動力の伝達要素である歯車やベルトには、駆動時に大きな荷重(力)が複雑な方向から作用します。したがって、これらの機械要素を設計したり選択するときは、かかる荷重と方向を想定しなければなりません。想定を誤ると機械要素が破損し、トラブルの原因になりかねません。ここでは、これら伝達要素の一般的なタイプを例に、機械要素にかかる荷重と方向について考察します。
歯車の歯には、曲げ荷重や接触圧力・圧縮荷重などが加わります。歯車を使うときは、これらの負荷を十分に検討する必要があります。歯車の強さの計算方法は、大きく2つにわかれます。1つは硬度(硬さ)が高く、ピッチングによる損傷の可能性が低い場合の「曲げ荷重(曲げモーメント)」であり、もう1つは硬度が低かったり長時間運転する場合の「歯面強さ」です。
「曲げ荷重」とは、1枚の歯にかかる荷重のことです。材料力学の「梁(はり)理論」によると、片持ち梁の場合は梁の付け根に大きな荷重がかかることが知られています。歯車の場合も、歯を集中荷重がかかる片持ち梁(はり)として考え、その付け根にかかる荷重を曲げ荷重とします。
曲げ荷重
A:ピッチ点
歯車を片持ち梁と見なすと、歯車にかかる曲げ荷重(曲げモーメント)は、以下の式で求めることができます。
- M:曲げ荷重
- F:荷重
- l:歯の全長
- σ:最大曲げ応力
- Z:断面係数
「断面係数(Z)」は、歯のピッチ部の
で求めます。また、「最大曲げ応力」は
です。
実際には、歯車の歯は曲線や丸みがある複雑で立体的な形状であるため、強度を簡単に求めることはできません。また、回転中のトルク変動や加工・取り付けなどの誤差も考慮する必要があります。したがって、歯車の歯にかかる曲げ荷重(曲げモーメント)は、使用条件を十分に考慮し求める必要があります。
「歯面強さ」とは、歯面全体にかかる圧力の限界のことです。歯車どうしはピッチ点で接触し、回転力を伝えます。
歯車どうしの接触では歯は大きな力を繰り返して受けるため、歯面に摩耗や傷が発生します。また、小さな亀裂から「ピッチング」といわれる破損を引き起こすことがあります。
このようなトラブルを防ぐために、「ヘルツの最大接触応力」と呼ばれる接触面に変形を伴う場合の応力に基づいて強度計算を行い、使用する歯車の歯面強さをあらかじめ求めておきます。
ベルトの張り方は、ベルトがたるまない程度が適正です。張り過ぎはベルトの寿命を低下させ、張りがゆるい場合は衝撃的な負荷または起動トルクが大きいとベルトがプーリー溝からジャンプして乗り上げることがあります。ベルトの張りは、数値で管理することができます。
ベルトの適切な張りは、スパンとたわみ・張り荷重で求めることができます。張りは、スパンの中央に張り荷重(Fδ)をかけ、たわみ量がδになるように調整します。タイミングベルトの場合、たわみ量は、「テンショナー(アイドラー)」といわれるローラーで調整します。
タイミングベルトの張り調整
①スパンの計算
- Ls:スパン長さ(mm)
- C:軸間距離(mm)
- Dp:大プーリピッチ円直径(mm)
- dp:小プーリピッチ円直径(mm)
②たわみの計算
③張り荷重の計算
- Fδ :たわみ荷重(N)
- Ls:スパン長さ(mm)
- Lp :ベルトピッチ周長さ(mm)
- To:初張力*(N)
- Y :定数*(N)
- 「初張力」と「定数」
- 初張力は、ベルトをプーリーに取り付けた際の張力。定数はベルトの幅や呼び幅など、ベルトの種類によって決まっている値。
- A: タイミングベルト
- B: テンショナー(アイドラー)
現在、ほとんどの4ストロークエンジンでは、燃焼室の吸気バルブと排気バルブの制御はカムを回転させて行います。このカムを回転させる動力の伝達はチェーンやベルトによって行います。しかし、かつて内燃機関による大きな荷重と高速回転はチェーンやベルトが伸びる原因になり、高回転エンジン開発のネックになっていました。そこで、エンジンの高回転化を実現するために誕生したのが歯車(ギヤ)でカムを動作させる技術でした。
通常、チェーンやベルトは高速回転するとフリクションロス(摩擦によるロス)や遠心力の影響で、動作精度が低下します。一方、歯車は高負荷・高速回転の条件でもロスが少なく、同時に吸・排気バルブの動作精度を高めることも可能です。そして、この技術が投入されたエンジンは高回転化を実現し、市場にも受け入れられました。
しかし現在、この技術を一般車両で見ることはありません。
エンジンの高回転化というメリットと引き換えに製造コストが増大したことやメカノイズ(機械的動作音)が大きいこと、さらにチェーンやベルトの精度や強度が向上したことなどが理由で、歯車によるエンジンの高回転化という技術は市場から姿を消しました。チェーンやカムを上回る精度と強度によって、それらに代わって使われるようになった歯車が、さらに精度と強度を高めたチェーンやベルトに代わったということです。
現在、吸・排気バルブの動作は、ほとんどがベルトやチェーンによるものですが、必要部分のみに歯車を用いたエンジンもあります。さらに、電磁力でバルブを動作させる、チェーンも歯車も使わない「電磁式バルブ」も開発されつつあります。この先、歯車やチェーン・ベルトがどのように進化するのか、外から見えない熱いエンジンで、最新技術の開発は今も続いています。
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