レーザーとは?
そもそもレーザーとは何なのか、どのように生み出され、どういった特性を持っているかなどを徹底解説していきます。
光とは?
光とは「電磁波」の一種です。「電磁波」には波長という基準があり、波長の長い方から、電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線などと呼び分けられます。
色とは?
物体に当たった光の波長のうち、物体に吸収されずに反射された波長を人の目(網膜)が受け取ると、我々はその波長を物体の「色」として認識します。波長によって屈折率が変わるため光は分散します。その結果、我々はさまざまな「色」を認識できるのです。例えば赤いりんごは、(人間には赤色に見える特定波長の光線を含む白昼光を受けると、)赤い波長の光(600~700nm)を反射し、ほかの波長の光をすべて吸収します。※黒い物体は、すべての光を吸収するために黒く見えます。
可視光線とは?
電磁波のうち、人間の目で見える波長の範囲を「可視光線」と呼びます。短波長側が360~400nm、長波長側が760~830nmであり、「可視光線」より波長が短くなっても長くなっても、人間の目にはみることができなくなります。
レーザーと普通の光の違い
普通の光(ランプなど)とレーザーはこんなところが違います。まずレーザーからは指向性が高い光が発せられ、ほとんど広がることなくまっすぐに進みます。これに対し普通の光源からは四方八方に広がる光が発せられます。次にレーザーはひとつの色で出来ていて、これを単色性と言います。普通の光は一般にいくつかの色の混ざったもので、蛍光灯のように白く見えるものがその一例です。
さらにレーザーは光の波どうしの山と山のそろい方が時間的にきっちりそろっていて、レーザーどうしを重ね合せるときれいに山どうし・谷どうしが強め合い干渉縞が現われる可干渉性と言う特徴を持っています。
通常光 | レーザー光 | |
---|---|---|
指向性 (直進性) |
電球 | レーザー |
単色性 | 波長がバラバラ | 波長一定 |
可干渉性 (コヒーレンス) |
位相がバラバラ | 山と谷がそろっている |
レーザーの語源
“誘導放射による光の増幅”を意味する、
“Light Amplification by Stimulated Emission of
Radiation”の各単語の頭文字がLASERという言葉の語源です。
レーザーの原理
原子(分子)は外部からエネルギーを吸収すると、下準位(低いエネルギー状態)から、上準位(高いエネルギー状態)に移ります。この状態を励起状態と言います。
この励起状態は不安定な状態であり、すぐに低いエネルギー状態に戻ろうとします。これを遷移といいます。
このときにエネルギー差に相当する光を放出します。この現象を自然放射と言います。放射された光は、同じ様に励起状態にある他の原子に衝突して、同様の遷移を誘発します。この誘導されて放射される光を誘導放射と言います。
レーザーの種類
レーザーは大別すると、固体・気体・液体の3つに分かれます。
目的の加工用途により、最適なレーザーが異なります。
固体
- Nd:YAG
- YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)
-
基本波長(1064nm)
- 汎用マーキング用途
第二高調波(532nm)(グリーンレーザー)
-
- シリコンウエハなどへのソフトマーキング用途
- 微細印字、加工で使用
第三高調波(355nm)(UVレーザー)
-
- LCDの印字、リぺア加工、VIAホール加工等の超微細加工用途
- 液晶リぺア加工…コーティングパターンをカットして修復する工程
- VIAホール加工…プリント基板の穴加工
- YAGレーザー(Nd:YAG)
-
YAGレーザーは、汎用マーキング用途で使用され、樹脂材を始め金属材へのマーキングやトリミングなどの加工用途で使用されます。レーザー波長は、1064nmの近赤外光で目では見えません。
YAGとは、Y(イットリウム)・A(アルミニウム)・G(ガーネット)と言われる結晶構造をもつ固体で、この結晶にNd(ネオジウムイオン)と言われる発光素子をドーピングし、結晶のサイドから光(ランプやLD)を当てることで励起状態にします。
- Nd:YVO4(1064nm)
- YVO4(イットリウム・バナデイト)
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-
- 小文字マーキング用途
- 高いQsw周波数で高いピークパワー
- エネルギー変換効率が良い
-
- YVO4レーザー(Nd:YVO4)
-
YVO4レーザーは、より小さい文字や加工などの精細マーキング用途で使用されます。レーザー波長は、YAGと同じ1064nmの近赤外光で目では見えません。
YVO4とは、Y(イットリウム)V(バナジウム)O4(オキサイド)または、Y(イットリウム)VO4(バナデート)と言われる結晶構造をもつ固体で、この結晶にNd(ネオジウムイオン)と言われる発光素子をドーピングし、結晶のエンドから集光したLD光を当てることで励起状態にします。
- Yb:Fiber(1090nm)
- Yb(イッテルビウム)
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-
- 高出力マーキング用途
- 増幅媒体の表面積が非常に大きく、容易に高出力が可能
- 冷却効率が高く冷却機構が簡素化できるので、小型化が可能
-
- LD(650~905nm)
-
- 半導体レーザー(GaAs、GaAlAs、GaInAs)
気体
- CO2(10.6μm)
-
- 加工機、マーキング用途、レーザーメス
- CO2レーザー
-
CO2レーザーは、主に加工機やマーキング用途で使用されます。
レーザー波長は、10.6μmの赤外光で目では見えません。また、発振管内にはCO2ガス以外に、N2(窒素)やHe(ヘリウム)が規定量配合され、完全密閉状態で封入されています。
これを「封じ切りタイプ」といいます。N2はCO2のエネルギー順位を上げ、Heは逆に安定状態に下げる役割をします。
- He-Ne(630nm)(赤色)が一般的
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- 測定器用途(形状測定など)
- 最も多く出回っているレーザー
- 出力が低く形状測定などに使用
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- エキシマ(193nm)
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- 半導体露光装置、眼医療
- 不活性ガスとハロゲンガスを混合して比較的簡単な構造で生成可能
- 究極の紫外線レーザー(DUV)で、吸収率が非常に高い
- (眼医療では水晶体を蒸発させ、網膜に焦点を合わせる矯正に使われる)
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- アルゴン(488~514nm)
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- 理化学用用途
- 色々な色を出すことができ、主にバイオ関係など研究所で使用
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液体
- Dye(330~1300nm)
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- 理化学用用途
- レーザー光により励起された色素は、蛍光を発する
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波長ごとの特性
波長:10600nm
基本波長より10倍長い波長で、CO2レーザーがこの波長帯になります。世の中に一般的に出回っているレーザーの中で最も長い波長帯になります。
CO2レーザーとはその名の通り、炭酸ガスを媒質とした気体レーザーで、加工機やマーキングに使用されます。
10600nm波長帯の一般的な特長
- 金属にほとんど反応しない。(吸収されない)
- 波長が長いため、対象物に熱をかけて加工する傾向が強く、焦げやすい。
- ガラスやPETなどの透明体でも加工が可能。
- 基本波長に比べ、樹脂に対して発色しにくい傾向がある。
波長:1064nm
基本波長と呼ばれる波長で、最も汎用性が高い波長になります。
IRとも呼ばれる場合もありますが、IRとは英語のinfraredの略号で赤外線を意味します。赤外線とは名前の通り、赤色の外にある光で、人の目には見えない波長(780nmより長い光)のことを言いますので、IR=1064nmではありません。
1064nm波長帯の一般的な特長
- 樹脂から、金属まで幅広く加工が可能。
- ガラスなどの透明体は透過してしまうため、基本的に加工できない。
- 樹脂を発色させやすい。
-
同じ波長でも、発振方式によってビーム特性がかわります。
一般的に、ピークパワーが高く、パルス幅が短いほど、瞬間的に強いエネルギーを与えるため、熱ダメージが少なくなり、焦げ等を押さえることができます。
波長:532nm
基本波長の半分の波長で、SHG(Second Harmonic
Generation:第2高調波)レーザーと呼ばれます。
532nmの波長は可視光領域で緑色のため、グリーンレーザーとも呼ばれます。YAGやYVO4レーザーで生み出された基本波長を酸化物単結晶(LBO:リチウムボレート)に通して変換します。
532nm波長帯の一般的な特長
- 各種材質に吸収率が高く、金や銅などの反射率の高いワークへも容易に加工が可能。
- ビーム径が基本波長よりも絞れるため、より微細な加工が可能。
- ガラスなどの透明体は透過してしまうため、ほとんど加工できない。
- 対象ワークに熱ストレスを与えにくい。
- 金属のレーザー光吸収率
波長:355nm
基本波長の1/3の波長でTHG(Third Harmonic
Generation:第3高調波)レーザーと呼ばれます。また、紫外線領域のレーザーのためUVレーザーとも呼ばれます。基本波長を非線形結晶に通して変換された532nmの波長に基本波長を合わせ、さらにもう一つの単結晶を通過させることで355nmの波長に変換します。
各素材に対して吸収率が非常に高く、熱ストレスをかけないため、高品質を求められる微細加工に使われます。
355nm波長帯の一般的な特長
- 各種材質に対して吸収率が非常に高く、熱を与えにくい。
- ビーム径がSHGよりもさらに絞れるため、より微細な加工が可能。
- 吸収率が非常に高いゆえに、光学結晶にも影響を与えてしまい、メンテナンスや消耗品に費用が発生する。
レーザーの発振原理
レーザー光が発振するまでの原理について説明します。
1.励起
外部から光が入射すると、原子中の電子は光を吸収し、一番低いエネルギー状態=基底状態からより高いエネルギー状態になります。エネルギーが高まると電子は通常の軌道から外側の軌道に移ります。このエネルギーが高まっている状態を『励起』といいます。
- ■原子の状態
-
- ■電子の状態
2.自然放出
励起された電子は、吸収したエネルギー量に応じて、エネルギー準位が上がります。エネルギーを高められた電子は、ある緩和時間が経過すると安定しようとしてエネルギーを放出し、低いエネルギー状態に戻ろうとします。この時、放出したエネルギーと同じエネルギーの光が放出されます。この現象を『自然放出』といいます。
- ■原子の状態
- ■電子の状態
3.誘導放出
例えば、下図のように高いエネルギー状態にある電子が存在し、この電子が持つエネルギーと同じエネルギーの光が入射してくると、エネルギー・位相・進行方向が全く同じ光を放出します。つまり、入射時に1つだった光が出射時は2つになる現象が発生します。これを『誘導放出』といいます。
誘導放出された光は、エネルギー・位相・進行方向が揃っていますので、多くの光を誘導放出させることができればこの3つの要素が揃った強い光を創り出すことができます。レーザー光は、この誘導放出という現象を利用して入射光を増幅することで創り出されています。そのため、1.単色性(すべての光のエネルギーが等しい)、2.コヒーレンス(位相が揃っている)、3.高指向性(進行方向が揃っている)という特徴を持っています。
- ■原子の状態
- ■電子の状態
4.反転分布状態
レーザー光を誘導放出を用いて発振させるには、高エネルギー状態の電子の密度を低エネルギー状態の電子密度よりも圧倒的に高める必要があります=『反転分布状態』。つまり、吸収される光よりも誘導放出される光の数を上回らせることで、初めて効果的にレーザー光を創り出すことが可能になるわけです。
- 電子の反転分布状態
-
- =高いエネルギー状態の電子が多い
- =低いエネルギー状態の電子が少ない
5.レーザー発振
反転分布状態の時に1つの電子が光を自然放出すると、その光によって別の電子から光が誘導放出され光の数が連鎖的に増え、強い光が創り出されます。これがレーザー発振のしくみです。
- 電子の反転分布状態
レーザーの発振管の構造
レーザーの3要素
レーザー発振管は、次の3要素から構成されます。
- レーザー媒体
- 励起源
- 増幅器
- レーザー媒体
- 励起源
- 増幅器