国際工業規格と幾何公差
企業活動のグローバル化に伴い、製図分野でも国際的な標準化が進められており、各国の規格も国際標準に準ずるよう定期的に見直されています。
標準化のはじまり
図面の標準化に関する規定は、1938年に、ねじのはめ合いをサイズ公差(寸法公差)によって形状公差(形状偏差)も規制することを目的とした「テーラーの原理」に始まります。
その後、アメリカやカナダ・イギリスで形状や位置の公差についての規制を注記しようという検討が行われ、さらに従来の記述に代わる幾何公差方式についても議論されるようになりました。
ISOとJISの標準化
1950年以降、幾何公差記号の図面表記やデータムの定義、最大実体公差の研究などが進み1985年にISOが、続いて1988年にはJISが「独立の原則」を採用しました。
最近ではJISが、幾何公差表記について「寸法」という表記を「サイズ」に変更するなど、より国際標準に近い規格への改訂が進んでいます。また、測定機器のデジタル化を考慮した、製図規則のGPS(Geometrical Product Specification;製品の幾何特性仕様)規格化など、あいまいな解釈を排除する動きを強めています。
これら公差表示方式について、JISとISOは以下のように規定しています。
- JIS B 0024/ISO 8015「独立の原則」
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指示している「サイズ公差」と「幾何公差」は、特別な指示がない限り、それぞれに独立に指示されたものとして扱う。
- 「サイズ公差」は形状偏差を規制しない。
- 形状偏差は「幾何公差」で規制する。
- 長さサイズ公差は、2点間測定する。
アメリカの標準化
アメリカの規格団体は、ASA、ANSIからASMEへと変わってきましたが、どの規格でも「包絡原理」を採用してきました。包絡原理とは、「指示している公差付きサイズについて、対象がサイズ形体である場合は、幾何特性も規制している」という考え方です。つまり、ASMEの規定では、サイズ形体についてはISOやJISのようにサイズ公差と幾何公差を別に指定するのではなく、サイズ公差の指示が幾何公差の指示も兼ねるということです。
- ASME Y14.5-2009「包絡原理」
- 指示している「公差付きサイズ」は、サイズ寸法に対して、幾何特性も規制している。
一方で、2009年には「独立記号」を採用。包絡の原理を適用しない場合には、独自の記号で独立の原則を適用するなど、指示方法においてISOとの整合性を図るようになりつつあります。
ISOとASMEの対比
ISOとASMEは、ともに図面のグローバル化を目指し統一の動きは活発です。しかし、現在でも記号や記法に異なる点があります。図面を読み/描きするときには注意が必要です。
記号の違い
ISOとASMEでは、一部記号の表記に違いがあります。今後、どちらかに統一する提案が出されているものもあるため、これらの規格については最新情報の確認が必要です。
- 不当分配分の輪郭度
- ASME:ISO/JIS:UZ
- 最大実体境界(Maximum material Boundary)
- ASME:ISO/JIS:なし
- 最小実体境界(Least material Boundary)
- ASME:ISO/JIS:なし
- 接平面
- ASME:ISO/JIS:なし
- 平行移動
- ASME:ISO/JIS:なし
- 浅座ぐり
- ASME:ISO/JIS:なし
- 統計的公差
- ASME:ISO/JIS:なし
- 連続形体
- ASME:ISO/JIS:なし
- 可動データムターゲット
- ASME:ISO/JIS:提案中
解釈の違い
同じように指示されていても、規制の内容が異なる場合があります。以下はその一例で、他にも指示や考え方に違いがあります。詳しくは、専門の書籍などをご参照ください。
- <ISOの場合>
- サイズ公差と幾何公差は独立しているので、幾何公差(平面度)はサイズ公差に影響されず、指示した値(0.1)以内になります。
- <ASMEの場合>
- この図は「平行二平面」というサイズ形体なので、「包絡原理」が適用されます。幾何公差(平面度)の値は、実体状態に応じて変化します。サイズ公差に対し、最大実体状態の境界(30.1)が優先されます。