倉庫・配送センターでの物流改善事例棚卸し
「棚卸し」とは、現物を確認し、在庫の実数とデータ上の数値を照合する作業です。物流業界では、主に顧客から預かった製品や商品の在庫数を数えることを指します。本決算や中間決算における荷主企業の在庫資産を確定する重要なプロセスだけに帳簿上の在庫と現物が相違ないようにすることが求められ、非常に手間と時間のかかる作業です。例えば、店舗在庫の棚卸しであれば数量も少ないので数時間から1日程度で終えることができますが、品番数で数千SKU(※)、総在庫数で何十万ものアイテムを保管している倉庫や配送センターでは大きな負担となり、カウントミスも発生しやすいのが実情です。こちらでは、倉庫・配送センターにおける棚卸しの方法や問題点、ハンディターミナルを活用した解決策や効率化につながる改善事例を紹介します。
SKU(Stock Keeping Unit)=在庫管理を行う場合の単位
棚卸しの方法
棚卸しの事前準備
倉庫や配送センターなどの広大な保管エリアを持つ現場では事前準備が大切です。とくに通常の作業をすべて止めてスタッフ全員で現物を数える「一斉棚卸し」では、実施スケジュールの策定から棚卸し票の作成、在庫確認や棚卸し票の記入方法をスタッフ全員に周知させるためのトレーニングなど、棚卸し以前の準備が作業効率やミス撲滅に直結します。
2種類の棚卸し方法 -「タグ方式」と「リスト方式」-
現物を確認して行う棚卸しを「実地棚卸し」と呼び、その方法は「タグ方式(棚札方式)」と「リスト方式」の2つに大きく分けられます。
タグ方式
あらかじめ在庫が保管されている棚に連番管理された「棚札(タグ)」と呼ばれる伝票を貼付け、担当者が品目・個数を確認後に記入し、すべてのカウントが終わってから棚札を回収する一般的な棚卸し方法です。すべてに棚や現物に棚札が貼り付けられているので漏れなくカウントできます。また、連番管理された棚札を使用するので棚札の回収漏れ・未記入も明確になり、棚卸資産を網羅的にカウントできます。
メリット | デメリット |
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棚札を棚・現物に直接貼付するのでカウント漏れが防止できる | 棚札の連番管理が必要で、棚札の回収や確認などの手間・時間がかかる |
リスト方式
在庫管理システムから出力されたリストをもとに実際に保管されている棚卸し資産の数量を確認する方式です。主に自動倉庫などで用いられる棚卸し方法で、タグ方式に比べて短時間で棚卸し作業を終えられることが特徴です。ただし、リスト上の在庫と現物の品目・数量が一致しなければならないので、リアルタイムでリスト出力できる在庫管理システムを導入していることが前提になります。
メリット | デメリット |
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リスト上の在庫(理論上の在庫)と品目・数量を一致させる作業になるので比較的短時間で完了する | システムに記録されていない在庫のカウント漏れなどが発生しやすい |
こちらでは「タグ方式(棚札方式)」を例にとって、作業の流れを説明します。
事前準備の流れ
- ・実施スケジュール策定
- 全体、各部門を含めて棚卸しのスケジュールを策定します。
- ・棚卸しの担当決定
- 棚卸しを行う場所、担当、役割を決定します。
- ・棚卸し票(棚卸しタグ)の準備
- 棚卸し当日に使用する棚卸し票(棚卸しタグ)を準備します。準備段階で通し番号を控えておきます。
- ・トレーニングの実施
- 棚卸しの記入方法などをスタッフにトレーニングします。
棚卸しの当日
棚卸し当日は、全員で手分けをして棚卸し票を現物に貼っていき、その後に現物と棚卸し票が一致しているか確認します。最終的には、すべての内容を合算して正式な棚卸し票を作成し、データをコンピュータに入力していきます。入力が終わると帳簿上の在庫と棚卸しの結果が比較し、差異を抽出し、明らかになった帳簿上の在庫と現物の差がなぜ生じたかを調査し、対策を講じます。また、最終的に棚卸しで判明した正確な在庫数をコンピュータ内の在庫データに置き換えます。
当日の流れ
- ・棚卸し票に記入
- 現物の数をカウントし、現物に棚卸し票を貼っていきます。
- ・棚卸し票のチェック
- 責任者が現物と棚卸し票を確認し、間違いがないか確認します。外部から監査法人が入っている場合は、監査法人の人間が確認を行います。間違いが多い場合は、棚卸し票への記入をやりなおします。
- ・棚卸し票の取り外し
- 現物から棚卸し票をすべて外し、外し忘れや通し番号を確認します。
- ・データ入力
- 棚卸し票に記載された数値をコンピュータに入力します。
- ・データ照合
- 棚卸しの結果と在庫データを照合し、在庫の差異を抽出します。
- ・対策の検討
- 在庫データと棚卸しデータに差異があった場合は、原因を調べて対策を立てます。
- ・在庫データの置き換え
- 最終的に棚卸しのデータを在庫データと置き換えて棚卸し完了となります。
従来の方法の問題点
一斉棚卸しでは、スタッフが目視で現物と帳簿上の在庫を突き合わせていくのでチェック漏れが起きる可能性があります。また、作業者の経験の違いで照合の迅速さや正確さにバラつきが発生しやすいことも課題です。さらに集計した棚卸し票をコンピュータに入力する作業でも入力ミスが起こる可能性を秘めています。このように一斉棚卸しでは、人為的なエラーがすべての作業で起こる可能性があり注意が必要です。しかも通常業務と並行しての準備やトレーニング、通常業務を止めての棚卸しと、効率の面でも大きな問題を抱えています。
- 一斉棚卸しの問題点
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- 在庫と帳簿のチェック漏れが生じる
- 数量のカウントミスが生じる
- 経験の違いで照合の迅速さや正確さに差が生じる
- 棚卸し票のPC入力で打ちミスが生じる
- 準備段階でスタッフに負担がかかる
- 当日は通常業務を止めるので非効率
ハンディターミナルの活用事例
ハンディターミナルを活用して棚卸しの課題や問題を解決した事例を紹介します。ハンディターミナルの活用は、迅速で正確な棚卸し作業を実現し、コストや時間の効率化にも有効です。
目視や手記入に頼らない正確で迅速な棚卸しが可能
「ミスの防止(ポカよけ)」でも説明していますが、人間の認知能力は小さな差異を見分ける能力や記憶力に限界があり、棚卸しのような数量のチェック、帳票との突き合わせといった作業でミスを犯します。とくに単純作業を繰り返し、疲労がたまってくるとその頻度も高くなります。棚卸しのような照合作業を連続して行うには、ハンディターミナルのような電子デバイスを活用が得策です。
時間と人的コストの削減にも直結
棚卸し作業にハンディターミナルを活用すれば、目視や手記入による照合ミス、コンピュータへの入力ミスを一掃でき、時間と人的コストの削減にもつながります。そして人間が行うよりも正確な在庫金額の集計や棚卸し帳票が作成できます。また、目視や人の手作業への依存が少なくなるので、通常の業務を止めずに一部の棚から順番に照合作業を行う「循環棚卸し」が可能になり、在庫管理の大幅な効率化が実現します。
- 一斉棚卸し
- 作業を止めてスタッフ全員で在庫を数え、棚卸し票に記入していく一般的な棚卸しの方法です。
- 循環棚卸し
- 作業を止めず、一部の棚から順番に棚卸しを行う方法です。英語では「サイクルカウント」とも呼ばれます。
- ハンディターミナルを活用した棚卸し作業の流れ
- ハンディターミナルで読み取ったデータがそのままシステムに転送されるので、記入漏れや打ちミスなどのエラーが生じる余地がありません。
RFID対応のハンディターミナルなら、棚卸しの工数を飛躍的に削減可能
「RFID(Radio Frequency Identification)」とは、専用タグ(RFタグ/ICタグ)のデータを非接触で読み書きする技術のことです。ある程度の障害物を越えて長距離通信が可能なため、棚や箱にかざすだけでその中の複数の専用タグを一括で読み書きできます。バーコードや2次元コードでの運用と異なり、製品・商品を棚や箱から1つずつ取り出して読み取る手間や時間がかかりません。
RFIDリーダライタ機能を拡張できるハンディターミナルであれば、棚や箱にかざすだけで複数の専用タグを一括で読み取れるため、棚卸しにかかっていた時間を飛躍的に短縮できます。さまざまな業界の倉庫はもちろん、小売店の売り場では棚にリーダライタをかざすだけで、一括読み取りが可能なため、通常営業と棚卸し作業を並行して行えます。
下記のページでは、物流の各シーンにおけるRFIDの活用方法を紹介しています。