トレーサビリティ
「その製品がいつ、どこで、誰によって作られたのか」を明らかにするため、原材料の調達から生産、消費または廃棄まで追跡可能な状態にする「トレーサビリティ」という概念。昔から製造業では、品質管理・品質保証の観点で実施されてきましたが、近年では安全意識の高まりもあり食品・医薬品業界でも一般的になっています。こちらでは、トレーサビリティの基本的な知識に加え、ハンディターミナルシステムを使ったトレーサビリティの流れやメリットをご紹介します。
トレーサビリティとは
トレーサビリティ(Traceability)とは、「トレース(Trace:追跡)」と「アビリティ(Ability:能力)」を組み合わせた造語で、日本語では「追跡可能性」と訳されます。自動車や電子部品、食品、医薬品などの業界によって多少定義は異なりますが、製造業を例にするとトレーサビリティの意味は以下のようになります。トレーサビリティについては、国際標準化機構のISO9001でも定められています。
原材料・部品の調達から加工、組立、流通、販売の各工程で
製造者・仕入先・販売元などを記録し、履歴を追跡可能な状態にしておくこと
製造業では、古くからトレーサビリティの概念が浸透しており、特に自動車業界はリコール制度に対応するために早くから導入されています。そしてリコールの範囲が拡大するにつれ、不具合発生時に迅速に回収・改善できるようにトレーサビリティの確保は業界問わず求められるようになります。
また、2000年台初頭に起きたBSE(狂牛病)問題もトレーサビリティを世間に広めるきっかけになりました。BSE(狂牛病)問題を受け、農林水産省は2003年に「牛トレーサビリティ法」を導入。国内で生まれたすべての牛を個体識別し、業者に仕入れ・販売の記録を義務付けました。さらに日本人の主食である米を対象にした「米トレーサビリティ法」をはじめとした「食品トレーサビリティ法」を本格的にスタートし、食の安全確保に乗り出しました。同年に厚生労働省が施行した改正薬事法では、血液製剤やワクチンなどの生物由来製品を取り扱う事業者・医療関係者にトレーサビリティ管理を義務づけるなど、トレーサビリティは食品・医薬品でも一気に拡大し、現在に至ります。
チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティ
トレーサビリティにはさまざまな捉え方がありますが、「チェーントレーサビリティ」と「内部トレーサビリティ」に分けることができます。ちなみに上述したトレーサビリティの概念は、チェーントレーサビリティに該当します。
- チェーントレーサビリティ
- 複数の工程(メーカー間)の製品の移動が把握できます。
- 内部トレーサビリティ
- 1つの工程内の製品の移動が把握できます。
トレースフォワード(追跡)とトレースバック(遡及)
トレーサビリティでは、部品・製品を個別またはロット単位で識別し、それぞれの工程で情報を蓄積します。そして蓄積した情報をもとに部品・製品の移動を時間経過に沿って追跡することを「トレースフォワード(追跡)」、逆に時系列をさかのぼって記録をたどることを「トレースバック(遡及)」と呼びます。
- トレースフォワード(追跡)
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時間経過に沿って部品・製品を追跡すること。例えば、ある部品で不良が判明したときに、迅速にその部品が使われている製品を特定し、ピンポイントで回収することに役立ちます。リコールや不良品回収の対策として有効です。
- トレースバック(遡及)
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時系列をさかのぼって記録をたどること。例えば、出荷した製品に問題が起きたときにトレースバックできれば、影響のあるロットや工程を特定でき、原因究明することができます。工程改善・品質改善に有効で、製品品質の向上や安定に有効です。
ハンディターミナルでの運用
トレースフォワードやトレースバックは、各工程での情報が適切に記録・保存されていることが大前提になります。製品番号やロット番号のほか、生産地や賞味期限、製造日時や検査内容、入出荷先などを工程ごとに取得する必要があります。
トレーサビリティでは、情報を伝達する識別記号を「表現様式」、ラベルや電子タグなどの記録するものを「伝達媒体」、収集・管理する紙の台帳やパソコンなどを「記録媒体」と呼びます。一番手軽なトレーサビリティの手法は、文字(表現様式)を手書き伝票(伝達媒体)で伝え、台帳(記録媒体)に書き写す方法ですが、多くの情報を記録するには手間もかかり非効率です。そこでトレーサビリティを確保するには、バーコードや2次元コード、それらを読み取るハンディターミナルなどが一般的に使用されます。
ハンディターミナルを用いたトレーサビリティ
トレーサビリティのシステム化を実現するためには、各工程で作業の履歴を取り、データを一元で管理することが重要です。バーコードを利用すれば、ハンディターミナルで読み取るだけで、簡単に情報を集めることができます。
ハンディターミナルのメリット
トレーサビリティを確保するためにハンディターミナルを導入するメリットについてご紹介します。
日付の管理が容易にできる
トレーサビリティでは、「その製品がいつ、どこで、誰によって作られたのか」を工程ごとに収集・記録する必要があります。ハンディターミナルシステムを導入すれば、自動で日付情報を付与することができるので、手軽にトレーサビリティを実現します。
手書きによる漏れ・ミスを撲滅できる
台帳などを使って手書きで管理する場合、どうしても記入漏れ・記入ミスなどが発生する可能性があります。バーコード・2次元コードであれば、記入漏れ・記入ミスなどをゼロにすることができます。
情報管理が容易にできる
ものづくりの現場で、すべての部品・製品の情報を管理するには膨大な手間・コストがかかります。しかし、バーコードや2次元コードであれば簡単に付与することができ、デジタルデータなので管理も簡単です。品目単位・入荷日単位・ロット単位・賞味期限単位など単位ごとにトレースすることも簡単です。
トレースフォワード・トレースバックが簡単にできる
ハンディターミナルで収集したデータは、パソコンやサーバ上に保管されているので情報の検索・閲覧が簡単にでき、迅速なトレースフォワード・トレースバックが可能です。
複数工程・工場間でのトレース情報の紐づけが容易
同一のバーコードや2次元コードを使用すれば、複数の工程や工場間での情報の共有・紐づけやトレースも簡単に行え、チェーントレーサビリティの実現に貢献します。