ばねの多くは金属線材でできた金属ばねですが、他にゴム製やプラスチック製のばねがあり、さらに気体やオイルを利用した流体ばねもあります。
最も一般的な金属ばねには、「硬鋼線(SW)」または「ピアノ線(SWP)」が使われています。硬鋼線が幅広い用途に使われている一方、ピアノ線はレシプロエンジンのバルブスプリングやブレーキスプリングなど、高い信頼性が求められる用途に使用されています。
さらに、ピアノ線よりも引張強度が高く、硬さや耐熱性に優れている材料に「オイルテンパー線」があります。オイルテンパー線には、炭素鋼と低合金鋼があり、いずれも硬鋼線やピアノ線よりも大きな機械のばねに使用されています。
ばねの材料として使われるステンレス材とピアノ線材の特徴は、以下の通りです。
主なステンレス材とピアノ線材の特徴
種類 |
記号 |
特徴 |
縦弾性係数: E(GPa) |
横弾性係数: E(GPa) |
ステンレス材 |
SUS304-WPB |
最も一般的な材料。SUSの規格ばねは、すべてこの材質を使用。 |
186 |
69 |
SUS316-WPA |
SUS304-WPBより耐食性に優れ、錆びにくい。 |
SUS631J1-WPC |
耐熱温度に優れ、約350°Cまで使用可能。ばね特性も高いがコストも高い。 |
196 |
73 |
ピアノ線材 |
SWP-A |
SWP-Bと共に一般的な鉄系材料。 |
206 |
78 |
SWP-B |
A種に比べ耐久性の面で優れる。 |
SWC |
上記2種に比べ安価だが、特性全般が劣る。 |
また、線の太さが同じ場合、ステンレス材とピアノ線材を比較すると、特性は以下のようになります。
ステンレス材(SUS304WPB)とピアノ線材(SWP-B)の比較
比較項目 |
結果 |
荷重 |
SUS304-WPB < SWP-B |
疲れ強さ(耐久性) |
SUS304-WPB < SWP-B |
さびにくさ(耐食性) |
SUS304-WPB > SWP-B |
耐熱温度 |
SUS304-WPB > SWP-B |
磁石へのつきにくさ(磁性) |
SUS304-WPB > SWP-B |
コスト(材料費のみ) |
SUS304-WPB < SWP-B |
ゴムばねは、主に防振に使用されます。金属ばねに比べてゴムばねは、
- 形状の自由度が高い
- 共振時の振幅が抑えられ、サージング現象が起こらない
- 静粛性が高い
- 小型・軽量・安価
など、多くのメリットを持っています。これらの特性から、小型自動車のサスペンションとしても利用されていた時期もありました。
一方で、温度や油・オゾンによる劣化の心配がありますが、材料を正しく選択することでこれらの問題を避けることができます。
以下に、例として防振ゴムに使われるゴムの材料特性を示します。
防振ゴムの材料特性
ゴムの種類 |
略号 |
特性 |
温度範囲(°C) |
天然ゴム |
NR |
ゴム弾性、低温特性に優れる。 |
-30~-60 |
ポリクロロプレン (ネオプレン) |
CR |
耐候性、耐熱性に優れる。 また、ある程度の耐油性も備える。 |
-20~80 |
ニトリルゴム |
NBR |
耐油性、耐熱性に優れる |
-10~80 |
ブチルゴム |
IIR |
耐熱性、減衰性能に優れる。 |
-10~80 |
シリコンゴム |
Q |
耐熱性、耐寒性に優れる。 |
-40~130 |
エチレンプロピレンゴム |
EPT |
耐熱性、耐候性に優れる。 |
-20~80 |
流体ばねは、気体や液体といった流体を使ったばねです。流体(作動油・ガスなど)を満たした密閉容器にピストンを取り付けて、ピストンに負荷をかけると、パスカルの原理*により密閉容器全体に圧力がかかります。流体ばねは、この圧力を利用したばねです。密閉容器にバルブを取り付け、圧力を制御することでばねの強さを変えることができます。このような流体ばねは、負荷に対して最適なばねの強さを設定することができます。また、負荷が大きすぎる場合は、バルブから圧力を逃がすことでばねの破損を防ぐことができます。
一方で、流体を密封するためのシール材や圧力源である流体を格納するタンク、圧力を制御する場合は制御装置が必要です。また、温度変化による流体の粘度変化によって、ばねの強さが変わる場合があります。
さまざまな長所と短所を持つ流体ばねですが、シール材や流体の性能向上や制御が可能であることから、自動車のサスペンションやエンジンマウント、建築物の制振装置といった大きな力を制御するばねとして、多くの現場で利用されています。
- パスカルの原理
- 密閉されている容器中の流体に加わる圧力は、容器の形状に関係なく、ある一点にかかる圧力を流体の他の部分にも伝えるという原理。
ハイドロニューマチックサスペンションは、気体と液体を使ったサスペンション機構です。通常のばねに当たる部分に「スフィア」といわれるボール状の部品とシリンダーがあり、これがばねの機能を担います。スフィアの中にはガスとオイルが封入されていて、ガスに油圧をかけることで、ガスがばねの機能を果たします。
オイルには植物性オイル(LHS)や鉱物性オイル(LHM)が用いられ、最近では化学合成オイル(LDS)が一般的です。また、ガスには窒素ガスが使われます。
この機構には、荷重が大きくなれば自動的にばね定数(バネレート)が大きくなり、荷重が小さくなれば元に戻るという特徴があります。「油圧サス」や「エアサス」ともいわれ、高級車のサスペンションを中心に、さまざまな分野で利用されています。
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