉庫等の施設や設備に対する税制の特例」「設備の立地規制についての配慮」「資金面の支援」などの優遇処置が実施されました。

2016年の改正物流総合効率化法は、ECサイトなどの躍進により小口輸送が大幅に増えた現代に合わせて、「人手不足にも負けない便利で効率的な物流を実現」というテーマで法改正されました。注目すべきポイントは、複数事業者による連携を強く意識した改正法となっていることです。 「2以上の者が連携して行うこと」という前提条件を設けることで関連業者が連携し、輸送網集約、共同配送、モーダルシフトなどの取り組みを進め、物流ネットワークの総合化・効率化、さらに省人化を推進することが狙いといえるでしょう。概要として大きく以下の3点が追加されています。

法目的の追加
「流通業務に必要な労働力の確保に支障が生じつつあることへの対応を図るものである」と法目的に追加されました。
ワンストップ手続きの拡充
国の認定を受けた事業で、海上運送法や鉄道事業法などの許可などが必要なものについて、「関係法律の許可等を受けたものとみなす」といった行政手続きの特例が追加されました。
支援の対象を拡大
流通業務総合効率化事業が支援対象ですが要件を変更。「一定の規模および機能を有する物流施設を中核とすること」が必須条件ではなくなり、「2以上の者が連携して行うこと」が前提条件となりました。

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