アルコール系消毒液で賞味期限などの印字が消えるトラブルの解決方法
製造現場から消費者の家庭まで、さまざまなシーンでアルコール系消毒液を使った手やモノの消毒が行われるようになりました。アルコール消毒は、衛生面で有効である反面、産業用インクジェットプリンタで印字した賞味期限などの大切な情報が、アルコールの付着によって消えるというトラブルが問題視されています。
ここでは、製品の製造から市場流通、使用に至る過程において、アルコールが原因となって印字が消えてしまうトラブルとその対策について解説します。
賞味期限などの印字がアルコール系消毒液で消える要因
製品に印字される、食品の賞味期限や医薬品や化粧品の消費期限、電池やスプレー缶などの製造年月日、そしてトレーサビリティに欠かせないロットナンバーなど。これらの印字は、さまざまな製品の生産・流通・販売、消費者による使用、生産者による品質保証において重要な情報です。
しかし、近年はアルコール系消毒液が製品の印字部分に付着することにより、これらの大切な印字のインクが溶けて消えてしまうという問題が浮上しました。
以下では、生産から消費までの間で、アルコールによって印字が消えてしまうリスクをシーン別に挙げます。
製造現場で賞味期限などの印字が消える要因
製造現場では、自動化された工程の多少にかかわらず、作業員が製品に触れる機会がまったくないとは限りません。一般に、作業員は現場に入るたび手をアルコール系消毒液で消毒するため、手に残ったアルコールが製品に付着すると、賞味期限・消費期限・製造年月日・ロットナンバーなどの印字が消えてしまう場合があります。
製造現場で人が製品に触れる機会、印字が消える可能性があるシーンの例を下記に挙げます。
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- 手作業での加工
- 製品の整列
- 次工程への移動
- 装置やラインへの投入
- 検品作業
- 製品に付着した汚れの除去
- 箱詰め作業
これらの諸作業以外にも、手作業の工程で多能工が業務や持ち場を移動するたびに手を消毒する場合も注意が必要です。アルコールの付着に加え、ライン搬送での摩擦が印字のかすれや消滅を助長するケースもあります。
倉庫でのピッキング時に賞味期限などの印字が消える要因
メーカーや製品の卸売・問屋などの倉庫では、出荷先の小売店の規模にかかわらず、注文に応じた細やかなピッキングが欠かせません。また、スーパーマーケットやショッピングセンター、ドラッグストア、コンビニエンスストア、外食チェーン店などの倉庫でも、あらかじめ大量に仕入れたセンター在庫から店舗ごとに分配したり、ロスがないよう各店舗の在庫量を移動して調整したり、客注で特定の商品をピンポイントに移動したりといった際にも手作業は不可欠です。
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細やかなピッキングや検品、仕分け作業は完全に自動化されているとは限らず、手作業で行われる工程も少なくありません。また、インターネット通販や食品・日用品の宅配サービスでのピッキングにおいても、店舗在庫からの販売や小規模な倉庫から出荷する場合は、人の手で商品に触れなければなりません。
このように製品の中継・分配における手作業の工程でも、作業員は衛生上、手をアルコール系消毒液で消毒してから製品に触れることになります。ここでもアルコールが印字部分に付着し、賞味期限や消費期限、製造年月日、ロットナンバーなどが消えてしまうリスクがあります。
小売店で賞味期限などの印字が消える要因
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小売店に入荷した商品は、店員が手作業で棚に陳列し、消費者はその商品を手に取ります。営業中、店員は棚の商品が減ると、残っている商品を手前に置いてバックヤードの商品を補充する「前出し」の作業を頻繁に行います。ほかにも、特売の値札やキャンペーン用シールなどの貼り付けや売り場の移動、そして、レジでの精算時など商品を何度も手に取る必要があります。特に食品の賞味期限が消えてしまうと、食品表示法違反となってしまいます。
店員だけでなく、小売店で買い物をする消費者もアルコール系消毒液で手を消毒して入店し、商品を手に取ります。このように、小売店は商品の流通において商品が直接素手で触られる機会が最も多い場所であるといえます。つまり、製造現場から離れるほど、製品が触れられる機会が多くなり、アルコール系消毒液が付着して印字が消えてしまうリスクが増加するといえます。
商品購入後に賞味期限などの印字が消える要因
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消費者は買い物から帰った後はもちろん、普段の生活のなかでもアルコール系消毒液で手を消毒します。アルコールが付着した手で印字部分に触れることにより、賞味期限などの印字が消えてしまうと、食べたり使ったりする際に不便が生じます。
また、万一製品に不具合が見つかり、メーカーや製造元が現品を回収しても、ロットナンバーなどが消えてしまっている場合、該当ロットの特定や原材料のサプライチェーンを含めた原因究明が困難になります。
市場で深刻な不具合が発覚しても、再発防止策や自主回収すべきロットが特定できないため、本来必要な数量を上回る自主回収や製造・出荷の一時停止など、大規模な損失へと発展する可能性があります。
アルコールで印字が消えないための対策と注意点
通常、賞味期限や消費期限、製造年月日、ロットナンバーといった重要情報の印字は製造現場で行います。これまで挙げたような、製造・出荷後にアルコール系消毒液の付着で印字が消えるリスクは、ほとんどの場合、製造現場での印字工程でしか回避することができません。
印字工程での有効な対策として、産業用インクジェットプリンタに使用するインクの検討が挙げられます。しかし、アルコール系消毒液で印字が消えないようにするためであれば、どんなインクを使用しても問題がないというわけではありません。有機溶剤系インクなどは、接着性が高いためアルコールが付着しても比較的消えにくく、優れた速乾性でタクトタイムの短縮にも有効です。
その反面、有機溶剤系インクなどの多くは法令・規則上、厳しい安全確保や管理、運用が求められ、追加コストが発生する場合があります。一方、安全性を優先したインクでは、印字が消えやすい場合があります。法令・規則に対応する安全性とアルコールで消えないという、両方の要件を満たしてこそ、有効な対策といえます。ここでは、対策におけるインク選びの注意点や課題を紹介します。
法令・規則への対応や安全性を考慮してインクを選ぶ
産業用インクジェットプリンタでの印字で、アルコール系消毒液が付着しても消えにくい接着性や、生産性を低下させない速乾性を得るには、有機溶剤系インクが適しています。ただし、インクに含まれる有機溶剤の分類によって安全管理や運用体制などを規定した「有機則(有機溶剤中毒予防規則)」を遵守する必要があります。
多くの場合、法令・規則に対応した管理や運用を実施するには、追加のコストが発生してしまいます。
有機則に関する詳しい情報は、下記のページをご覧ください。
安全性が高いインクを選ぶ際の注意点
一般的な産業用インクジェットプリンタのインクには、印字対象物への高い接着力や速乾性を得るために「メチルエチルケトン(以下:MEK)」などの高揮発性物質が含まれています。MEKは、第二有機溶剤であるため、有機則では、使用にあたって排気設備の設置や専任者の任命、人員の健康診断といった対応が求められます。こうした背景から近年は、MEKを含有しないことにより、法令・規則への対応の簡素化を実現したエタノールインクなどの「MEKフリーインク」が注目されるようになりました。
しかし、MEKフリーインクの多くは安全性が高い反面、従来の有機溶剤系インクなどに比べて、印字対象物への接着力が弱い傾向があります。そのため、目的に反してアルコールの付着や摩擦などによりインクがかすれてしまったり、消えてしまったりする可能性があります。また、乾燥速度が遅いため工程の条件によっては、にじみ防止のためにラインスピードの検討が必要になるケースもあります。
このように、目的に適ったMEKフリーインクの選定や活用は、これまで容易ではありませんでした。
安全かつ消えない「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」のメリット
キーエンスでは、法令や規則に対応*しやすい安全性を持ちながら、従来のMEKフリーインクの弱点を克服した「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」を新たに開発しました。高い安全性と接着性、耐アルコール性により、アルコール系消毒液や摩擦で印字が消えにくいという性質を持っています。
*作業内容に応じて、事業者が保護方策について判断する必要があります。
ここでは、実際に「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」で印字した部分にアルコールを付着させたときの様子とともに、そのメリットを紹介します。
メリット1:高濃度アルコールを吹きかけても印字が消えない
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従来のインク
高濃度アルコールを吹きかけただけで、印字がにじみ、溶けて消えてしまいます。
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耐アルコール 強接着 MEKフリーインク
高濃度アルコールを吹きかけても、印字がにじんだり消えたりしません。
メリット2:接着力を強化。擦れたり、アルコール系消毒液で拭いたりしても印字が消えない
「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」は、従来のMEKフリーインクの弱点だった接着力を強化。印字直後に性能を発揮するため、製造工程でのライン搬送時はもちろん、出荷後の取り扱いで印字部分が擦れても、かすれたり、消えてしまうといったトラブルを回避できます。
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従来のインク
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耐アルコール 強接着 MEKフリーインク
加えて、耐アルコール性であるため、製品出荷後に小売店の店員または消費者が、アルコール系消毒スプレーを吹きかけて、印字部分を拭いたとしても、印字がにじんだり消えたりする心配がありません。これにより、印字の保持と衛生面への配慮を両立することができます。
メリット3:高い安全性で法令・規則に対応でき、導入が簡単
「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」は、印字での性能だけでなく、安全性に配慮した成分で構成されていることも大きなメリットです。多くの現場で有機則(有機溶剤中毒予防規則)に対応*でき、追加の管理・運用コストをかけることなく、スムーズな導入が可能です。
*作業内容に応じて、事業者が保護方策について判断する必要があります。
このように、高性能で安全な「耐アルコール 強接着 MEKフリーインク」を導入することで、製品がさまざまなシーンを経ても賞味期限・消費期限・製造年月日・ロットナンバーなどの重要な印字を保持することができます。
MEKフリーインクや産業用インクジェットプリンタのラインナップ・仕様などの詳しい情報は、カタログをダウンロードしてご確認ください。