朝日信用金庫

朝日信用金庫 副理事長 三澤 敏幸氏、総合企画部 経営企画課 河原 遼太氏、デジタル戦略部 デジタル企画課 宮本 祐二氏に、KIを導入した経緯とその効果について詳しく聞きました。

「部署内、実験店舗、全店舗と徐々に活用範囲を広げています。お客さまとの対面接触が難しくなった分、データ分析を通じて顧客理解を深めていきます」

朝日信用金庫

朝日信用金庫は台東区、江戸川区など東京都東部を主な事業地域とする信用金庫です。創業は1923年(大正12年)で来年は創業100周年を迎えます。

預金残高 2兆3,370億円
貸出金残高 1兆4,419億円
役職員数 1,412名
店舗数 64店舗

うち有人出張所:5

インターネット支店:1

創業 1923年

(令和4年3月末時点)

※この事例に記述した数字・事実は特段の記載がない限りすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数で記述しています。

KIの活用概況

朝日信用金庫では、KIをどう使っていますか?

朝日信用金庫では、お客さまと直接お会いする信用金庫ならではの価値に加え、デジタルの便利さを駆使することで、お客さまにさらに寄り添っていきたいと考えています。今年2月には「デジタル戦略部」を新設し、庫内業務や商品、サービスのデジタル化に取り組んでいます。

2021年に導入したKIによるデータ分析も、その一環です。すでにフリーローンや定期預金の成約などで、目に見える成果が上がっています。現在は「顧客別・商品別需要リスト」の作成に着手しています。

コロナ禍がデジタル推進の契機に

朝日信用金庫がデータ分析に本格的に取り組むようになった経緯を教えてください。

朝日信用金庫は1923年8月に東京都台東区で創立、1ヶ月後に関東大震災が起きたため、図らずも地元経済の復興を金融面で支える役割を担うことになりました。その後も台東区、江戸川区を中心に、卸売業など中小企業の経営、地元の皆さまのくらしに貢献してきました。

信用金庫の営業は直接対面が基本です。担当するエリアを自転車で回り、お客さまの様子に目をくばり、都度、必要な金融支援をご提案する、あるいはご相談を受ける、そんな形を大事にしてきました。

この直接対面は信用金庫の顧客価値の根本であり、今後も堅持します。しかし近年、金融業界では外部環境が激変しています。その変化は一過性のものでなく、将来にわたる恒久的な構造変化と予想されます。

それを考えれば、今の直接対面だけでは、将来的な顧客ニーズに対応しきれない可能性がある。この中期的な危機感は、経営層を中心に根強くありました。その解決手段としてのデジタル化の推進は、長年に渡り当庫の課題であり、これまでもさまざまな取り組みを展開してきました。

このデジタル化は、2020年に始まったコロナ禍を契機に、決定的に加速しました。緊急事態宣言のときは、顧客との直接対面が根こそぎ不可能になり、当庫にとっても大きな打撃でした。しかし一方でその状況を、「デジタル化を推進する一大好機」ととらえ、すでに発足していた「業務改革プロジェクト」をさらに強化しました。

まず、これまで営業担当者がお客さまを訪問して集めていた定期積金については、コロナ禍により対面でのお取引に不安を感じるお客さまも多くいたため、自動振替への切替を推奨しました。その結果、最終的に自動振替率が8割まで高まりました。さらにペーパーレスも推進し、支店での書類保管を極力廃止したところ、多くの支店で、以前は書庫だった空間が、会議室など別の用途に使えるようになりました。また、テレワーク環境も整備し、自宅からでも稟議書の作成を始め、さまざまな業務がおこなえるようIT体制を整えました。加えて「データ分析」も重点的に進めました。

KIへの印象

「データ分析を重点的に進めた」とは具体的には?

信用金庫の業務は「顧客理解を深める」ことが重要です。お客さまのデータをよく分析すれば、対面接触とは別の角度から、さらに広く深くお客さまを知ることができる、そう考えました。

そんな折、KIのことを知り、デモを見ることになりました。最初は特に期待していなかったのですが、デモを見るにつれ「使いやすいシステムだ。これならデータ分析の専門知識がない職員でも進んで使いこなせそう。」と印象が変わりました。

実はKIに先行して、依頼した分析を実施してくれる競合他社のサービス(以下競合サービス)による分析プロジェクトも進んでいました。まずはKIによる分析と、同プロジェクトによる分析の両立てで、データ分析を進めることにしました。

「小回りの良さ」を重視

すでにデータ分析プロジェクトが進む中で、新たにKIも導入したのはなぜですか?

競合サービスで使われているソフトウエアは、長年の定評と実績がある高性能なシステムで、費用面でもKIより割安でした。それでもあえてKIを導入したのは、KIは「小回りの良さ」の点で当庫にマッチすると考えたからです。

「小回りの良さ」とは、分析しながらよく考え、気づきがあったら「すぐ試す」、そんな気軽な使い方のことです。しかし競合サービスでは、「分析に必要なデータを揃えて提出し、結果を待つ」という方式なので、柔軟性、機動性は期待できず、そこが気がかりでした。

その後、社内で検討し、「まずは1年、KIを試してみる。1年間は競合サービスとKIの両方を使う。やってみて無意味とわかったらKIは1年で使用をやめる。」という結論に達しました。そしてKIを導入し、まず「フリーローンを新規開拓するためのDM(ダイレクトメール)送付先抽出」を、KIと競合サービスの両方で試みました。

すると、非常に興味深い結果が現れました。

DM反応率か、それとも成約率か

「興味深い結果が現れた」とは具体的には?

DMの反応率は競合サービスの方が好成績でした。しかし最終的な成約率(※)はKIのリストの方が高かったのです。

何がこの違いを生んだのか。どうも「KIでの分析のときは、顧客属性情報を多く盛り込んだ」ことが要因のようでした。

競合サービスの方で使ったデータは、DMの「反応率を最大化」することを目的にしたものでした。その方針は間違っておらず、DM反応率はよく高まりました。

一方、KIによる分析では、当庫の分析担当者が「これはフリーローンだ。いくらDMの反応が良くても審査を通らないことには成約にならない。審査判断で使う属性情報をもっと盛り込もう。」と考え、データを追加しました。その結果、DM反応率はそこそこでも、成約率で上回りました。

「小回りの良さ」の重要性が良くわかる出来事でした。

※DM反応率と審査通過率のかけ算

トライアル店舗での試用

その後、どんな分析をおこなったのですか?

KIの有効性を探るべく、さらに検証を続けました。次はいくつかの支店をトライアル店舗として選び、定期預金の新規開拓のためのリスト抽出をおこないました。

手順としては、まず全支店、全職員に向け「業務改革プロジェクトではデータ分析を推進しています。今度、意見交換会を開きます。誰でも参加できます。」と呼びかけました。これに対し、支店長から若手職員まで何人かが手を挙げました。そして意見交換会の参加者が所属する支店に、KI検証のトライアル店舗となるよう依頼しました。最初からデジタル化に関心の高い職員がいる支店に依頼した方が、実証試験が円滑に進むと考えたからです。

その後、各支店の意見を聞きながら、見込み先のリスト抽出をおこない、新規開拓に活用してもらいました。そして3ヶ月後、あらためて各店舗に感触を聞いたところ、「データ分析は使う価値がある。今後も使いたい!」という手応えある回答が返ってきました。

まず「KIにより、経験則では思いつかない、意外な訪問先が提示された」という感想がありました。従来、新規開拓の訪問先は、営業担当者がKKD(勘、経験、度胸)で選んでいました。これももちろん有効ですが、一方で「行きやすいところに行ってしまう」「マンネリ化する」という難点もありました。

しかしデータ分析をおこなうと、つい見落としがちな「意外な訪問先」が提示される。だまされたと思って訪問すると、けっこうな確率で成約に至る。これはよい、という感想でした。

また「若手の成績がハッキリ伸びる」という利点もありました。一般論として若手には、行動力はあっても経験、勘、得意先がありません。そんな彼らに、KIが抽出した先に行かせてみる。すると持ち前の行動力で成約を取ってきます。KIを使っている店舗、使っていない店舗で若手の成績を比べたところ、そこには偶然で片付けられない「明確な差」がありました。適切な行き先さえ示せば、若手もきちんと成約がとれるとわかりました。

この他、現場からは次のようなコメントがありました。

  • ○見込み先に電話して顕著な反応があったことに、驚きを感じている。
  • ○預金残高が少ない顧客で成約に結びついた案件が、各担当者で複数件あった。これは自分で作成するリストでは得られない功績だと思う。
  • ○リストの中に不定期に来店される方の名前があり、接触したところ成約に至った。残高ベースのリストでは見落としていた先からの契約獲得。大きな気づきになった。
  • ○「当庫に好印象。しかし日中不在のことが多く、営業訪問は断っていた。」「昔、商売をしていた頃、助けてもらった。」などの言葉をいただくことがあった。このように当庫にいい印象を持っていても、日中不在や先入観が原因で訪問しなくなっている先がある。しかし、そこに成約につながりやすいお客さまは必ずいる。リストを活用した訪問、面談の必要性を強く感じた。

以上、実証試験の結果、「KIを使ったデータ分析は現場の営業成績を底上げする力がある」とわかりました。経営層に報告したところ、「取り組みをすべての店舗に拡大せよ」と力強い反応がありました。そして現在、まさに全店舗展開に取り組んでいる最中です。

全店舗展開の推進

全店舗展開はどのように進めているのですか?

まず、全店の支店長を集めた説明会をおこないました。データ分析に営業成績を上げる力があることを成功事例も交え、きっちり説明しました。また全店舗展開にあたっては、データ分析の対象商品をフリーローン、定期預金に限らず、あらゆる金融商品に拡大することも併せて伝えました。

この取り組みにおいて現在、KIにより「顧客別需要リスト」を作成しています。「顧客別需要リスト」とは、「当庫の100万口座の一人ひとりの需要がわかる」ことを理想形とするリストです。

そのリストを見れば、たとえば「Aさんは、今ある商品10種のうち、おそらくこれとこれに関心がある。だから、Aさんと商談するときは、それらの商品を提案すれば、話が進展する可能性が高い。」とわかります。このリストは若手や、異動して間もない職員を商談に向かわせるとき特に有効です。彼らは、「はじめてのお客さまとは、何を話してよいのかわからない」となりがちですが、こうしたリストがあれば、お客さまが求めているものが事前にある程度わかるので、現場で話が組み立てやすくなり、訪問することへの抵抗感が薄れます。

顧客別需要リストは次のような流れで作ります。

  • 1.それぞれの商品について、「それを実際に購入した人」の過去データを分析し、購入者の共通点、傾向、特徴を把握する。
  • 2.特定の顧客Aさまについて、その商品の既存購入者の特徴と、Aさまの特徴を比較する。
  • 3.共通点が多ければ多いほど。「Aさまはその商品に関心を示す」と判断できる。
  • 4.これを全商品、全顧客に対し展開する。

(※いきなり「全顧客」は困難なので、初期段階では顧客をある程度の集団にまとめ、それを分析してもよい)。

顧客別需要リストは、まだ着手したばかりですが、すでに現場職員から「これは役立ちそうだ」と手ごたえある反応を得ています。当庫でのKIによるデータ分析について、まずは軌道に乗ったといえるでしょう。全店舗展開も必ずや成功させます。

KIへの評価

これまで使ってみてわかったKIの良さを教えてください。

やはり、使いやすさ、とっつきやすさは、大きな魅力です。データ分析について素養がない職員でも、スッと使いこなせます。データサイエンティストによる伴走があるのも良い。使いはじめの頃は、KIの使い方以前に、データ分析そのものの勝手をつかめず、停滞しかかった時期もありました。そこを乗り切れたのは、データサイエンティストの助力あってこそのことです。

先行ユーザーからのアドバイス

現在、KIの導入を検討している企業に向けて、先に使っている立場から、何かアドバイスなどあればお聞かせください。

やはり「にじり寄るように、徐々に推進する」ことが重要だと思います。最初は小さく試験運用し、成功事例を作り、それをテコに全社展開していきます。

データ分析は、従来の仕事のやり方を変える性質の施策であり、それに消極的な反応をする人は、少なからず存在します。そこを乗り切るには、やはり小さく始めて徐々に理解を得るのが得策です。

KIは「1年ごとの契約」という仕様なのが良いですね。社内にも「まず1年やってみよう」という形で説明できました。

朝日信用金庫は今後もIT活用を推進し、さらに地域密着、顧客密着を深め、地域に貢献し、お客さまに選ばれる金融機関でありつづける所存です。キーエンスにはそうした当庫の取り組みを、優れた技術、製品、サポートを通じて継続支援いただくことを希望します。今後ともよろしくお願いします。

朝日信用金庫

「部署内、実験店舗、全店舗と徐々に活用範囲を広げています。お客さまとの対面接触が難しくなった分、データ分析を通じて顧客理解を深めていきます」

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