田辺三菱製薬株式会社

田辺三菱製薬株式会社営業本部 マーケティング部 部長 森口 浩一氏、同部 デジタルマーケティンググループ グループマネージャー 竹田 大作氏、飯山 領氏に、KIを導入した経緯とその効果について詳しく聞きました。

「当社ではデジタルマーケティング・プロジェクト『ZEUS』(ゼウス)を推進しています。KIは中核ツールの一つです」

田辺三菱製薬株式会社

田辺三菱製薬株式会社は、主に免疫炎症や糖尿病・腎領域に強みのある、大手製薬会社です。創業1678年の最も歴史ある製薬会社のひとつでもあります。

創業 1678年
年商 3,778億円
従業員数 6,728名

※いずれも2020年度、連結の数字

※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数で記述しています。

デジタルマーケティングの中核ツールの一つとしてKIを活用

田辺三菱製薬では、KIをどう活用していますか?

田辺三菱製薬では2016年より、医師向けの情報提供をDX化するための全社的デジタルマーケティング・プロジェクト、ZEUSを展開しています。KIはデータ分析の中核ツールとして活用しています。

デジタルマーケティングに力を入れている理由

田辺三菱製薬がデジタルマーケティングに注力している背景を教えてください。

大きくは、社会的なデジタル技術の進歩と、私たちの情報を受け取る側である医師のニーズが変化したこと、これがデジタルマーケティングに注力している背景です。かつて医師への情報提供は、MRが対面でおこなっていました。よく言われるのは、病院の廊下でカバンを持ち、医師が来るのを待ち続けるMRの姿です。しかし、こうしたMR像はすでに過去のものとなりました。特にコロナ禍が深刻だった時期、MRが医師に対面で情報提供するのは、一部を除いてほぼ不可能でした。

いま多くの医師が「薬剤に関する情報をネット経由で得ること」を望んでいます。ネット検索、ウェビナー、メールやチャットによる質問、MRとのオンライン面談など、「自分が望む情報を、望む時に、望む形式で、望む量だけ、最小ストレスで受け取れる状態」を求めています。

近年は医師の「働き方改革」も進んでいます。働き方を変え、労働時間を短くする、そのとき情報取得に使う時間と手間を低減しようと考えるのは、当然の帰結です。医療情報を提供する製薬会社は、これら顧客の要望に対応、あるいは先行提案し、医師ひとりひとりに最適化された最高の顧客体験を実現する必要があります。

こうした課題意識に基づき、2016年に、私たちデジタルマーケティンググループが新たに設立され、さらにデジタルマーケティングプロジェクトZEUSも開始しました。

以上が、デジタルマーケティングが必要な大まかな理由です。一方、製薬業界にはデジタルマーケティングの推進する上での「難所」もあります。

製薬業界デジタルマーケティングの難所

「デジタルマーケティング推進の難所」とは具体的には?

最⼤の困難は「施策が成約につながる瞬間(コンバージョン)が把握しにくい」という点です。マーケティング施策の成否は、最終的には「それが成約(売上)に貢献したかどうか」で計るべきですが、実は製薬業界では、その「成約の把握」が⾮常に難しいのです。

通常、病院内では、⾃分が何の薬を使うかは、医師個々⼈が決めます。なので製薬会社は、医師ひとりひとりに向けて情報提供します。しかし決定権が医師にあったとしても、薬の購買そのものをおこなうのは病院です。このとき、私たちからは、マーケティングや情報提供の活動を通じて接してきた、個々の医師の姿は⾒えません。また処⽅箋にもとづき、処⽅薬局が薬を出す場合、病院の姿さえ⾒えなくなります。

こうなるとマーケティングをおこなう側は「⾃分のやっていることが、成約に本当に貢献しているのかどうか、判断できない」「施策の効果判定が困難」という状況に陥ります。

この困難は、データ分析の現場では、「『特定品⽬の売上向上』を⽬的変数(=得たい結果)として設定し、その値を最⾼にする説明変数、特徴値は何かを探ろうにも、肝⼼の『その品⽬が、いつ、どこで、いくつ売れたか』」という基礎情報が⽋けている」、そんな状況を意味します。精密な分析が難しくなります。

このように製薬業界でのデジタルマーケティング推進には困難な点があります。だからといって、これを理由に「そんなあやふやな状態なら、デジタルマーケティングなど無意味だ」という帰結にはなりません。なぜなら、顧客である医師側にデジタルによる情報取得の需要が、確実にあるからです。製薬会社は当然、さまざまな施策を通じてこの需要に対応しなければならない。たしかにその施策の成否を評価、判断するのは難しい。ならば、だからこそ、少ない情報・データを精査、分析し、そこで得た知⾒を、次の顧客体験の改善につなげていく、そうした姿勢が必要です。

コロナ禍で、MRの⾯談が極度に減少した時期も、弊社の業績は前年⽐で⽐較的、堅調でした。その理由の⼀つとして、ZEUSを通じ、デジタルを通じた医師への情報提供経路をあらかじめ複数個、確保していたこと、その貢献があると⾃負しています。

ZEUSプロジェクトの概要

ZEUSプロジェクトの内容を詳しく教えてください。

ZEUSとは大きく、「情報を求める医師側の状況、志向、需要を、各種データの分析を通じて把握し、そこで得た知見を、社内の諸活動に生かしていく」ためのシステムです。ZEUSから得た知見の使い道は多様ですが、本日は「医師への情報提供の改善」に絞ってお話いたします。

2016年、プロジェクト開始当初は、「社内に点在する情報を集約し、それをMRに向けて『可視化』すること」を目指しました。各医院、各医師の状況、課題、切迫度に関する情報を社内外から集め、わかりやすくまとめて、MRを誰もが見えるようにする、そういう「可視化」です。

この「可視化」は一定の効果を上げました。しかし情報が「見えている」状態に留まっていては、活用度が属人化してしまう。つまり、情報をどんどん使うカンのいいMRと、そうでないMRの間で差が生じます。

これを踏まえ、「可視化」だけでなく、「示唆化」もおこなうべきだと考えるようになりました。「情報を見せます。使いこなしはご自由に」という従来のあり方から、もう一歩踏み込む。今ある情報を分析・知見化し、「顧客体験に向けた成功確率を高めるため、この医師、この病院に、このように働きかけてはどうでしょうか」と、MRに示唆、行動をレコメンド(推奨)するということです。この発想を具現化すべく、ZEUS NEXTを構築しました。

ZEUS NEXTの概要

ZEUS NEXTでは、どのように情報をレコメンドするのですか?

大きくは「仮説を基にしたレコメンド(ルールベース)」「データ分析を基にしたレコメンド」の2通りがあります。

「仮説を基にしたレコメンド(ルールベース)」では、こうなればこうだろうという仮説を基に、MRにレコメンドするルールを設定します。たとえば、自社サイトに設置した製品Aの動画コンテンツのうち3本を1か月で視聴していれば、好反応と判断し、MRに向け、その医師への働きかけ強化を推奨する、そうした「仮説を基に、ルールを設定する」方法です。

一方、「データ分析を基にしたレコメンド」では、結果(=データ)から始めて、「結果をもたらす規則」を導出します。今ここに「(理由はわからないがとにかく)上手くいった、結果が出た、MR/製品、医師/病院」があるとします。ではなぜ良い結果が出たのか、関連するデータを分析し、特徴値を導出する。これにより「好結果が出るMR /製品、医師/病院はここが違う」という「結果につながる『違い』」を知見として得て、それを「こう動けば、高確率で良い結果につながります。こう動いてはどうでしょう」という形でMRに行動をレコメンド(推奨)する、そうした方法です。

前者の「仮説を基にしたレコメンド」は、比較的早い時期に確立できました。しかし、後者の「データ分析を基にしたレコメンドの仕組みづくり」はなかなか軌道に乗りませんでした。

専門家にデータ分析を依頼することが、上手くいかなかった理由

「データ分析指向の仕組みづくりが軌道に乗らなかった」とは具体的には?

当初は、外部企業をはじめ「データ分析の専門家」に分析を依頼しました。それなりに成果はでたものの、どうも上手くいかない。違和感がある。それは「根拠がわからない」「(正確かもしれないが)遅い/小回りが効きづらい」「詳しすぎる」という感覚でした。

まず「根拠がわからない」について。なんらかのデータ分析を外部に依頼し、結果がかえってくる。しかし、なぜその分析結果に至ったかのプロセス、理由の部分が、わからない。説明を受けても、難解すぎて消化できない。だから納得して行動できない。MRから、「その示唆の根拠は何?」と聞かれたときも、明確な回答ができない。いわゆるブラックボックスです。これでは「MRへの行動推奨」がうまくいきません。

次に「(正しいかもしれないが)遅い/小回りが効きづらい」という点も困りました。外部に依頼すると、分析結果が返るのが、数週間後、時には3か月後になってしまう。マーケティングの現場は状況の変化に応じ、次々、打ち手を変えていく、「走りながら考える現場」です。一方、解析の専門家は「分析品質、正確性が第一」という姿勢であり、時間がかかる。分析結果に違和感を感じて、再分析を依頼しても、結果がわかるのはさらに数週間後。これはマーケティング現場のPDCA速度に合いません。

最後の「詳しすぎる」について。営業マーケティングでのデータ分析は、研究開発などの分野と異なり、厳密性、正確性が最優先ではありません。比喩でいえば、東西南北の選択肢があったとして、最初は「南だけはありえない」ぐらいがわかるだけでも効率は大きく変わります。そうすれば次に「とりあえず南以外のどこかにいく。その後、またデータ分析して東西北のどれがいちばん良いか考える」のようにPDCAが回せます。一方、専門家に分析を依頼すると、「南南西75度から東南東23度の間で、不成功が発生する確率は、次にあげる3つの条件を同時に満たした場合、64%」のような形になります。それが「正しい」分析であることはわかる。でも正直、そこまで正しさを求めていない。だいたいの傾向が早くわかる方がいい。精度より仮説と検証の高速性が重要、ということです。

とはいえ、ここまで述べた「(高度すぎて)根拠が理解できない、(正しいかもしれないが)遅い、(素人にとっては)内容が詳しすぎる」という違和感はすべて、分析の専門家がプロの仕事をしている結果、生じていることです。だから彼らに向け、「大体の内容でいいから、もっと早く」など求めるのは適切でない。では、どうするか。これはもう、自分でやるしかない、そう感じました。KIの存在を知ったのは、そんなときです。まずはデモを見てみることにしました。

KI導入の過程

デモを見ての感想はいかがでしたか。

最初は、正直、大きくは期待していませんでした。しかしデモを見すすめるうち、「これは今までと違う」と感じました。データ分析ツールについては、KI以前にいくつかデモを見ましたが、いずれも「性能が良いのはわかる。しかし専門技術者向けの製品であり、マーケッターの自分たちが使いこなしていくイメージがつかめない」という印象でした。一方、KIはインターフェースひとつとっても「すぐ使いたくなる」仕様でした。これは良いと確信し、社内で起案し、導入に至りました。

以来、KIはZEUS NEXTでのデータ分析の中核ツールとして、半年以上、使い続けています。

半年使ってみての評価

KIの、「使ってみてわかった評価」をお聞かせください。

次のとおりです。

  • 1.「自分の分析は自分でやり切る」体制が確立できた。
  • 2.デモと実際の使い勝手にギャップを感じない。
  • 3.MRに分析の根拠を自分の言葉で説明できる。
  • 4.社内のデータ分析部門と分析内容を簡単に共有できる。
  • 5.ETLツール(データ前処理ツール)としても使える。
  • 6.オリジナルのEラーニングが充実している。

まず「自分の分析は自分でやり切る」について。KIは、グループメンバーのほぼ全員が直接、操作して使っています。各人は、それぞれ疾患領域ごと製品ごとに自分の担当を持っています。みな「自分の担当領域の分析は、自分でササッとやる」という方式であり、ストレスがありません。

そんな体制が確立できたのは、やはりKIが、操作性の良い、簡単に使えるツールだからです。デモのとき思った「簡単そうだ」という印象は、今も変わらず感じます。デモと実際にギャップを感じません。

自分でやっているので、分析の中身もよく理解できます。MRに「この分析はなぜこうなのか」と問われたときも、自分の言葉で説明できます。これは専門家任せでは、できないことです。

KIについては、導入前に、社内のデータ分析部門による精査がおこなわれました。弊社は製薬会社なので、新薬の開発・申請に必要なデータを分析するデータサイエンティストの専門部署があります。KIのデモのときも、データ分析部署の社員が同席しました。KI導入後も、私たちマーケティング部の分析作業を、直接KIを通じて共有しているので、都度アドバイスをもらっています。彼らが、私たちの分析状況が気になったとき、いつでも自分のPCから、私たちの分析内容を見ることができる、このKIの仕様はとても役立っています。

この他、最近は、分析前のデータの整形・加工・統合も、KIを使っておこなっています。以前はExcelで時間をかけていましたが、KIはETLツールとしても優秀です。

KIはとても使いやすいツールですが、それでも導入前は正直、「分析のプロでは無い自分たちで本当に使いこなせるだろうか」と一抹の不安がありました。しかしKIは、データサイエンティストによる伴走サポートや、特にWeb上のEラーニング「KIサクセスサイト」が非常に充実しています。疑問が生じるたび動画を見たりコンテンツを確認することで、都度、解決していき、気が付けばメンバー全員がKIを円滑に使えるようになっていました。

今後の期待

キーエンスへの今後の期待をお聞かせください。

いまMRが医師に会える機会は減少傾向にあります。だからこそ、面談機会を最高の顧客体験とするためにも、データ分析による知見や示唆を通じ、MRを後方支援したい、そう考えています。

田辺三菱製薬は、良い薬の開発と情報提供を通じ、日本の医療に貢献していく所存です。今後もキーエンスにはそうした弊社の取り組みを優れた技術、製品、サポートを通じて支援いただきたいと考えています。

田辺三菱製薬株式会社

「当社ではデジタルマーケティング・プロジェクト『ZEUS』(ゼウス)を推進しています。KIは中核ツールの一つです」

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